33.自宅ダンジョン地下2階
自宅ダンジョンの先。つづら折りの坂道を下り降りる。
階段のような明確な区別はないが、おそらくここが地下2階。
地下1階より通路の幅は広がり、大きなモンスターでも暴れ回れるだけの広さとなっていた。
その通路の先に大きな黒い影が複数見える。あれはウシ獣の群れか。
自宅ダンジョンの地下2階。誰もモンスターを狩る者がいないだけに、その数は20頭の大群となっていた。
「多いな……よし。フォーメーションAだ」
「おー」「にゃん」「にゃー」
品川ダンジョンではわずか1頭のウシ獣に苦戦させられたが……あれは俺の本気ではない。
今の俺たちはパーティ。
そして、俺のギフト。SSRにしてうんぬんかんぬんである暗黒魔導士は、集団戦闘においてその真の力を発揮する。
ウシ獣が集団で襲い来るなら、こちらも集団の力で対抗するまで。
「発動。暗黒の霧」
俺は洞窟の通路いっぱいに暗黒の霧を放出。
そのままウシ獣の群れを包み込むよう前へ伸ばしていく。
「ウモ?!」
接近する暗黒の霧に気づいたか。
ウシ獣が身構えるが、通路いっぱいに広がる暗黒の霧。
逃げ場は後方にしかないわけだが……
「ウモモー!」
単調にして単純なウシ獣が、獲物を見て後ろに下がるはずがない。そのまま俺たちを目指して暗黒の霧へ突っ込んだ。
「ウモモ……」
麻痺で立ち止まる者。恐怖で身をすくませる者。眠りこける者。20頭のうちの1/3が突進の途中で脱落する。
それでも残る13頭のウシ獣は歯を食いしばり音を立てて俺たちに迫る。
「……黄金ウシ獣か」
先頭の1頭。ウシ獣を率いるのは黄金ウシ獣。
「やったー。電撃いくよー」
イモの左右の手から放たれた電撃がウシ獣軍団に着弾。
デバフで魔法防御の落ちた身体を貫通、黄金ウシ獣をふくむ13頭全てが紫煙に変わる。
「にゃん」
同時。紫煙をすり抜けて2匹のニャンちゃんが走り出す。
イモも2匹のニャンちゃんも。俺とパーティを組むメンバーは、暗黒の霧の中でもデバフの影響を受けることはない。俺のスキル暗黒抵抗はパーティメンバーにまでその効果があるからだ。
「にゃー!」
2匹が狙うのは、暗黒の霧に包まれ動きを止める7匹のウシ獣。
早い!
地下1階で見たよりさらに2匹の動きが早くなっている。黄金ゴキブリを倒してLVが上がった影響もあるのだろうが……
ウシ獣の足元を引っかきながらすり抜ける2匹のニャンちゃん。その爪は正確にウシ獣の足。そのアキレス腱を切り裂いていた。
カサカサ足元を動くそのスピード。まるでゴキブリみたいだな……
「にゃん」
麻痺、恐怖、睡眠から立ち直りつつあったウシ獣の群れが、再度その足を止めれられたところへ──
「はい。2発目。どーん」
イモの電撃が命中。暗黒の霧が晴れると同時、残る7匹も紫煙となり消えて行った。
■ギフト:暗黒魔導士 LV18 1↑UP
・スキル:暗黒の霧(五感異常、攻撃減少、防御減少、敏捷減少、魔攻減少、魔防減少、毒、腐食、恐怖、魔力減少、魔力蒸発、麻痺、睡眠、混乱)
混乱(New)混乱して敵味方の区別がつかなくなる
・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃
・EXスキル:プリンボディ:鋭利歯
「やったー。黄金肉だよ。おにいちゃん」
イモが高々と掲げるのは黄金色に輝くウシ獣の肉。
■ウシ獣の肉:旨い。とにかく旨い。
ただでさえ旨いと評判のウシ獣の肉が、さらに黄金になればいったいどれほどの味になるのか? 興味はつきないが何より大事なのは、これでまた新たなスキルを習得できるという点だ。
何が得られるかは帰ってからのお楽しみである。
他に普通のウシ獣の肉を2個拾い上げ、さらに洞窟の先へ進む。
イノシシ獣があらわれた。
「発動。暗黒の霧」
「はいドーン」
イノシシ獣は死んだ。
ハイエナ獣があらわれた。
「暗黒の」「はいドーン」
ハイエナ獣は死んだ。
バッタ獣があらわれた。
「……」「はいドーン」
バッタ獣は死んだ。
俺の暗黒魔法も反則的スキルだと思うのだが……イモの電撃はさらにヒドイものである。
タフだといわれるウシ獣すら一撃、しかも10頭まとめて貫通させる。少しはゲームバランスというものを考えて欲しいものだ。
「結局地下2階でフォーメーションは必要なかったか……なあニャンちゃん」
……しかし返事はない。
足元をウロチョロしていたニャンちゃん2匹の姿は、いつの間にか消えていた。
聞き耳を立てれば、離れた方角からモンスターの悲鳴が聞こえてくる。
なるほど。イモと一緒だとやることがないから別行動というわけか。
道理で地下1階。ダンジョン内のそこかしこに魔石が落ちていたわけだ。
結局、俺はイモにくっついて魔石を拾い集めるのに専念するのが最も効率的という。地下1階と変わらないフォーメーションに落ち着いた。




