7.帰宅
探索者カードを通してフラッパーゲートを通り抜け、俺は1階ロビーに戻って来た。
「あ。お帰りなさい。城さん大丈夫だった? って血が出てるじゃない」
1階ロビーに戻った俺の姿を、受付おばさんが目ざとく見つける。
新人ながらに凄いところを見せて驚かせるつもりが……怪我をして驚かせることになるとは無念である。
「大丈夫です。舐めておけば治りますから」
咬まれたといっても、たかがネズミ相手の傷。
少し血が出たくらいで大騒ぎしないでほしいものだ。
「舐めて治るわけないでしょ。モンスターに咬まれた傷から病気になったらどうするの」
マジかよ?!
いや、確かにネズミ獣は汚らわしいドブネズミのようなモンスター……可能性はある。
なんてことだ。ネズミに噛まれて死んだのでは末代までの恥。そもそもが死んだのでは、俺の葬儀代などでますます出費がかさむではないか。となれば母はエロエロコースまっしぐら。なんとしても死ぬわけにはいかない。
「養殖場でポーションを買わなかったんですか? ほら。そこのショップでもポーションを売っていますから」
駆け込むショップの店先で、ガラスケースに陳列されたポーションを見つけた。
E級ポーション:1万円:擦り傷、打ち身に効果あり。
D級ポーション:10万円:裂傷、捻挫に効果あり。
C級ポーション:100万円:重度の裂傷、骨折などに効果あり。
B級ポーション:1000万円:内臓損傷などに効果あり。
B級からE級まで種類があるのか……しかし高い。が、背に腹は代えられない。
「まいどありー」
貴重な1万円札と引き換えに一番安いE級ポーションを購入した。
つい勢いで購入したが、擦り傷なら普通に薬局で消毒液を買った方が良かったような……まあ良い。噂に聞くポーションの効能を試す良い機会である。
なになに、患部に塗布してください。か……
ぬりぬり……おお!
見る見るうちに傷がふさがり、あっという間に怪我する前に元どおり。完治である。
なるほど……高くても売れるわけだ。
攻略読本によれば、最弱モンスターのアメーバ獣やネズミ獣であっても、1000匹に1匹はE級ポーションを落とすという。
アメーバ獣なら俺でも楽勝。ネズミ獣も今日は不覚をとったが、あれは油断しただけだからノーカン。次は楽勝間違いないだろう。
やれやれ。いきなり怪我するわ1万円の赤字だわでどうなることかと思ったが、これなら十分に稼げそうである。明日は日曜日。朝から晩までモンスター養殖場でアメーバ獣をつついてギフトを手に入れてやるとしよう。
半分以上が残ったポーションの蓋を閉め、俺は品川ダンジョンを後にした。