32.今後の指針
自宅ダンジョン地下1階。
俺はモンスターゲートの部屋に暗黒の煙を充満させることで、室内のモンスターを一掃した。
■ギフト:暗黒魔導士 LV17 1↑UP
・スキル:暗黒の霧(五感異常、攻撃減少、防御減少、敏捷減少、魔攻減少、魔防減少、毒、腐食、恐怖、魔力減少、魔力蒸発、麻痺、睡眠)
睡眠(New)睡魔におそわれる
・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃
・EXS:プリンボディ:鋭利歯
集団の中に黄金モンスターがいたのか?
俺のLVは1アップしていた。
しかし……こう連日黄金モンスターに遭遇するとは……
黄金モンスターの発見報告は稀である。
遭遇した者が黙っている可能性は高いにしても、いまだ世界中で2桁の事例しか存在しない。
それを考えれば連日遭遇するなど、ありえない確率である。
もしかするとだが……この自宅ダンジョン。
黄金モンスターが現れやすい特徴を持っているのだろうか?
世界には、現れるモンスターに特徴のあるダンジョンが存在する。
例えば。昆虫に似たモンスターだけが現れるダンジョン。地下1階からいきなり強いモンスターが現れるダンジョン。大型モンスターだけが現れるダンジョンなどなど。
それを考えれば黄金モンスターの現れやすいダンジョンがあっても不思議はないが……
「イモ。この自宅ダンジョン。どう思う?」
「んー? どうって?」
「2人の秘密とはいったが……いつかは公表しなければならない」
俺はいずれ自宅ダンジョンを公表するつもりでいる。
時期としてはイモが正式に探索者となるその直前。
探索者にはダンジョン発見時の報告義務があり、今の俺はそのルールに違反している状態。
心の薄汚れた俺が違反するには構わないが、イモは純粋無垢な天使のような存在。そんなイモの心を汚すわけには、ルール違反をさせるわけにはいかないからだ。
「えー? なんでー? 黙ってれば分からないよ? イモとしては人生は綺麗ごとだけじゃ生きていけないと思うんだよね」
純白で汚れを知らないイモを……イモちゃん??
と、とにかくルール違反は良くないのだ。うん。
「ぶーぶー。ニャン太郎たちのご飯がなくなるよー。はんたーい」
「にゃー」「にゃん」
むむむ……3対1……
しかも動物を使って憐憫の感情を揺さぶるとは……
確かにイモたちの言うことも分からないではないが……世間はそんなに甘くはない。隠し通すのは難しく、嘘を重ねる心にも負担がのしかかる。
善には善の報い。悪には悪の報い。
悪事は巡り巡って自分に跳ね返る。
正々堂々。イモには誰にも恥じる事のない人生を進ませてあげるのが、兄の務めである。
だからして──
「イモよ。心配は必要ない。お兄ちゃんに1つ考えがある」
発見されたダンジョンは国が買い上げた後で競売にかけられ、落札した企業の所有となるわけだが──
「競売の際に、俺たちでこのダンジョンを落札する」
正式な手続きを経た上で、正々堂々、自宅ダンジョンを俺たちの物とする。
誰にも後ろ指を差されることはない。住み慣れた自宅を離れる必要はなくなり、レアモンスターを狩り放題。ついでにいえば、ニャン太郎たちも変わらずダンジョンで餌を捕まえられるわけだ。
「お、おにいちゃんは、てんさいだー!」
「にゃー!」「にゃん!」
やれやれ……この程度の発想は普通だというのに。
「とはいえ、これから大変になるぞ?」
「そうなの?」
ダンジョン落札にいくらかかるのか?
これから調べなければならないが、10億か100億か1000億か? とにかく莫大な資金が必要なのは間違いない。
「うー……やっぱり内緒にしよう。そうしよー!」
「大丈夫だ。俺にお金を稼ぐ当てがある」
自宅ダンジョン独自の特産品。
ギフトの枠組みを超えてスキルを習得できる、黄金モンスター肉。
探索者なら喉から手が出るほど欲しいこの一品。多少高くとも。スキルによっては、それこそ億を超える値段で売れるはずだ。
「おー。プリンボディでプルプルだもん。絶対に売れるよー」
まあ、プリンボディでは高値は無理だろうが……
「なんでー? ほら。こんなプルプルのプニプニだよー」
むう……確かにプニプニだが……さすがに億は無理……いや、お年を召した富豪が相手であれば……行けるか?
「そういえば、イモの誕生日はいつだった?」
「もー。おにいちゃん。なんで忘れるのー? イモは12月13日だよ」
イモが16歳となるまで、あと1年と7か月か。それまでに自宅ダンジョンを買い取るだけのお金を溜める。
「イモは春に仕込まれたんだよ。お芋さんみたいだねー」
……さて。なかなかに忙しくなりそうだ。
モンスターの集団を片付けた室内。
俺は落ちた魔石を拾い集める。
「むー。あっ! 黄金肉が落ちてるー」
ヒョイとイモが肉を拾い上げる。
「これって何のお肉だろ? ちっちゃいね」
……室内に居たのはゴキブリ獣。
当然。残された肉は……
「イモ……捨てなさい」
「えー? なんでー? 売ってお金を稼がないとだよ?」
確かにそうなのだが……売るためには黄金肉の効能を知らなければならないわけで……誰かが食べる必要があるわけだ。ゴキブリ肉を……
「無理……俺には無理だ……」
嘘か本当か? 生きたゴキブリを食べた男が、その直後に死亡。司法解剖したところ腸内から大量のゴキブリが湧いて出たという都市伝説がある。それを思えば……肉片といっても無理である。
「もー。ただのお肉なのにー。じゃあイモが食べよーっと」
早くも謎ラップを剥がしてお肉を食べようとするイモ。
「ダメー! イモは天使。そんな汚いお肉を食べてはダメ! 死ぬ……イモが死んだら俺も死ぬー!」
その腕から肉をはたき落とす。
地面に落ちた肉を──
「にゃー」「にゃん」
パクリ。ニャン太郎とニャン子の2匹が食べほした。
「うー……イモのスキル……」
ほっ……ニャンちゃんたちなら安心だ。
「それでニャンちゃんたち。スキルは習得できたか?」
「にゃー」「にゃん」
ふむふむ。さっぱり分からんが、とにかく一件落着である。
・ニャンちゃん2匹はEXスキル:ゴキブリダッシュを習得した。
「それじゃ次のお肉を探しに行こー」
「待った。イモ。少し試したいことがある」
品川ダンジョンには、モンスター養殖場という魔石をガッポガッポ入手できる夢の施設が存在した。
モンスターゲートを檻で囲い周辺に火器を設置。ゲートを現れたモンスターが檻で足止めを受ける間に、AI制御された火器が自動でモンスターを撃ち殺すという施設。
今後いくらでもお金は必要となれば、あれを自宅ダンジョンに応用できないだろうか?
「暗黒の霧。発動。範囲固定」
俺はモンスターゲートのある室内を再び暗黒の霧で満たしつくす。
「よし。先へ行こう」
「あれ? 部屋に霧を出したままでいいの?」
いいのである。それが今回の狙い。
暗黒の霧は俺の魔力を消費して生成、維持される。自然の霧とは異なり、俺が魔力を維持する限り消滅することはない。
幸いモンスターゲートのある部屋は10畳ワンルーム程度と狭い。この部屋を満たす霧を維持する程度なら、LV17となった俺の魔力回復速度が上回る。
そして、地下1階のモンスターは暗黒の霧だけで退治出来るのは先ほど証明済み。
つまり……モンスターゲートを出たモンスターは部屋を満たす暗黒の霧に包まれ、何も出来ず死んでいく。
俺流モンスター養殖場の完成である。
「すごーい! やっぱりおにいちゃんは天才だー! 大天才だー!」
やれやれ……自分の才能が恐ろしいぜ。
いずれLVが上がればさらに広範囲を、自宅ダンジョン全体を暗黒の霧で満たすことも出来るだろう。
そうなれば……ゴクリ。自宅で寝ているだけでモンスターを退治できるわけで……やはり総合評価9.5点のSSRギフトは伊達ではないというわけだ。




