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68.残念ではあるが……それでこそ信頼できるというもの。

「賀志子さんは、新しいスキルが欲しいですか?」


「それは当然ですわ」


EXスキルを習得できる黄金肉。

大金を出しても欲しいと思う人はいるだろう。


問題は、欲しいという人に対して、俺が直接に売ることはできない点にある。


魔石も肉も。ダンジョンにおける拾得物は全て日本ダンジョン協会が管理しており、正規のルートを外れての商取引は禁じられている。未知の遺跡からの出土品。検査もなしに市場へ流すのは危険であるというのがその理由。


つまり、俺が黄金肉を売却するべき窓口はダンジョン協会ただ1つ。

無償で譲るならともかく、賀志子さんへ直接に売ることは違反となる。


近年まで日本にあった食糧管理制度を思わせるこのルール。

主食である米を政府が管理。個人間での流通には厳しい制限があったわけだが……正規ルートを外れて取引される米が存在した。いわゆるヤミ米である。


「仮にそれが違法な手段だとしたら……賀志子さんはどうします?」


ヤミ米ならぬヤミ肉として協会を通さず取引する。

むろん確定申告もできず脱税にもつながるこの話。


もしも賀志子さんが受けるのであれば、話は早い。


自宅ダンジョンから採れる黄金肉。

以降は賀志子さんを通して、父親である市議会議員のツテを利用して非合法に売りさばくことが可能となるわけだが……


「城さん。冗談も度を過ぎますと冗談でなくなりますわよ? 議員の娘であるわたくしが法を犯したなら、父がどうなるか分かりますでしょう?」


「すみません。そうですよね」


残念ではあるが……それでこそ信頼できるというもの。


欲に釣られて平気で法を破る人物であれば。

いずれ己の欲に従い人を裏切るものである。


その場限りで使い捨てるならともかく、長期にわたり取引するには信頼できる相手でなければ務まらない。



途中に休憩も挟んで4時間。


「城さん。今日はありがとうございますわ」


「賀志子さんも、おつかれさまです」


合計9匹のモンスターを退治して得たのは4500円。


「それじゃ俺が6割でも良いかな?」


「? 付き合ってもらったのですから全部お譲りしますわよ」


そうは言っても、全部のモンスターに止めを差したのは賀志子さんである。

俺はたまに暗黒魔弾を撃つだけ。これで全部を持っていくのは気がひけるというもの。


「構いませんわよ。城さんは立っていてくれるだけでも。おかげでこの前のような人が寄ってきませんもの」


まあ、言われてみればそうか。

それに相手は市議会議員の娘。お金持ちであろうからしてこれ以上の遠慮は必要ない。

俺は全額4500円を受け取り賀志子さんと別れた。


その後、俺は1人で地下2階をぶらぶら。途中ハイエナ獣を1匹退治した1時間後。再び受付に戻り自宅から持ち出した魔石を売却する。


「はいっす。今日の売り上げは……3万円っす」


3861万2821位 → 3725万3763位:城弾正


さて。問題はここからだ。

賀志子さんを利用しての黄金肉売却に失敗した今、国内で黄金肉を売却するには、ダンジョン協会の窓口しかないわけだが。


「あの。すみません。これも一緒に拾ったんですけど?」


俺は懐から黄金ネズミ肉を取り出しカウンターに置いた。


「なんすかこれ? ネズミ獣の肉みたいっすけど……黄金色っすね?」


「黄金ネズミ獣の肉ですけど、買い取りはいくらくらいになりますかね?」


「マジっすか!? 黄金モンスターを倒したんすか! 凄いっす。おめでとうっす」


報告例が少ないとはいえ黄金モンスターは攻略読本にも載るわけで、ダンジョン協会職員であれば当然に知っている。


ただし、黄金モンスターの肉についての記述はないため、はたして買い取りがどうなるのかだが……


「初めて見るっすからねえ……でも、肉が金色になったからって値段は変わらないんじゃないっすかね? たぶん100円っす」


黄金肉の効能。EXスキルを習得できると知らないなら無理もない……買取金額に不満の場合はオークションを希望することも出来るが


「すみません。それじゃ売るのはやめておきます」


「そっすね。記念に自分で食べるのが良いと思うっす」


黄金肉をリュックに戻す俺を見て、職員が声かける。


「そういえば黄金魔石は落ちなかったっすか? 通常の1000倍で買い取りできるっすよ」


レアドロップであるモンスター肉と異なり、魔石のドロップ率は100パーセント。買い取り実績があるのか価格が設定されているようだ。


それならと、俺は懐から黄金魔石をカウンターに取り出した。


「これなら50万円の買い取りっす!」


高価には高価だが、一攫千金とまではいかない価格。

それでも当座の資金は確保できた。


3725万3763位 → 2687万2832位:城弾正





自宅に帰った俺は真っ先に自宅ダンジョン地下1階。

モンスターゲートの部屋へ移動した後、【別暗黒門へ転送】を試してみる。


─転送先の暗黒門を選んでください。

・黄金ダンジョン地下1階その2

・品川ダンジョン地下1階その1


決まりだな。

モンスターゲートを使えば、異なるダンジョンへも転送が可能となる。


よくよく考えれば、モンスターはどこだか分からない別世界から転送されてくるもの。それを考えれば同じ地球。別ダンジョンへの転送など屁でもないわけで……例え転送先が海外であっても同じだろう。


元々が黄金肉の売却。

国内、ダンジョン協会を通じての売却が難しいことは、あらかじめ予想していたこと。


まさか普通肉と同額での買い取りとは思わなかったが……仮に高額で売れたとしても、2個3個と続けて売ること自体が無理である。


どこでそれだけの黄金肉を手に入れたのか?

自宅ダンジョン抜きでの説明は無理となるからだ。


では、黄金肉をどのように売却するか?


日本では、ダンジョン内での拾得物は全てダンジョン協会を通してのみ、売買が許可されている。


つまり日本を離れて。海外で取引するならば、ダンジョン協会を通さず直接の取引が可能ということ。


そして、モンスターゲート間の転送により海外での行動に支障のなくなった今。いよいよ本格的に黄金肉売却に動く時である。


「にゃーん」


声に気づけば、いつの間にかニャン太郎が俺の裾を引っ張っていた。


なんだ? イモではなく俺に寄って来るとは珍しいな。


「にゃーん」


俺の背負うリュックを見て何やら訴えるように見えるが……


お腹でも空いたのだろうか?

俺のリュックに何か入っていたか?


地面に降ろしたリュックをゴソゴソ。

中にあるのはダンジョン協会で売却を断念した黄金ネズミ肉。


「にゃーん」


なるほど。これが目当てか。


現在のニャンちゃんは4匹。

うち3匹は黄金ネズミ肉を食べているが、新人ニャンちゃんの1匹は食べていない。


「はい。それじゃこれ。みんなで食べてくれ」


俺の手から黄金ネズミ肉を口にくわえて、ニャン太郎は去って行った。


お金を手に入れるのに黄金肉は必要。

しかし、ダンジョン魔力を溜めることで黄金モンスターの召喚が可能となったのだから、まずはニャンちゃん軍団の強化が優先である。



・新人ニャンちゃんはEXスキル鋭利歯を習得した。

・ニャンちゃん3匹のEXスキル鋭利歯が強化された。





「みんな。おつかれさま」


「あ。チーフ。おつかれさまっす」


20時を過ぎたころ。受付チーフが夜間の交代要員とともに受付カウンターに顔を出していた。


「今日は何も問題はなかったかしら?」


「はいっす。って、そういえば、ほら。黄金魔石っすよ」


受付女性は黄金色に輝く魔石を乗せて見せた。


「へー。黄金モンスターに遭遇した人が出たの! 凄いわ」


「はいっす。自分は見るの初めてでビックリしたっす」


「そうね。滅多にあることじゃありませんからね」


「そうそう。同時に黄金肉も落ちたそうっすよ」


「へ?! へえ……珍しいことがあるものね。そ、それで、その黄金肉はどこに?」


「ないっすよ?」


「なんですって!?」


ビターン。突然にチーフは机に両手を叩きつけるように問いただしていた。


「ど、どうして?」


「どうしても何も黄金肉は買い取り一覧表に無いっすから。普通の肉と同じ買い取りだって伝えたら、自分で食べるって持って帰ったっす」


モンスター肉のドロップ確率は、おおよそ10パーセント。

国内で過去に運よく黄金モンスターに遭遇した者も、ドロップしたのは黄金魔石のみであったため、黄金肉の買い取り事例は存在せず、買い取り一覧表にも記されていない。


「そんな……茶位帝国に横流せば1億円なのに……」


いったい何が理由でそれだけの金額になるのか? その理由は知らないが、チーフにとってはお金になるという理由だけで十分である。


「え? 何か言ったっすか?」


「い、いえ。何も。それで誰が黄金肉を持ち込んだの?」


「誰だったすっかね? 名前は忘れたっすけど、ほら。この前にオリジン国の大使と一緒にいた少年っす」


「城 弾正……あのガキが?」


ただのRギフトの傭兵。そのはずが……やはり何かあるのか? だとしても、すでに茶位帝国には報告済みの案件。これ以上に自分が口を挟むことではなかった。

チーフにとっては、ただ国内の情報を横流してお金を貰うだけ。ただの小遣い稼ぎにすぎないのだから。

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