37.ゴールデンウイーク
「次のニュースです。いよいよ来月発売となる魔力自動車。その発表会が本日お台場で行われました。販売元は茶威共和国の自動車メーカー。大勢の報道機関を招いての大々的なプロモーションから、その力の入れようが伝わってまいります」
「魔力関係は茶威共和国が一番力を入れている分野ですからな。えらいべっぴんさんが案内してくれて最高やったで」
「会場には国内から立憲独裁党をはじめとした野党オールスターも勢ぞろい。祝福のコメントが寄せられました」
「魔力自動車ですか。野党オールスターによる強烈な売り込みと世論の盛り上がりでですね、決まってしまいましたが、僕はまだ魔力を主流にするのはね、早いと思うんですよね」
「それはまたどうしてでしょうか?」
「ようは排気ガスとして魔素を排出するわけじゃないですか? 地球温暖化はなくなるかもしれませんが、魔素によるですね、大気汚染が心配なんですよね」
「おまえ。勉強せんやっちゃなー。茶威共和国最高研究機関の発表を見とらんのか? 人体への悪影響は一切ない言うとるやろが」
「はい。すでに茶威共和国では昨年から500万台の販売実績もありますので安心ですね」
「いえね。人体には影響なくてもですね。魔素ってのはいわばモンスターのご飯じゃないですか? それでですね。ご飯を求めてダンジョンからモンスターが出てくるんじゃないかって意見がありましてですね」
「おまえ。ダンジョンが発生してもう3年やで? 今までにモンスターが出て来たことあったか? ないやろ。なら何の問題もないやん」
「いえ。今まではそうですけどね。昨年からの茶威共和国の急速な魔力開発によってですね」
「ぐだぐだうっさいやっちゃなー。それで出てくるなら茶威共和国はモンスターだらけやないか。おまえ何や? 茶威共和国の人間はモンスターやって言いたいんか?」
「いえですね。僕はですね、決してそのような意味で……」
「ちょっとその発言はいけせんよ。視聴者のみなさまには、お見苦しい発言があり誠に申し訳ございませんでした。当番組としましてはそのような大気汚染よりも、今は政府与党の汚染を追求していきたいと思います。連日、反社会勢力とのつながりを大々的に取り扱っておりますが本日あらたに……」
政府与党の汚染がひどいらしい。
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4/28(日)
「それじゃ俺は品川ダンジョンへ行って来る。イモは絶対に無理するなよ? マジで無理しちゃ駄目だからな? 出来れば今日は部屋でゆっくりな?」
「はーい。でも、せっかくの日曜日なのになー。おにいちゃんと一緒に自宅ダンジョンへ行きたいよ……」
うう。すまないが我が家のため、お兄ちゃんは外貨を稼がねばならない。
ゴールデンウイークは始まったばかり。明日は一緒に自宅ダンジョンを探索するので今日は我慢してほしい。
トントン
イモの部屋の窓が叩かれる。
ニャン太郎たちが餌を求めて来たのだろう。
「はーい。どうぞー。あれ?」
「にゃー」「にゃん」「にゃーん」
イモが開けた窓から3匹の猫が室内に入り込む。3匹?
「わ。なんだかまた増えてるー」
「にゃーん」
「この子もメスだー。ニャン太郎モテモテだよー」
オス1匹にメス2匹。ニャン太郎ハーレムというわけか……
こいつ。同じ野良境遇のメス猫を食べ物で釣りやがったな?
まあ、モンスターを狩って魔石を稼いでくれるのだ。
数が増えるのは、こちらとしても有り難い話である。
「それじゃ、ニャン太郎。ニャン子。それと、えーと……君も。イモのことをよろしくお願いします」
「にゃー」「にゃん」「にゃーん」「いってらっしゃーい」
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イモたちに別れを告げ、俺は1人品川ダンジョンへやって来た。
いつものように自動ドアを入った先、人で賑わうロビーの様子が見てとれる。
わいわいがやがや。いつもより人が多いな。
さすがはゴールデンウイークといったところか。
日曜大工ならぬ日曜探索者。
副業でダンジョン探索する人たちが集まったのがこの賑わい。
くわえて、この連休を利用して探索者デビューする人たち。
「ここがロビーか」
「どーすりゃええんや?」
「やっぱ最初は受付やろう?」
聞き覚えのある声にロビーを見やれば、クラスメイトである男子生徒が3名。ロビーにたむろしていた。
「お? 城やん!」
「マジで? おーい。城ー」
俺が気づくと同時、向こうも俺の姿に気づいたようだ。
この人波の中で見つけるとは、なかなかに目ざとい。
「どうも。みんなも探索者やっていたの?」
顔見知りではあるが特に親密な交流もない。
挨拶だけして、おいとまするのが大人の対応というもの。
「いや。俺らは今日がデビューや」
「もしかして城は前から探索者やってんの?」
「ええまあ。家計の助けになればと思って」
「そーいや城は部活も入らずアルバイトばっかやったな」
「どうなんや? 探索者は稼げるのけ?」
自宅ダンジョンの収入を入れるなら稼げているが……
「正直、今はまだ稼げていないかな」
ポーション代金の分、品川ダンジョンだけでは赤字である。
「だんじょん来たー」
「マジでダンジョンだよ」
「みんな、落ち、落ち着きましょう」
再び聞き覚えのある声にロビーを見やれば、クラスメイトである女子生徒が3名。ロビーにたむろしていた。
「お? あれクラスの女子やん!」
「マジで? おーい。お前らー」
クラスの男子連中も気づいたようで、女子に声掛ける。
「あー! あれクラスの男子?」
「マジー? ちょー偶然」
「ちょっと。なんで貴方たちがこんな場所に?」
もちろん俺も顔見知りである。
普通っぽい人が只野さん。
ギャルっぽい人が佐迫さん。
賢そうな人が賀志古さん。
みなさんなかなかにお可愛いため名前を憶えているが、残念ながら特に親密な交流はない。
わいわいがやがや。
受付前で合流した男女、総勢6名が賑やかに騒いでいた。
むう……何を隠そう俺は陰キャ。こういった賑やかな場面は苦手である。
「その、俺はダンジョンへ行くから……」
いちおう一言の断りを入れ、この場を離れようとするも──
「いやいや。唯一の経験者のお前が帰ってどうすんねん」
「え? 城くんダンジョン経験あるんですの?」
「せやで。ダンジョンで稼いで家計を助けてるそうや」
「マジー? 城っちやるじゃん」
「うん。心強い」
むう……さすがは高校生。コミュニケーション能力に優れるのか、うまく俺をおだてやがる……
とはいえ、俺が一緒にいてもやることはない気もするが……
「あたしらみんな初めてだしぃ。城っちだけが頼りって感じぃ?」
男子はともかく女子に頼られて悪い気はしない。
今後のクラス内での立ち位置にも関わることだし、モンスター養殖場まで案内するとしよう。
「それじゃとりあえず、みんなで受付をすまそうか?」




