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39.食堂の出会い

クラスメイトと別れた時点で時刻はお昼。

午前中が潰れたわけだが、まあ、たまには息抜きも必要。

お昼を終えてから頑張るとしよう。


いったんダンジョンを出た俺は、持参したお弁当を手に探索協会1階の食堂へ向かう。


「ダンジョン牛のステーキを」

「ダンジョン豚の生姜焼き定食で」

「お、おれは、このダンジョン鼠の焼肉定食にしようかな」

「ダンジョン野菜炒め定食でお願いします」


わいわいがやがや。

物珍しいダンジョン産の肉が食べられるとあって、探索協会の食堂はゴールデンウイークの観光客で繁盛していた。


座れないわけではないが混雑は苦手である。

踵を返そうとするところに、声がかけられた。


「ヘイ。ボーイ。こちらでしょう」


非常識な大声を上げるのは誰かと見れば、この間にダンジョンで出会ったアメフト親父。もちろん今はヘルメットを被っていないが、ショルダーパッドによる独特の肩幅は健在である。


どうやら俺を手招きしているようだが……せっかくのお昼をなぜにゴツイ親父と相席せねばならないのか?


「ヘイ。ボーイ。こちらでしょう」


かといって、このまま声を上げ続けるアメフト親父を放置したのでは食堂に迷惑である。


「あの。どうもです」


やむなくアメフト親父の引く椅子に腰かける。


「ボーイは今日も探索でしょうか?」


「ええ。まあ」


何やらアメフト親父が話しかけてくるが……俺の注意は別の場所に向けられていた。


アメフト親父が座る4人用の机。

現在、腰かけるのは3名。アメフト親父と俺。そして、もう1名。金色の髪をした少女が腰かけていた。


「オウ? そういえば紹介がまだでしょう」


染めたような不自然な金色ではない。

ナチュラルな色合いから、おそらくは異国の少女。


「娘のはなでしょう」


……華? あれ? 普通にパツキンヤンキー?


「誰が華よ。アタシはハンナだから」


「ノウノウ。ミーのワイフは日本人なのだから華でしょう」


つまり名付け親は母親というわけか。


「別にどっちでも良いじゃない。アタシだけ変わった名前。からかわれるだけだもの」


異国の人だけに外見から年齢が分かりづらいが……俺と同年代だろうか?


「どうも。城です」


「それはどうも」


にべもない挨拶。あまり歓迎されていないようだ。


場所が食堂だけに2人ともに食事中。

フォークとナイフで食べているのはダンジョン牛のステーキか? 少女にとっては食事を邪魔されたようなもので、愛想が悪くなるのも仕方ない。


「マネーはミーに任せて、ボーイも好きなものを注文するでしょう」


娘の不機嫌をよそに、アメフト親父はニコニコ俺にも食事を勧めていた。


俺にはお弁当があるのだが……その中身はダンジョンネズミ獣の焼肉。ここでお弁当を広げ、どこから材料を調達したのか詮索されるのは避けたい話題である。


「えっと……それじゃダンジョン牛のステーキをお願いします」


それにせっかくお金をだしてくれるというのだ。お弁当は帰ってから食べるとして、プロの調理したダンジョン肉を試させてもらうとしよう。


「オウ。やはりダンジョン牛のステーキは最高でしょう」


目の前でステーキにかぶりつくアメフト親父。魔石を譲ってくれたことといい昼食といい、お金に余裕があるようだ。


俺も届いたステーキにパクついた。

無念であるが……俺が焼いたよりはるかに旨い。ただ焼くだけに見えて、これがプロと素人の差か……


「お昼を終えたらボーイも一緒に探索するでしょう」


ん?


「ちょっと。パパ。どういうこと?」


俺が反応するより早く、華さんがアメフト親父に食ってかかっていた。


「オウ。前に話したでしょう? ダンジョンで助けてもらったボーイ」


「地下2階でウシ獣を相手にしたって話?」


「イエス。その時のボーイが彼でしょう」


確かに手助けはしたが……そこまで大げさな話ではない。ダンジョンで探索者同士が助け合うのは当然なわけで……


「ふうん……アンタが」


じろり。それまでまともに目を合わせることのない華さんだったが、アメフト親父の言葉にその目が俺を見ていた。


「そう。パパが言うなら分かったわ」


いったい全体、俺の何がアメフト親父の琴線に触れたのか?

謎である上に俺は探索に同行するとは一言も言っていないのだが……


「イエース。今日は地下3階にチャレンジでしょう」


話はどんどん進んでおり、今日の目的地は地下3階。攻略読本によれば推奨LVは10以上。危険な場所だと書かれている。


LV20となった俺はともかく、地下2階で怪我しそうになっていたアメフト親父が行くのは危険ではないだろうか?


「地下2階ってウシ獣でしょ? パパもあんなのに苦労するなんてみっともない。アタシが一緒なんだから地下3階でも全然余裕よ」


どうやら華さんは自信ありの模様。

もしかして高LV探索者なのだろうか?


いや。ダンジョン探索許可が満16歳以上となったのはつい先月の話。俺と同年代であれば高LVになりようはないのだが……年齢制限ははあくまで日本の話。異国の事情は異なるため、高LVもありえないことではない。


ただより高い物はないという。すでにダンジョン牛ステーキをご馳走になった上、行く気満々の2人を前にして、断るのも言い出しづらいこの状況。


それなら、いずれ行く予定であった地下3階。高LVの探索者が同行してくれる今が体験するに良い機会である。


そして何よりも……


「あの。お二人は海外の方ですよね? 日本のダンジョンに入っても大丈夫なのですか?」


「ノープロブレム。ミーは特別でしょう」


ちゅうちょなく魔石を譲ったり、食事代を出したり。

アメフト親父はお金に不自由のない身分、お金持ちである。


社会を生きるにはコネが必要。ここで何らかの繋がりを作っておくことは、今後、決して無駄にならないはずである。

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