49.ようやく帰宅
「ただいまー」
「おにいちゃん。おかえりー」
品川ダンジョンで2人と別れ自宅に帰り着いた俺を、居間から顔を出したイモが出迎える。
時刻は夕方6時。
イモのことだ。ニャンちゃんたちとまだダンジョンで遊んでいるかと思ったが、もう飽きたのだろうか?
「ニャンちゃんたちはもう帰ったのか?」
帰ったも何もよくよく考えれば彼らは野良猫。
普段はどこで寝泊りしているのやら。
「んー。ニャン太郎たち自宅ダンジョンに住むんだってー」
……なるほど。いちおうは屋内? のダンジョン。野ざらしの屋外で寝泊りするよりはマシという判断か。
「だとしても水はどうする? 飲み水がないと死ぬぞ?」
「それがね。地下2階の奥に芝生が生えて川が流れる場所があったんだ。天井もピカピカ光って不思議なんだよー」
なるほど。ダンジョンは不思議空間。
国内ではまだ確認されていないが、まるで屋外と見紛うようなダンジョンも海外にあるというが……
「ちょっと待った。イモ。1人でそんな奥まで行ったのか?」
「1人じゃなくてニャン太郎たちと4人だもん。大丈夫だよー」
なるほど。屁理屈である。が、事実でもある。
昨日に見たニャンちゃんたちの力なら大丈夫か。
しかし……ダンジョンはモンスターの湧き出る場所。
いくら環境が良くとも無事に眠れるのだろうか……?
「それより。ほら。これ見てー」
イモが手に持ち見せるのは金色に輝く何らかの肉。
「おー。凄いぞ。黄金モンスターを退治したのか? 何の肉だ?」
「ふふーん。黄金コウモリ獣だよー」
さすがはイモ。お手柄である。
コウモリはなかなかに美味いらしく食べる国も多いと聞く。
夕ご飯が楽しみである。
「それで、おにいちゃんの方は? お土産おみやげー」
「ん? ああ。ポーションを買って来たぞ」
「えー。またー?」
またではない。
これまで買っていたのはE級ポーション。
今回のポーションは何とD級である。
「裂傷。捻挫に効果ありだ。凄いだろう?」
鍾乳洞のような自宅ダンジョン。
ゴツゴツした岩場が多く捻挫の恐れが高い。
「捻挫なんて寝てれば治るよ」
確かに安静にしていれば治るが、安静にしなければ治らない。その間、約1ヵ月の稼ぎは0となるわけで、それでは困るのである。
「ぶー。で、おいくらだったの? D級ポーション」
「……10万円」
「1ヵ月の稼ぎより多いよ! 赤字だよ!」
そうかもしれないが、それはこれまでのアルバイトの話。
探索者となってからの俺の稼ぎは、今日を入れてわずか1週間で13万5千円。しかも自宅ダンジョンで集めた魔石はまだまだ残っているのだから、余裕で取り返せるわけだが……いちいち説明するよりも──
「まあまあ。ほら。ポッチーも買って来たから」
「やったー。イモ。ポッチー大好きなんだー」
パクパクパク。受け取ったポッチーをイモはハムスターのようにかじり始める。
やれやれ。お菓子で誤魔化す方が手っ取り早いというものだ。
「ただいま。弾正にイモも帰ってるー?」
「お母さんだー。おかえりー今夜は焼き鳥だよー」
コウモリは鳥類ではなく哺乳類なのだが……まあ良いか。
・EXスキル【超音波】を習得した。
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「次のニュースです。政府によりますと、日本と茶威帝国様の間で争われていたオリジン国ダンジョンのインフラ整備に関する入札は、日本が権利を勝ち取ったと発表されました。あわせて今後は両国の探索者がお互いのダンジョンを出入りできるよう、調整が進んでいるそうです」
「これは日本はがんばりましたよ。オリジン国は軍事政権時代はですね、茶威帝国と親密な関係だったんですよ。今の民主政権に代わってからは日米と関係を強めるようになりましたが、その態度をより鮮明に表明した形となりましたよ」
「けっ。無駄金を使いおってからに。ワシらの税金やぞ? そんな貧乏国に投資する暇があるなら、ワシらに寄こしやがれっての」
「はい。野党だけでなく多くの日本市民からの批判にもかかわらず、政府による強攻採決という暴挙がなされたということです」
「いえ。これは地政学的にも正しい政策ですよ。何せ日本と茶威帝国の中間に位置するのがオリジン国でしてですね。もしもオリジン国に茶威帝国の軍隊が駐留するようになれば、日本にとっても脅威となるわけでしてですよ」
「なんやそれ? 今ワシらはダンジョンのインフラ整備への入札の話をしてるんやぞ? なんで軍隊の話が出てくるねん」
「いえ。茶威帝国のインフラ整備をご存じですか? 軍隊を進めての人海戦術ですよ。すでに茶威帝国はダンジョン開発を口実に周辺諸国へ軍隊を進めたあげくに多数の基地を建設していましてですよ」
「ええやん。日本のヒョロヒョロ役人が行くより、茶位帝国様のお強い軍人さんがぎょうさん来てくれる方がオリジン国も安心やん」
「はい。頼もしいですね。ぜひ日本のダンジョンにも駐留してほしいものですね」
「いえ。自国の軍隊ならともかく他国の軍隊ですよ? もしも何かあればですよ、あっという間に国自体が占領されてしまう危険性がありましてですね」
「何かあればって何やねん? 今の日本やって同じやろ? そこら中に米軍がおるやないけ」
「それはまあそうなのですが、長年の信頼といいますかですね、日米間の取り決めがですね」
「なんやお前? そんなん差別やんか! 言葉に気をつけなアカンぞ!」
「それは……特定の国名をあげての差別発言はちょっと……」
「いえ、その、僕はそういった意味ではなくてですよ? 米国が民主国家であるのに対して茶威帝国は独裁国家でしてですね、その」
「視聴者のみなさまには、お見苦しい発言があり誠に申し訳ございませんでした。当番組としましては茶威共帝国様による他国侵攻よりも、今は政府与党への反社勢力の侵攻を追求していきたいと思います。連日、反社会勢力とのつながりを大々的に取り扱っておりますが本日あらたに贈賄の……」
反社勢力の贈賄で政府与党が大変らしい。




