64.俺が点数を付けるなら10点満点中の100点である。
地下1階通路を進み、目指すのは別のモンスターゲート。
登録したモンスターゲート同士で転送が可能かどうかを試すわけだが……
地下1階を移動するかたわら、洞窟内のあちこちに散らばる魔石が目に入る。
それも当然。誰も魔石を回収していないのだ。
基本。俺がダンジョンに居る間は、常に地下1階を暗黒の霧で閉ざしている。現れたモンスターは次々に死んでいき、稀に落ちるお肉はニャンちゃんが回収するも、魔石はそのまま。
当初は俺が1個づつ拾い集めていたが、今、地下1階に落ちる魔石は1000個を超えている。とても拾いきれないうえ、全部を売りに持ち込んでも騒ぎとなるだけとあって絶賛放置中である。
ふと地面に散らばる魔石の1個に目が止まる。
暗黒の霧により死んだ黄金モンスターが落としたのだろう。
黄金色に輝く魔石。
黄金モンスターは黄金色の魔石を残して消滅する。
これまでもいくつか回収しているが、売りに持ち込み騒ぎになるのも困るため自宅に保管している。
「あっ!?」
拾おうとする俺の目の前で。
黄金魔石はダンジョンの床に吸い込まれ消えて行った。
長時間、おそらく一昼夜は放置したのが原因か?
黄金魔石だけではない。
他の魔石もダンジョンの床に吸い込まれ消えていく。
普通は落ちた魔石はその場で回収するもの。
仮に拾わなかった場合も、一昼夜も放置した魔石が消えてなくなろうが他人が拾ったと思うだけ。まさかダンジョンに吸収されたとは思わない。
ダンジョン発生から3年。
まだまだ未知の発見があるというわけだ。
そうして地下1階。別のモンスターゲートに辿り着いた俺は、さっそく手を触れる。
─暗黒門を登録しました。
─黄金ダンジョン地下1階その2
─LV20登録済み(城)
─現在、自動転送モードで運転中
─現在のステータス:転送中
─対象数:アメーバ獣10
─転送完了まで:あと120秒
─ダンジョン魔力:2146
よし。
これで先ほどのモンスターゲートの部屋へ移動できるか試してみるかと思った俺の目は、ダンジョン魔力の項目に釘付けとなっていた。
─ダンジョン魔力:2146
先ほどのゲートで見た時はダンジョン魔力は1100くらい。正確に覚えてはいないが2000以下なのは間違いないわけで……それがいつの間にか2146と大幅に増えていた。
なぜだ? いったい何が……
ぱっと思い当たる節は1つ。
先ほど起きたダンジョンによる魔石の吸収。
魔石はその名のとおり魔力の塊。
拾わずにおいた魔石がダンジョンに吸収されたその時。
ダンジョン魔力は増えるというわけか?
仮説ではあるが、おそらくは間違いないだろう。
ならばゲート間移動を試すその前に。
【召喚転送を実行】からダンジョン魔力を2000消費して、黄金ネズミ獣の召喚を実行する。
─黄金ダンジョン地下1階その2
─LV20登録済み(城)
─現在、自動転送モードで運転中
─現在のステータス:召喚転送(割り込み実行中)
─対象数:黄金ネズミ獣1
─転送完了まで:あと60秒
─ダンジョン魔力:146
きっかり60秒後。
目の前のモンスターゲートから黄金ネズミ獣が1匹。
ぼよーんと飛び出して来ていた。
チュー
出てきて即、俺に噛みつこうと飛びつく黄金ネズミ獣。
むう。もしかしたら味方となるモンスターを召喚できるかもと思ったが、普通に敵対的。デバフの後でザックリ包丁で始末する。
後に残るのは、黄金ネズミ肉と黄金魔石。
確か黄金魔石の吸収でダンジョン魔力が1000ほど上昇したな。このまま吸収させれば次の黄金モンスターもじきに召喚できるわけだが……ここは回収する。
今すぐ召喚したいわけではないため、吸収させるだけなら普通の魔石で充分だ。
さて。お次はいよいよ【別暗黒門へ転送】を選んでみる。
─転送先の暗黒門を選んでください。
・黄金ダンジョン地下1階その1
これが先ほど登録したモンスターゲートなのだろうが……
中に入ったものは誰も戻って来ないというモンスターゲート。
おそらくは大丈夫と俺の勘は告げているが……万が一があっては後悔することも出来ないわけで。
そうだな……俺は転送先として「黄金ダンジョン地下1階その1」を選択する。
─別暗黒門へ転送を実行
黄金ダンジョン地下1階その1へ接続中。残り30秒。
漆黒の渦に光が走る。
これより30秒間。ゲートが接続されたわけだ。
俺は先ほど拾ったばかりの黄金魔石をモンスターゲートへ投げ入れる。
残り0秒。
漆黒の渦の光はおさまり、ゲートが閉鎖される。
そのまま徒歩で俺は先ほどのモンスターゲート。
黄金ダンジョン地下1階その1へ移動してみれば。
案の定。先ほど放り投げた黄金魔石が1個。
床に転がり落ちていた。
ひとまずゲート間の転送は成功というわけだ。
後の問題は生身の生物が入っても大丈夫かというところだが……そもそもがモンスターが転送されてきているのだから大丈夫だろう。
─別暗黒門へ転送を実行
黄金ダンジョン地下1階その2へ接続中。残り30秒。
再びゲート間転送を実行。
光の走る渦へ俺はまっすぐ侵入する。
闇を抜けた先。俺の身体はモンスターゲートその2の外にあった。
これで生身の転送にも成功したわけだが……暗黒魔導士。
あらためて、とんでもないギフトであると痛感する。
まだ自宅ダンジョン地下1階同士での転送のため、大した意味はないが、この先、地下2階。地下3階と転送先が広がれば、ダンジョン探索において大きなアドバンテージとなる。
さらには……もしも他のダンジョン。品川ダンジョンへの転送も可能であるとするなら……ゴクリ。
命の危険があるモンスターゲートに自分から触れようとする者はいないだけに、他の暗黒魔導士が暗黒熟練スキルの真の力に気づかないのも仕方のない話ではあるが……
暗黒魔導士に9.5点を付けた編集者は大間違い。
俺が点数を付けるなら10点満点中の100点である。




