47.ランキング
その後、特に危なげなく地下1階の買取広間まで帰り着いた俺はさっそく買い取りカウンターへと移動する。
「すみません。買い取りをお願いします」
今日の売却は魔石だけではない。
ゴブリン獣から拾い集めた武器もである。
槍が1本。短剣が2本。剣が2本。杖が1本。
他にも多くの武器が落ちたが、持ち歩くにも限界があるため以上となる。
「アンタ。前衛やりたいなら槍は自分で使えば?」
そうしたいのは山々だが……例え探索者だろうが、街中で刀剣類を持ち歩こうものなら銃刀法違反となる。
そのため、探索者は刀剣類の保管を特別に許可されたダンジョン付随の月極ロッカーを使うわけだが……結構な賃料がかかる上、俺が武器を必要とするのは品川ダンジョンだけではない。
自宅ダンジョン、品川ダンジョン、どちらも同じ武器を使い慣れるのが後々のためであろうことから包丁を使い回している。などと正直にも言えないため──
「俺は包丁マニアなもので……」
「オー。やっぱりボーイはニンジャボーイでしょう」
だから後衛の魔法系ギフトと答えたろうに……
「お客さん。地下3階へ行ってきたんですか? ゴブリン獣の武器はどれもこれも錆びていまして……安くなりますけど良いでしょうか?」
錆びた武器が1本1000円の6本で6000円。
魔石が10万円。占めて10万6000円の売り上げである。
俺1人がこれだけ稼いだのでは不思議に思われるだろうが……俺たちはパーティ。地下3階ならこの程度は普通の稼ぎである。
「パーティでの探索ですね。売却金の分割処理はどうされますか?」
あの2人はお金持ちである。よってその必要はない。
「売却金は俺の総取り。ランキングポイントは分割でお願いします」
ランキンングポイントは売却金の総額で決定される。
通常はパーティで均等に分割するものだが、あえて1人にランキングポイントを集中。広告塔として活用するなど、ある程度は柔軟な運用が可能となっている。
最近露出の目立つダンジョンアイドルなどがその典型だが……俺は他人の功績を奪ってまで目立つつもりはない上に、そもそもが今はまだ目立つ時期ではない。
ダンジョン協会は世界的組織。
もっともその実態はダンジョンに関する情報共有程度に留まり、実際のダンジョン運営は各国独自の権利となっているが……ダンジョンランキングに関しては世界ランキングとして情報共有されている。海外の探索者であっても問題なくポイントを分割できるはずである。
「無理よ。アタシたちは探索者カードを持っていないもの。ランキングに登録はないわ」
「我が国のダンジョン設備はこれからでーす。乞うご期待でしょう」
……だからこそのインフラ整備というわけか。
「えーと。探索者の初回登録は自国で行っていただく必要がございまして、日本国籍のない方は……」
「イエース。だからドロップもランキングも全部ボーイにプレゼントでしょう」
6515万6631位 → 3527万5312位:城弾正
結果、俺のランキングは大幅に上昇した。
……というか、上がりすぎである。
ヤバくないか? 今はまだ目立つ時期ではない。と言ったそばから……他の探索者は何をやっているのか?
「あの。他人のポイントを貰うのもどうかと思いますので……俺の加算ポイントを3分の1にできるでしょうか?」
「え? いえ、その……そういうことは最初に言っていただかないと……えーと……あっ。チーフ!」
困らせるつもりはなかったのだが、結果として困らせてしまったためだろう。受付奥から別の女性が現れ俺に相対する。
「お客様。いくら柔軟に運用できるとはいえ、一度登録を終えたランキングの変更は原則できません」
ダンジョンランキングはネットワークを通じての世界配信。
一度配信したデータを取り消すことは難しいというわけか。
「が……例外処理としてなら可能です」
チーフと呼ばれるだけあって、ランキングを修正できる権限があるようだ。
3527万5312位 → 6515万6631位:城弾正
売却額が3分の1だとずいぶん戻るもんだな……って、魔石売却前の順位に戻っているではないか?!
「例外処理ですから0か100かです。それと今後は魔石の売却前に申請してください」
まるでお固いお役所みたいなことを言う……と、よく考えれば公営ダンジョンだからして相手は公務員。それならば仕方ない。
「だいたい他人に、それも他国の大使に寄生して経験とお金。あまつさえランキング順位まで稼ごうなんて……なんて浅ましい……」
おまけに罵倒がついてくるのはいただけない。
「えーと貴方の名前は……城 弾正。探索者を始めたのは……1週間前ね」
受付の端末を操作するチーフが顔を上げ俺を見つめる。
その瞳が白く輝いていた。
「ふーん……ただの傭兵ね……」
なんだ今の目……もしかして諜報系ギフトか?
確かに受付チーフであれば、諜報系ギフトを持っていても不思議はない。
だとしても、アメフト親父とは別ギフト。
受付チーフは俺の偽装を看破できてない。
「ならもう良いわ。城さん。ランキングは自分の力で上がるもの。若いうちから他人への寄生はやめておきなさい」
チーフは最後に俺をいちべつして受付の奥へ戻って行った。
しかし、随分と簡単にランキングが上がるものだ。たかが10万6000ポイントを稼いだ程度でこれ程に上がるとは。
「えーと。厳密には1ドル1ポイントですから、今の円相場ですと972ポイント前後でしょうね」
……いきなりショボく思えてきたな。
「登録はされても早くに挫折される方が多いですから。本格的に活動されているのは全世界で1000万人くらいと言われています。そこから先はそうそう変動しませんよ」
登録はしたがギフトがNやRなら、その時点で活動をやめる者は多い。ランキング登録総数8000万とはいえ、そのほとんどが張りぼてというわけか……
それでも1000万人は少ない。
世界人口を77億とするなら、SRギフト所有者は7億7000万。SSRギフト所有者は7700万。適齢期の人口を加味しても合計5億人くらいは戦える者がいるはずだが。
「まだ世界ダンジョン協会設立から2年ですよ。設備の整っていない国も多いですし……お金も技術もあってもダンジョン協会に加盟していない国もありますから」
……人口1位、GDP2位のあの国。茶威帝国か。
茶威帝国は国民全員にダンジョンを強制していると聞いたが……そうか。彼らはランキングに登録されていないのか。
「それではボーイ。名残惜しいですが、お別れでしょう」
再び俺の手をつかんで、ぶんぶん振り回すアメフト親父。
やめろ。親父の手を握っても嬉しくも何ともないと言っているだろう。
「華もお別れのシェイクハンドするでしょう」
アメフト親父は華さんを俺の前に引っ張り寄せた。
「……はあ。分かったわ。それじゃね」
金髪美少女探索者である華さんとの握手なら大歓迎である。
嫌々な顔で差し出す手を握りしめ、俺は2人とお別れした。