70.「お兄様。こちらです」
5/6(月)祝日
連休最後の日。イモたちと自宅ダンジョンでたくさんのモンスターを退治した。
■SSR+ 暗黒魔導士改 LV29 1↑UP
・スキル:暗黒の霧+(五感異常、全能力減少、毒、腐食、魔力減少蒸発、恐怖、麻痺、睡眠、混乱、放心、封印、全属性耐性減少、猛毒、呪い)
呪い(New)HP回復不可能となる
・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃:暗黒熟練
・EXスキル:プリンボディ:鋭利歯:偽装:牛パワー:赤外線感知
5/7(火)
長かったゴールデンウイークも終わり、今日から学校が再開される。
「ういーっす」
「おはよー」
「ちょー久しぶりー」
久しぶりの再会にクラスメイトの声も弾む中、俺はそそくさ自分の席に着くと授業に備えた準備をする。
「城っちー。おはー」
そんな俺の肩を叩く能天気な声。誰かと思えばクラスメイトの佐迫さん。
「どしたの城っち。やっぱ連休終わったしぃ、元気もなくなるって感じ?」
脅威の10連休により、今年の授業は進みが遅れている。塾に通っている連中は関係ないだろうが、大学への特待推薦を狙う俺には死活問題。ういーっすなど、のん気している場合にないのである。
「えー? うちらまだ高2っしょ? そんな先の話どうでも良いって感じ?」
そう言って俺の肩をバシバシ叩く佐迫さん。
1年先とはいうが勉強は日々の積み重ね。なぜに余裕なのか? もしかして勉強が得意なのか? いや。そもそもが俺と佐迫さん。このように親しく話す間柄ではなかったはずだが……
「えー? うちら一緒にダンジョン行ったんだしぃ、むっちゃ親しいっしょ。もう戦友って感じ?」
戦友というのであれば、うちのクラスにはそのメンバー全員が揃っている。わざわざ俺に話しかける必要もないわけだが……よくよく考えれば俺と佐迫さんは隣同士の席であった。
「大学なんてどこでも一緒っしょ? うち剣士だしぃ? 勉強しなくてもダンジョンで食べていけるって感じー?」
佐迫さんは探索者を目指しているのか?
「なんかモンスターを斬るの面白くなってきたって感じ?」
言われてみればモンスターに臆さず斬りかかっていたな……にしても、斬るのが面白いって……スケ番的な素質でも持っていたのだろうか?
「それでさぁうちって剣士っしょ? いつまでも包丁じゃおかしいって感じ? なんか木刀でも買おうかなーって感じなんだけどぉ城っちどう思う?」
そう身振り手振り。剣道のつもりなのか、隣で座る俺の前で剣を振るしぐさを真似てみせる佐迫さん。
うむむ……本来は授業に備えた予習でもしておきたいところだが……我らが公立高校は衣替えの準備期間。半袖ブラウスの佐迫さんの胸はユサユサ、袖口から脇がチラチラ見え隠れ……そういうことであれば予習などしている場合でない。
「お、おほん。そうだなあ……木刀よりも鉄パイプとかの方が固くて良いんじゃないかな?」
「えー? 鉄パイプってダサイっしょ?」
「いやいや。似たようなものなのでは?」
どうせ自宅ダンジョンでお金を稼げば、特待推薦の授業費免除など、どうでも良くなる。
ガラガラ
「おーし。お前ら席に着けーHRはじめっぞー」
どうやら担任の到着。クラスメイト全員が席に着いた。と思いきや空白の席が1つ。誰か休みだろうか?
「助田は休みだ。親御さんから連絡があった」
助田が? つい先日ダンジョンで会った時は元気そうに見えたが……
「えー。助っっち休みってどうしたんだろ?」
季節の変わり目。風邪でも引いたか? まあ野郎が休んだところでどうでも良い。
その後、授業も終わり放課後。
俺は鞄を手にそそくさ学校を後にする。
その足で向かうのは、イモの通う中学校。
海外旅行の話。どうするか悩んだが……結局イモも一緒に海外に行くこととなった。
何せ初めての海外。
伝え聞くところによれば、海外は市民の大半が銃を持ち歩き、何かあれば即ぶっ放すような連中がウヨウヨいるという危険地帯。
俺のようなイケメンスレンダー美少年が1人うろつこうものなら、即座に暗がりに連れ込まれ、口には銃を、ケツには巨棒を突っ込まれるのが落ちである。
それを言うなら、美少女天使であるイモを連れ歩く方がよほど危険なのだが……
「お兄様。こちらです」
前方。校門前で片手を上げる美少女の元へ俺は駆け寄った。
「イモ。待ったか?」
「いいえ。時間通りです。お兄様」
しかし、まあ、合流できないと困るため、分かりやすい場所で待ち合わせるとは言ったが……中学の校門前、無関係である高校生が訪れたのでは目立ちすぎる。
下校途中であろう生徒の目線がチラチラ注がれていた。
「あ。イモちゃんのお兄さん」
「はひー。お噂どおりイモ様に似てお美しいです」
「ふひー。あ、あく、握手してください」
イモの周囲には3名の女生徒が付き従っていた。
1人は近所に住む林檎ちゃん。イモの同級生で何度か顔を合わせたことがあるため知っている。残る2人も同じクラスメイトなのだろう。
「イモのお友達かな? イモがいつもお世話になってます」
せっかくなので差し出された手を握る。
「は、はひー。こ、こ、こちらこそ」
「ふ、ふひー。や、や、やわらかい」
何か過呼吸なのだが……大丈夫なのか? イモのお友達は。
「気にしないでください。私はお兄様と用事がありますので、これで失礼します。みなさん、ごきげんよう」
イモは俺を引っ張り、腕を組み歩き出す。
「は、はひー。ごきげんようです」
「イモちゃん。また明日ね」
手を振るお友達を後に、俺とイモは校門前を離れるが……
「ひそひそ。見ろよ。妹子さんだ」
「ふひひ。あ、相変わらず美しいって、男が一緒に?」
「お、俺らの妹子さんが、お、お、男と腕を……」
「隣の男だれやろ? えらいイケメンやけど」
「クソビッチが。やっぱイケメンがええのか」
腕を組んで歩く俺たちを見て、下校中の生徒がひそひそ話す声が聞こえる。
うーむ……イモのやつ。学校で人気があるようだ。
「お兄様もイケメンですから人気あるんじゃないですか?」
確かに俺は自他共に認めるイケメン。
母も妹も美人であり、クソ親父もナンバー1ホストであったというのだから、必然的に俺もイケメンになろうというもの。
「まあ、ボチボチ?」
今日は珍しくクラスの女子と話をしたが、以前の俺は学校では勉強、放課後はアルバイトに精を出していため親密な交流はない。
「しかし……学校でのイモはイメージが変わるな」
自宅でのイモは末っ子にふさわしく甘えん坊のイメージなのが……学校ではずいぶん大人びて見える。
「それはそうです。私、学校では猫を被っていますから」
いつまでも子供のままではいられない。社会に出れば、大人びて見せねばならない時もあるわけだ。実際、今のイモは俺よりよほどしっかりして見える。
「でも、今はおにいちゃんと2人だから被らなくて良いよねー」
途端。ふにゃあとイモが俺にもたれかかる。
「待て待て。まだ早い。これからパスポートセンターに行くのだぞ?」
「そっかー。それじゃ……お兄様、急ぎましょう。平日の窓口は閉じるのが早いと聞きます」
パッと身体を離すと俺の先を歩くイモ。コツコツと足音まで違って聞こえるのだから大したものである。
「しかし……本当にイモも海外に行くのか? 危険だぞ?」
振り向いたイモが真面目な顔で口を開く。
「アイ キャン スピーク イングリッシュ。ハウ アバウト ユー?(私は英語を話せます。貴方はどうですか?)」
「オウ。ア、アイ、あー……うう……イモ。英語の出来ない、ふがいないお兄ちゃんを助けてくれ」
海外旅行するのであれば英語は必須。しかしながら誰にも苦手分野が存在するように、完璧超人である俺にも不得意な科目が存在する……それが英語だ。
残念ながら俺の英語力は小学生レベル。イモの助けがなければ空港を出ることもかなわないわけで……それが海外旅行にイモを同行させる理由である。
「任せてください。お兄様の苦手分野は私がカバーします」
その後、俺とイモはパスポートセンターで申請書を受け取り帰宅した。




