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58.無敵要塞

「イモー。戻ったぞー」


「おかえりー。なに買って来たのー?」


「まずはこれだ」


当然。俺はダンボールを取り出す。


「そして、買ったわけではないがこれだ」


続いて俺が取り出したのは黒い物体。


「なにこれー?」


忘れもしない。

ダンジョン1階のモンスタードロップ品。


■ゴキ羽:固い薄い軽い


本来であれば羽は柔らかいそうだが、そこは腐ってもモンスター。けっこうな固さがある上に薄くて軽いため、外壁に貼り付けるにピッタリの素材といえよう。


「やっぱりおにいちゃん。これが好きなんだ」


全くもって好きではない。が……これを好む者もいる。


「最後にこれだ」


■イモ虫獣のゴム:弾力、絶縁力に優れたゴム。


まずはイモ虫ゴムを張り付け、その上に羽を張り付ける。

外部からの衝撃を2重構造の外壁で受け止め跳ね返す。


これが無敵要塞の正体である。


「というわけで無敵要塞を完成させよう」


「おー」


ペタペタ。接着剤でゴムを張り付け、羽を張り付ける。

材料は地下1階にいくらでもあり不足することはない。


「やったー。完成だー」


完成と同時。4匹のニャンちゃんは興味津々にニャンちゃんハウスを眺めていた。


「おお? なんかみんな凄く気になってるみたいだぞー?」


それも当然。俺がゴキ羽を使った最後の理由。

それは、住む者を喜ばせる住環境。


ご存じゴキはニャンちゃんの大好物。

その好物を壁一面に貼り付けるのだから───


「にゃん」「にゃー」「にゃーん」「なー」


ニャンちゃん4匹。一斉にハウス内へ飛び込んでいった。


「うあー。凄い、凄いよーおにいちゃん。みんな大喜びだー!」


例えるなら、子供にとってのお菓子の家。喜ばないはずがない。


ついでに3階のハト様ハウスは背面の穴を塞いでおいた。

ハトは3方向を囲まれた空間を好むためである。


「クルッポー」「クゥックゥッ」


そのかいあって、ハト様も大満足の模様。


最後に俺たちは、ニャンちゃんハウスの隣に人間用のダンボールハウスを組み立て完成させる。


「ばんざーい。これでイモたちも一緒にお泊りできるよー」


イモはお泊り禁止であるが、とにかく完成に間違いはない。


とりあえずは住み心地を確認するべく俺はダンボールハウスの中へと入り込む。


ふむふむ。建物の高さは1メートル30センチほど。

縦が1メートル50センチ。横が1メートル。

この微妙な狭さが秘密基地っぽさをかもしだす秘訣である。

少し屈まなければならないが、中では座るか寝るかするだけなので問題はない。


試しに寝転がる。

膝を曲げなければならないのが微妙に不便なくらいか。


床にはイモ虫ゴムを敷いてあるため、マットレスのように柔らかく寝心地抜群。薄暗いこともあって今すぐにも眠れそうな快適空間である。


「クルッポー」


さらには隣の白ハト様が羽をバタつかせるたび、薄いダンボールの壁をとおして治療魔法のおこぼれが入り込む。


癒される……これはマイナスイオンをも上回る癒しの空間。

ここに防衛も休息も可能な完全無欠の要塞。無敵要塞が完成した。


「おにいちゃん。どんな感じー?」


「イモか。お兄ちゃん出るからちょっと待ってくれ」


と言ったにも、すでにイモは入り込んで来ていた。出入口は正面だけのため、出るに出られないではないか。


「おー。ここで寝るのかー! イモも寝るー」


「いや。イモ。このハウスは1人用で……」


答える間もなく寝転がる俺の身体目がけてフライングボディアタックを仕掛けるイモ。


ぐえっ。重い。

いや、天使であるイモが重いわけはない。平気である。


そもそも俺の身体はプリンボディ。ポヨンとイモの身体を小さく跳ね上げる。反動に俺の上から転がり落ちたイモは隣に寝転がっていた。


「うわー。おにいちゃんも柔らかいけど床も柔らかいよー。イモ虫すごいぞー」


よほど気に入ったのか、隣でゴムマットの弾力にポンポン跳ねていた。


しかし……狭いハウス内を跳ねるもので、お互いの身体がぶつかりあう。薄暗い室内。寝転がる2人。柔らかいイモの身体。あまりお兄ちゃんを刺激しないでほしいものである。



「よし。無敵要塞のお披露目といくか!」


時刻はお昼過ぎ。

俺は草原広場を覆っていた暗黒の霧を解除する。


霧の晴れた草原広場。

ダンジョン内とは思えないほど天井は眩しく輝き、どこからか一陣の風が吹きすさぶ。


「お? なんかモンスターが集まって来たよー?」


その風に乗って、辺りに獣の匂いが漂い始めていた。


モンスターの主食は魔素。

魔素さえ食べていれば死ぬことはないが、それだけではない。


俺たちがお菓子やデザートを食べるように、モンスターも嗜好品を求めるもの。


それが人間の肉だったり動物の肉だったりするのだが、地下2階に主に生息するのはウシ獣やイノシシ獣。バッタ獣。


彼らの嗜好品といえば草原広場に生い茂る草や木の実。キノコである。


これまで暗黒の霧に覆われ近づけず我慢していたものが、霧が晴れたことから、草を求めて集まって来たというわけだ。


だが、彼らが嗜好品を口にすることは叶わない。


彼らの前にそびえ立つのは、黒光りする外壁に覆われた2棟の建物。俺用ハウスとニャンちゃんハウスからなる無敵要塞。


「ウモー」

「イノー」

「ハイエナー」

「バッター」

「ヘビー」


ウシ獣。イノシシ獣。ハイエナ獣。バッタ獣。ヘビ獣。

集まるモンスターの数は70匹。まずは目障りな建物を破壊しようと無敵要塞を目がけ押し寄せる。


それが叶わぬ願いとも知らずに。


「総員、迎撃用意」


無敵要塞に詰めるは、最強天才美少年暗黒魔導士+のこの俺。


「おー」


純真可憐美少女妹のイモ。


「クルッポー」


治療魔法を操る神様仏様白ハト様。


「にゃん」「にゃー」「なー」「なおーん」「クゥッ」


おまけで、ネコ4匹とハト1羽。


総勢8名の少数なれど、いずれも一騎当千の豪の者たち。

たかが70匹のモンスターで無敵要塞を落とそうなど。

舐められたものである。


「発動せよ。暗黒の霧。無礼なる連中に闇の絶望を」


晴れ渡る草原を怒涛のごとく漆黒の闇が這い進む。

迫るモンスター全てを包み浸食する暗黒の霧の波。


「ウモも!?」


五感異常。方角を見失いあらぬ方向へ走り出す者。


「イノしし!?」


恐怖。尻尾を縮こまらせて地面にはいつくばる者。


「ハイエナー!?」


麻痺。身体をこわばらせ固まり1歩も動かない者。


「バッタん!?」


睡眠。突如その場に倒れ後続に踏みつけられる者。


「へびー!?」


放心。焦点の合わぬ目で中空を見つめ立ち止る者。


モンスター軍団。その8割が途中で脱落していた。


「チェインライトニング」


イモの左右両手を発した電撃が先頭を走るウシ獣にぶつかり、複数の電光に弾け変わる。細い線となった電光は後に続くモンスター軍団を鎖のように縛り貫いた。


推定10万ボルトの電撃に撃たれ、無敵要塞の手前でモンスターは崩れ落ちていく。


「はい。もひとつおまけに」


続けてイモが右手を天に掲げる。

ダンジョンの中空。暗黒の霧に呑まれ動きを止めるモンスター軍団の頭上に雲が生まれ集まり。


「ドーン」


その右手を振り下ろすと同時。

複数の落雷が続けて地に落ちる。


ゴロゴロ ビシャーン ビシャーン


落雷時の電圧は1億ボルトにも達するという。

哀れ。押し寄せたモンスター軍団。

その全てが紫煙となり消えていった。


「……にゃ」

「……クゥ」


出番のなかったニャンちゃんハトさんは、要塞に戻り寝た。


俺の闇黒の霧とイモの電撃、雷撃を抜けられたその時。

近接戦闘となってからがニャンちゃんたちの出番なわけだが……まあ、そのようなことはそうそう起こらない。


俺とイモの連携ある限り、無敵要塞は無敵である。

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