35.擬態
黄金バッタ獣の肉? を食べた俺はスキル【擬態】を習得した。
バッタの脚力でも手に入るかと思ったが……擬態だと?
バッタをはじめ多くの昆虫が有する擬態は、敵から発見されないよう周囲の風景や他の生物に姿形を似せるわけだが……ギフトの擬態か。
試しに俺は自身の能力を脳に思い浮かべる。
■ギフト:暗黒魔導士(SSR)LV20
・スキル:暗黒の霧(五感異常、攻撃減少、防御減少、敏捷減少、魔攻減少、魔防減少、毒、腐食、魔力減少、魔力蒸発、恐怖、麻痺、睡眠、混乱、放心、封印)
・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃:暗黒熟練
・EXスキル:プリンボディ:鋭利歯:擬態(New)
本来のステータスはこれだが、擬態を発動するとどうなるのか?
※擬態中
■ギフト:???(???)LV20
・スキル:???、???、???
なるほど。???と見えるわけだが……LVはそのまま。擬態の対象外なのだろうか?
試しにLVを擬態するよう意識を集中する。
※擬態中
■ギフト:???(???)LV10
・スキル:???、???、???
うむ……どうやら現在LVの半分にまで擬態できるようだ。
しかし、ギフトを擬態することに意味はあるのだろうか? ……あるのである。
スキルには相手のギフト、スキルを看破するものが存在する。
いくら探索者同士お互い協力するものといっても、人間同士のトラブルがなくならないのは日々のニュースを見れば誰にも分かること。
もしも探索者同士が敵対するその時。自身のギフト、スキルを看破されては不利となる。
仮に俺のギフトが暗黒魔導士であると看破された場合、相手は近接戦闘に持ち込むだろう。
いくら俺が近接戦闘を練習しているといっても所詮は付け焼刃。本職の近接戦闘ギフトに敵うはずもなく、ボコボコに叩きのめされるのが落ちである。
もっとも俺の暗黒の霧を超えて接近するのは容易ではないだろうが……それでも情報があれば対策を練ることが可能となる。最悪、敵わないというのが分かれば、戦わず逃げることもできるのだから。
「イモも擬態しておいた方が良い。イモのURギフトが他人に知られてはトラブルの元だからな」
「あーい。でもこの???って見えるの変じゃないかなー?」
……言われてみれば確かに怪しい。
見えなくなったのは良いが……???と見えては、怪しさ満点。逆に無茶苦茶マークされるではないか!
「んーと……あ! 他のギフトを思い浮かべたら、そのギフトに変わったよ」
マジで? いや。擬態が周囲の風景や他の生物に姿形を似せるというなら、他のギフトに似せるというのは理にかなった動作である。
さっそく俺もギフトを擬態するとして……そうだな。傭兵にするか。
傭兵は武器を使って戦う近接戦闘系ギフト。
希少度はRで100パーセント攻略読本のアンケートによれば、獲得者数5位という比較的ありふれたギフトである。
何より前回、俺が練習した魔法スキル、魔弾を習得するギフトである。
現在の俺の戦闘スタイル。魔弾による先制攻撃。近づいたところを包丁で叩くという方法が、そのまま使えるわけだ。
■ギフト:傭兵(R)LV10
・スキル:全武器熟練、魔弾、生命力増加
……成功。ギフトにあわせてスキルも傭兵のものに擬態されている。
これで俺とイモのギフトが看破される危険はなくなった。
「ちょうどお肉が焼けたよー。おにいちゃんどうぞ」
待ってました。さっそく黄金タレに漬けてと。いただきます。
パクリ
うめえええええええ!
うますぎて言葉もない。よって結論にいきます。
【EXスキル「牛パワー」を習得した】
牛パワー:牛のような怪力を得る。
「牛パワーだって。あんまり可愛くないよね。もーもーパワーの方が良くないかなー?」
駄目です。
「それはそうとイモ。少し相談があるのだが……」
「んー? なに?」
「今晩からお兄ちゃんもイモの部屋で一緒に寝て良いだろうか?」
誤解しないでいただきたいのは、何も俺にやましい気持ちがあって頼んでいるわけではないということ。
これは暗黒の霧による全自動狩場を起動するためである。
LVを上げるにはモンスターを狩るしかないわけだが、俺にもイモにも学業があり、常時ダンジョンに籠るわけにもいかない。
そこで全自動狩場の出番なわけだが……今日のテストで俺がダンジョンに居る時しか起動できないことが判明した。あわせてイモの部屋がダンジョン化していることも。
つまり、イモの部屋で眠るその間、全自動狩場が機能する。
10代の少年少女の平均睡眠時間は8時間。1日の3分の1を睡眠に費やすわけだが、その時間を狩りに使えばどうなるだろう?
ただでさえ黄金ダンジョンの恩恵によりLVアップの速い俺たちが、さらにLVアップの速度が増すというわけだ。しかも一切の疲労なくである。
メリットしか存在しないこのアイデア。
問題はイモが承諾するかどうかだが……
多感な年頃のイモ。いくら兄妹とはいえ男女が同室で眠るには抵抗があるだろう。
最悪。俺はダンジョン地下1階で眠ることも考慮しなければならない。しかしながら、あのようなジメジメした洞窟で繊細な俺は眠りたくないわけで……ここは何とか騙くらかして、いや、筋道立てて説得しなければならないわけで……
「いや。イモ。これはただLV上げのためであって……お兄ちゃんは清廉潔白。やましい気持ちなど一切ないからして……」
「うん。良いよー」
「何ならお兄ちゃんは目を閉じる。息もしない。アイマスクもするからして……って、え? 良いの?」
「うん。やったー。おにいちゃんと一緒にお泊りだー」
なぜか大はしゃぎのイモ。
……まあ、まだまだ子供。異性と同室で眠る危険性を知らないのだろう。俺も余計な気を使う必要はないわけで、それはそれで残念なような気楽なような……




