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42.その3

「あちらのゲートを占拠します」


2人に声を掛けたあと、ゴブリン獣が湧き出すゲートに向けて走り出す。


攻略読本によれば、モンスター退治の基本はモンスターがゲートを現れた瞬間にあるという。

ゲートを現れたすぐを叩くことで、モンスターを自由に行動させることなく倒すのが安全確実な方法だと。


もっともモンスターゲートは、常に暗黒の風が渦巻く危険な存在。うかつに近寄りすぎては、渦に巻かれ、ゲートに吸い込まれ2度と戻って来ることができなくなる。


そのため、ある程度の距離を置いて張り付き、出てくる端からモンスターを退治するのが必勝法。


近づくまでの間もゲートから沸き続けるゴブリン獣。

その数は2、3、4とまだ増える。


シュッ シュッ


走る俺を追い越して2本のナイフがゴブリン獣に突き刺さる。

残り2匹。いや、追加でもう2匹が湧き出したか。


狩場へ来るまでに戦った感じから、1匹が相手なら俺でも戦えるが……同時に4匹を相手どるのは無理である。


まあ、何も俺がまともに4匹と戦う必要はない。


ゲート付近、いよいよ4匹のゴブリン獣と接敵する。

槍、剣、斧、弓それぞれが手に持つ武器はバラバラ。


てっきり俺が走り込んで来るだろうと身構えるゴブリン獣の前で急停止。相手の武器の届かない位置で包丁を眼前に俺は構え立つ。


「ゴブゥ!」


包丁を構えたまま動かない俺に痺れを切らしたか、ゴブリン獣が槍先を突き出した。


その槍先を、俺はさらに後ろに下がり回避する。


今の俺はパーティの盾役。無理に戦う必要はない。

相手の注意を引いて足止めだけすれば良いわけだ。


「ゴブゥ!」


俺にまともに戦う気がないと見てとったゴブリン獣は、槍、剣、斧を手に3匹が一斉に距離を詰め、背後に位置するゴブリン獣が弓を引き絞る。


……これだから知恵のある相手は怖い。


4匹による同時一斉攻撃。

俺でなくても、例え近接戦闘ギフトを持つ探索者であっても、無傷ですまないだろう密度ある攻撃。


だが……判断が遅れたな。


俺は握る左手の平に暗黒の霧を生み出し凝縮する。


シュッ シュッ


再度の空を切る音とともに。

2匹のゴブリン獣にナイフが突き刺さり、それぞれ槍と弓を手落とし息絶える。


相手を倒すのはアタッカーの役割。

時間を稼いだ隙に放たれた華さんの2投目により2匹が倒れ、残るは2匹。


手の平で凝縮した暗黒の霧は、暗黒の水となる。

野球のボール状に固めた暗黒水球を、俺は剣を持つゴブリン獣に投げつけた。


バシャーン


デバフ発動:ゴブリン獣は5感異常。

デバフ発動:ゴブリン獣は攻撃減少。

デバフ発動:ゴブリン獣は防御減少。

デバフ発動:ゴブリン獣は敏捷減少。

デバフ発動:ゴブリン獣は魔攻減少。

デバフ発動:ゴブリン獣は魔防減少。

デバフ発動:ゴブリン獣は毒。

デバフ発動:ゴブリン獣は腐食。

デバフ発動:ゴブリン獣は恐怖。

デバフ発動:ゴブリン獣は魔力減少。

デバフ発動:ゴブリン獣は魔力蒸発。

デバフ発動:ゴブリン獣は麻痺。

デバフ発動:ゴブリン獣は睡眠に抵抗。

デバフ発動:ゴブリン獣は混乱。

デバフ発動:ゴブリン獣は放心。

デバフ発動:ゴブリン獣は封印。


睡眠には抵抗されたが、麻痺、混乱、放心により動きを止める剣持ちゴブリン獣。


都合、俺に襲い掛かるのは斧持ち1匹のみ。

そして、1対1の戦いなら遅れはとらない。


ズドスッ


包丁が胸を貫き、斧が空を切る。


ドカーン


同時、走り込んできたアメフト親父が、動きを止めていた剣持ちゴブリン獣をショルダータックルで弾き飛ばす。


そのまま返す刀で、俺の目の前。

包丁を胸にまだ息のある斧持ちゴブリン獣の首を両断した。


最後に弾き飛ばし地面に転がるゴブリン獣の止めを差すべく移動するが……


「ホワット? タックルだけで、なぜ死んでいるでしょう?」


……そういえばデバフ魔法で防御力が落ちていたな。

まあ乱戦に乗じての1発。バレてはいない。


それにしてもアメフト親父はさすがのパワー。

戦闘系ギフトでないというのが信じられないくらいだ。


「豆腐のように柔らかいでしょう。ミーたちの完勝でーす」


「油断しない。さっそく出て来るわよ」


渦巻き状のゲートに光が走り、モンスターが吐き出される。


「ゴブー!」


シュッ


「ゴブギャー!」


ドカーン


「ゴブギャー!」


ゲートへの張り付きは成功した。

湧き出るゴブリン獣は、アメフト親父の斧。

華さんのナイフにより即座に始末されていく。


ここ品川ダンジョンは公共ダンジョン。

税金によって運営されている公共施設であるため、一握りの探索者が長時間ゲートを占拠することはマナー違反となるが……他の探索者が来るまでは、このまま出てくるモンスターを狩り続けても問題なさそうだ。


とりあえずは盾としての役割はなさそうであるため、俺は俺の別の役割。ドロップ品集めに取りかかる。


ドンドン倒されるゴブリン獣にあわせて、せっせととドロップ品を拾い集めていくが……贅沢を言わせてもらえば、出来ればもう少しゲートを離れた位置でモンスターを退治してほしいところである。


ドロップを拾い集めるにも、ゲートの渦に巻き込まれそうで少し怖い。


そんな俺の目の前でモンスターゲートが激しい光を放ちだす。


なんだ? なにごとだ?


「モンスターゲートの暴走!? たくさん出て来るわよ」


基本的にモンスターゲートからは、一定の間隔で一定の範囲内の数のモンスターが出現する。


例えば10分間隔で4から6匹のモンスターが現れるなどだが……稀にあるモンスターゲートの暴走はこの例外となる。


この激しい光。これが噂に聞くモンスターゲートの暴走か!

よりによって初めての地下3階で当たるとはな。


「わるーい! そっちへゴブリンが行ったぞー!」

「やばいようなら逃げてくれー」


声の方角を見れば、モンスターゲートを現れた10匹のゴブリン獣が、こちらへ走り向かって来るのが見えた。


別パーティは6人の大所帯。

彼らの前のモンスターゲートもまた激しく輝く暴走状態で、今も4匹のゴブリン獣と相対している。


そんな中、追加で現れたゴブリン獣10匹は、敵わないと見たのか俺たち3人の方を与しやすいと見たのか。


いずれにしろ、目の前の6人パーティを無視して溢れたゴブリン獣がこちらに流れて来ようとしていた。


しかも、そのうちの2匹のゴブリン獣は大柄。

あれは……攻略読本にあったゴブリン獣チーフというやつか。ゴブリン獣のリーダー格で一回り上の戦闘力を持つという。


「すまーん! そっちへゴブリンが行ったぞー!」

「わりい。逃げてくれー」


再び上がる声に顔を向ければ、逆方向からも10匹のゴブリン獣が走り向かって来るのが見える。うち1匹が大柄のゴブリン獣チーフ。


「やっべー! こっちのゴブリンもそっちへ行ったわー!」

「おいおいマジかよ? あんたら逃げろー」


おいおい! マジかよはこちらの台詞である。


5人パーティに背を向け、こちらに走り来るのは10匹のゴブリン獣。うち2匹がゴブリン獣チーフ。


つまり、広場内の4つのモンスターゲート全てが同時に暴走。

現れたゴブリン獣30匹は、他のパーティを無視して俺たち3人だけを狙い集まって来るという異常事態。


「ゴブリン獣チーフは悪知恵が働くのよ。まずは合流して数の少ないアタシたちを潰そうって手はずね」


なるほど。各個撃破は戦闘の基本だが……窮地の原因が分かったところで仕方がない。今知りたいのはこの窮地を脱する方法である。

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