56.ニャンちゃんハウス
地下1階で走り回る新人ニャンちゃんを拾い上げ、地下2階。草原広場へ俺たちはやって来た。
先に地下2階へ降りたニャンちゃんたちが退治したのだろう。草原広場にモンスターの姿はない。
ハトさん2羽についてもエサを撒き撒き、何とかここまでの誘導に成功している。
「それで、おにいちゃんどうするのー?」
モンスターの沸き出す草原広場で寝泊りする方法。
それは、大勢で草原広場を占拠、要塞化すること。
戦力増加については新たに野良猫1匹。ハトを2羽追加することで条件を満たしている。残る要塞化についてだが……
「言ったろう? ニャンちゃんハウスを作ってやると」
自宅から持ち出したダンボール。
こいつを切り貼りして、ここにニャンちゃんハウスを、モンスターを迎撃するための拠点を建設する。
そうすればニャンちゃんたちも安全に寝泊りできるようになるだろう。
「やったー! イモも。イモも手伝うよー」
イモと2人。あーでもないこーでもないとダンボールを切った貼ったした挙句、ニャンちゃんハウスは完成する。
「ばんざーい! イモ。ニャン太郎たちを呼んで来るねー」
イモは大喜びだが……本当に大丈夫なのだろうか?
ダンボール箱を3段に重ねて、正面と背面に穴を開けただけのショボイハウス。側面にイモが描いたニャンちゃんイラストは可愛いが……しょせんは素人工作。これが限界である。
ひとまずは付近で寝転ぶ新人ニャンちゃんをハウス1階へ放り込む。気に入ってくれると良いのだが……
「クルッポー」「クゥックゥッ」
「お?」
俺が新人ニャンちゃんを捕まえ運ぶ間に、2羽でいちゃいちゃしていたハトさんはニャンちゃんハウスの3階に入り込んでいた。
ハトは高所、なおかつ壁に囲まれた場所を好むという。
うまくニャンちゃんハウスがハトさんの好みにフィットしたようだが……これはチャンスである。
俺は手持ちのハト用エサをニャンちゃんハウス3階にバラ撒いた。
ハトは一度寝床と定めた場所に執着、簡単には移動せず外敵とも戦うという。つまりは、モンスターが襲って来たなら率先して戦ってくれるわけで、何とかこのまま交尾と巣作りまで行ってもらいたいものである。
「戻ったよー」「にゃん」「にゃー」「なー」
早く交尾しないものかとハトさんを見守るうち、イモたちが帰って来たようだ。
「って、あー! イモのニャンちゃんハウスにハトさんがー?!」
「まあまあ。良いではないか。3階建てで1階と2階はニャンちゃん用に空いているのだ。良いではないか」
「うーん……まあいっかー。ニャン太郎どう? 狭いならもう一軒ハウスを建てるよー?」
先にハウス1階へ入る新人ニャンちゃんの元へニャン太郎が入り込む。
「にゃん」
満足したのか自分の顔を舐め始めていた。
「そろそろ母さんも帰っている時間だろう。イモはもう帰ったほうが良い」
「あれ? おにいちゃんはー?」
「俺は今晩はここで泊まる」
ニャンちゃんハウスを守るだけの人員は用意したが、そのうちの1匹と2羽は今日ギフトを獲得したばかりの新人。しばらくは俺が一緒に寝泊りするのが無難というもの。
幸いにして今はゴールデンウイーク。夜更かしをしようが学業に影響はない。
「えー! じゃあイモも泊まるー」
駄目である。無断外泊は禁止である。
「おにいちゃんも無断外泊だよー」
そこは男女の違い、年齢の違いというもの。
女子中学生の無断外泊は認められないが、男子高校生ならOKとなるのが世間の道理。
「ぶーぶー」
「2人とも部屋にいないなら母さんが怪しむだろう? もしも母さんが部屋に来た時はイモにごまかしてもらわねばならない。イモ、頼む」
「ぶー。分かったもん。明日は朝ごはんもってくる」
俺の説得にイモはしぶしぶ部屋へ戻って行った。
さて。ニャンちゃんハウスの守りを固めるとするか。
現在、俺は地下1階を暗黒の霧で満たすのに魔力の大半を使っている。
地下1階の暗黒の霧を解除すれば、地下2階の全域を霧で覆うことも可能であるが……あえて俺はそうしない。
「発動。暗黒の霧。草原広場を暗黒で満たしたまえ」
この草原広場だけを暗黒の霧で満たす。
草原広場のモンスターゲートを出たモンスターは即座にデバフ状態。本来の力は発揮できないわけで、ニャンちゃん達なら簡単に倒せるはずである。
そして、草原広場の外をうろつくモンスターだが、草原広場が暗黒の霧で覆われている所へ、いわばデバフの結界となっている場所へ進んで入って来るモンスターは存在しない。草原広場の外は霧が存在せず安全圏であるのだから、なおさらである。
というわけで寝るとするか。
万が一草原広場のモンスターゲートが暴走、複数のモンスターが一斉に襲って来た場合も、俺は暗黒の霧に触れた存在を感知できる。見張りに立つ必要もない。
残念ながら俺の身体ではニャンちゃんハウスに入れないため、俺はハウス前の草原に転がり眠りについた。
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とある高層ビルの最上階。その一室。
「ただいま戻ったアル」
スリットも眩しい華美な服に身を包んだ少女が室内に入り、ひざまずく。
「ふむ。それで城弾正の調査はどうだったアルか?」
深々とソファーに座る男が少女を促した。
「1週間で2万9000円の稼ぎの理由が分かったアル。あれはパーティメンバーにSSRが居たからアルよ」
「ということは何か? 城弾正はただのRで、SSRのパーティメンバーのおこぼれで稼いでいただけアルか?」
「そうアル。あれはただのカスアル」
「ふむ。なら城とかいう男はどうでも良いか……」
興味を失ったのか。
テーブルのグラスを手に取り、男は回し始めていた。
「SSRの男はどうするアル?」
「SSRか。今さら本国では珍しくもないアルが……」
「でも聖騎士アルよ」
「ほう! それはそれは……」
回すグラスを止め。男は顔を上げる。
「いうまでもない。素体はいくらでも欲しいアルからな」
「分かったアル」
「できればURが欲しいところアルが……さすがに簡単には見つからないアルか。まあ我らの情報網に漏れはない。ただ待つだけアルよ」




