38.クラスメイトとギフト
クラスメイト全員が受付を済ませて、地下1階へのホールへ降りる。
「おお? なんか頭が痛いやん?」
「うん。きーんとするね」
ゾロゾロ6人のクラスメイトを引き連れ、俺はモンスター養殖場までやって来た。
「それで、ここがモンスター養殖場です」
「お? 団体さんの到着か。ゆっくり戦っていってくれよ」
モンスター養殖場の管理人が俺たちを部屋に迎え入れる。
室内、檻の中ではアメーバ獣がぴょこぴょこ飛び跳ね、新人を歓迎していた。
「キモッ……私あれ無理」
「うーん。キモ可愛い感じ?」
「えーと……あれは……そう! アメーバ獣ですわ」
ラッキーにも一番倒しやすいモンスター。
「それでここから檻の中にいるモンスターをチクチク攻撃して、ギフトを獲得するのがここの目的なわけで……やってみる?」
もしかしたらSSRギフトを獲得する者が出るかもしれない。
ひとまず全員がギフトを獲得するまで付き合うとしよう。
「おっしゃ。やるでー」
「おうさあ」
「でも……どうやって攻撃するの?」
なんと驚き。クラスメイトたちは武器を持っていなかった。普通は事前に予習とかするだろう? しないのか?
「ふふん。私はちゃんと用意してましてよ」
ほっ。良かった。
仮にも同じ試験を受けて入学したクラスメイト。
俺の頭脳も同レベルと疑われるところであった。
しかし、賀志古さんが取り出したのはペーパーナイフ。
せめて果物ナイフや包丁ならまだしも……いや、職質される危険性を考えるとそれが良いのか。
「えーと……養殖場の管理人に言えば、武器のレンタルが出来るから」
「えー。他人の触った武器とかちょー嫌なんですけどー?」
「しゃーねーだろう。武器ねーと戦えんべ」
「うん。どれが良いんだろう?」
「おーし。お前ら新人に俺がレクチャーしてやるぜ」
養殖場の管理人がはりきって説明しているが、結論は分かっている。机に並べられた武器類から俺はクロスボウを取り手渡した。
「はい。これがお勧め武器だね」
「これなに?」
「おう。お前目ざといな……って経験者か。そう。そのクロスボウが一番のオススメだぜ」
おっさんが、クロスボウを手に取り実演する。
「へー。これなら近づかなくても良いんだね」
「それっ。それにしよ。キモいモンスターに触れるよりマシじゃん?」
「お、お待ちなさい。クロスボウにはボルトが必要でしてよ? レンタル費用がお高いのではなくて?」
確かにある程度は使いまわしが効くとはいえ、ボルトは消耗品。他の武器に比べれば値は張る。
「それじゃ、これかな?」
レンタル武器の中から、今度は槍を取り手渡した。
長いことは良いこと。リーチは力。
放課後に学校から直接ダンジョンへ立ち寄る都合上、今は包丁だけを使うようになったが、俺も最初はバットに包丁を括り付けた手製の槍を使用していた。
「心配すんな。この養殖場で使用するだけなら割引があるぜ。お前ら新人からボラねえからよ」
結局、レンタル費用を節約するため、クロスボウを1つとボルトを10本。手槍を1つの合計2つの武器をみんなで使い回すことになった。
チクチク
「キモッ。なんか破裂したんですけどー?」
「よえーなあ。こいつら」
「これで本当にギフトっての? 超能力手にはいるんけ?」
2つの武器を使い回しながら全員がアメーバ獣を退治していく。
「んっ! 何か、こう身体が熱くなってきた」
どうやら只野さんが一番にギフトを獲得したようだ。
「マジー? やったじゃん」
「ええなー。で何のギフトなんや?」
「ちょっと男子。ぶしつけに聞くものじゃありまんわよ」
秘密にされてはクラスメイトのギフトを知りたいがために着いて来た俺の当てが外れるわけだが……確かにうかつに他人に教えて良い情報ではない。
ギフトを知るだけでダンジョンにおける適性。
得意な点も弱点も、その全てが判明する。
しかし……先ほどからの発言を鑑みるに、どうやら賀志古さんはダンジョンの下調べをしているな。ペーパーナイフとはいえ、一応は武器を準備していただけはある。
「ええと。強化魔導士みたい」
「ちょ、ちょっと!? 只野さん?」
只野さんはあっさり報告していた。
「ほー。やったやん」
「で、それって強いのけ?」
「うーん……さあ?」
……強い。強化魔導士は総合評価8点のSRギフト。
その役割は味方にバフをかけてパーティを強化するという、デバフを得意とする俺の暗黒魔導士とは対極のギフトである。
「うお。おいらもゲットしたぞ。市民だって」
「ぶはー。なんか普通っぽい」
「やな。たぶん弱いやろ」
男子のギフトは、どうでも良い。
しかもNギフト、4点の市民であればなおさらである。
「なんかーあたし剣士とかー? なったんですけどぉー?」
「やるやん。なんか強そうじゃね?」
「だよね。これ当たりっしょ?」
佐迫さんはRギフトの剣士か。総合評価6.5点。
大当たりとまではいかないが、悪くはない。
剣の扱いに長けた近接戦闘を得意とするギフトである。
「おれ、俺はなんか学徒みたいやけど?」
「学生ってことけ? 今と変わらんやん」
Nギフト。4点。野郎だしそんなところだろう。
そもそも統計によれば、ギフト習得者の6割はNギフトとある。ここまで4人中の1人がSRで1人がRというのは、なかなかに運が良いといえるだろう。
「お? ワイは聖騎士って出たけど……」
「マジで? なんかめっちゃ強そうじゃね?」
「うん。なんか格好良いね」
「ええっ? う、嘘ですわよね……」
……マジで!?
ただの学生にしかすぎないこの男子が……名前なんだっけ?
「助田やるやん」
そうだ。助田。
スケベそうな顔をしておきながらSSRギフトの聖騎士を引くとは……
SSRを獲得できるのは100人に1人。
1パーセントが獲得できれば良いといわれるギフトで、俺の獲得した暗黒魔導士もSSRギフトである。
そのSSRギフトが同じクラスメイトから現れるとは……
しかし、よくよく考えれば1学年100人いれば1人。町内10万人いれば1000人は獲得できる確率。日本人口1億であれば100万人はSSRギフト獲得者が存在する。
なんだ。それほど騒ぐようなことではないではないか。
「……」
「あれ? そういえば賀志古ちゃんはどうだったの?」
「おう。賀志古さん頭いいから、ええのなったんちゃうけ?」
「せやせや。助田ですら聖騎士やからな」
確かに。このメンバーで一番期待していたのは賀志古さんなのだが……どうなったのだろうか?
「……ど、いえ。えーと……学徒。そう私も学徒ですわ!」
「なんや。普通やん」
「聖騎士の後やから期待したのになあ」
「もう。学生って良いじゃない」
「でも、やっぱあたしの剣士が一番っしょ?」
わいわいがやがや。
何はともあれ、これで全員がギフトを獲得したわけだ。
SSRギフト持ちが現れたなら品川ダンジョン探索にパーティを経験するのもありだと考えていたが……よりによって男子ではな。
残念ながら俺の計画は破綻した。
「それじゃ、俺はそろそろ探索に戻るから」
「おう。城サンキュウな」
「そういえば、城のギフトって何や?」
「うん。気になるなあ」
本来はあまり他人にギフトは教えない方が良いのだが……
他のみんなのギフトを聞いてしまった以上、俺だけ無視するにも罰が悪い。
「えーと。俺は傭兵だ」
嘘ではない。擬態を得た結果であるからして間違いはなく俺は悪くない。
「なんや強そうやな」
「強いんけ? それ」
「Rギフト。まあまあかな?」
「Rギフトって何や?」
「レア? ってことけ?」
……もしかして余計なことを言ったのだろうか?
だとしても今さら誤魔化すのも不自然というもの。
「そう。ギフトの希少性で上から3番目」
URについては例外のためカウントしない。
「マジか。俺らのギフトは分かるけ?」
「あたし。あたしの剣士はどーなの?!」
クラスメイト同士の人間関係に関わるため、あまり答えたくはないが……どうせ調べれば分かることか。
「自分のギフトを頭で思い浮かべれば希少性も一緒に分かるよ。剣士はR。強化魔導士がSRで聖騎士はSSR。あとはNだね」
「マジー? あたしの剣士ってたいしたことないじゃん……」
「それより助田! お前のSSRって最高レアってことやん!」
「助田くん。凄い!」
「ワイが最高レア……やれやれ。このぐらいは普通やと思うのやがなあ。あー喉が渇いたで」
「うっす。助田さん。Nで市民の俺がジュース買って来るっす」
チラリ。攻略読本のギフト紹介ページを眺め見る。
■聖騎士
希少評価:SSR
個人評価:9.8/10点
集団評価:9.8/10点
総合評価:10/10点
本人の資質、努力、人間性に関係なく、降ってわいたギフトによって探索者の階級は5つに分けられる。
かつてあった階級社会のようにも思えるこの仕組み。
今後、彼らの人間関係が破壊されないか心配である……




