30.ラッキー
……ようやくウシ獣を1頭。落ちた魔石は2個か。
ソロでも行けるとはいえ、ダンジョン探索にパーティが推奨されるわけだ。
魔石を拾い上げ、傷口にポーションを振りかけ周囲を見回す。
パーティを組んだ探索者はウシ獣を取り囲み、一斉攻撃。ゲートから現れるウシ獣を流れ作業のように退治して回っていた。
地下2階。まだまだソロでも行けるとはいうが……ソロではモンスターを仕留めるのに時間がかかる上に危険もある。
現に俺はウシ獣1頭仕留めるのにポーションを1個消費。
完全に赤字である。
俺が個人戦闘向きでないギフトというのも大きいが……
俺の隣で一服していたアメフト男も、今は斧を振り回して狩りを再開していた。ドカーンドカーン。振り回す斧がウシ獣の肉に深く食い込む重い一撃。
アメフト男が俺を見て笑うのも無理はない。
無念ではあるが、野郎と比べて俺の包丁はショボイの一言。
しかしだ……それだけの力があってもソロに危険はつきもの。
先ほどウシ獣が現れたばかりのモンスターゲートに光が走る。モンスターの表れる予兆。だとしたら早いな……
モンスターゲートからは定期的にモンスターが現れるが、稀に連続で現れることもある。
モンスターゲートを飛び出したのは12匹のハイエナ獣。
狩場にはまだウシ獣の姿も残っており、数名の探索者が戦いの真っ最中であった。
手の空いている探索者が相手どろうとするが──
現れたハイエナ獣は探索者の間をすり抜け、ウシ獣と戦う者を狙って襲い掛かる。
ハイエナ獣単体の力はウシ獣に比べ遥かに劣るが、他のモンスターと連携をとる厄介な習性を持っている。パーティを組んでいる探索者はフォローして対応するが
「ぎゃー」「やられたー」
ソロでウシ獣の相手をしている者が、背後から襲われてはひとたまりもない。
俺の近くでウシ獣と死闘を繰り広げるアメフト男。
その背後からも1匹のハイエナ獣が走り寄っていた。
アメフト男はウシ獣の相手に夢中……か。
やれやれではあるが……
「暗黒ボール。ではなくて、魔弾発射」
バシャン。命中。
デバフ発動:ハイエナ獣は五感異常。
デバフ発動:ハイエナ獣は麻痺。
……以下略。
麻痺でこわばり動きを止めるその隙に
スパーン
俺は駆け寄りハイエナ獣の首筋を切り裂いた。
……勘違いしないでもらいたいのは、別に俺はアメフト男を助けたわけではないということ。
探索者の怪我は自己責任。
美少女ならともかく、野郎がいくら怪我しようが俺の知ったことではない。
俺が助けたのは未来の俺自身。いつか俺が危機となった際に他の探索者に助けてもらえるよう、あくまで俺自身の評判を上げるためにやったことなのだから。
その後、俺はアメフト男がウシ獣へ止めを刺すのを見届け、その場を後にした。
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本日は魔石を30個売却。
「はい。魔石の買い取り金額は1万5000円となります」
放課後3時間のアルバイトと考えれば、時給5千円と破格の稼ぎである。
もっとも実際に俺が倒したモンスターは2匹で魔石合計は4個。
自宅ダンジョンからの持ち出しを除いた本来の収入は2000円でしかない。
それでも時給換算なら666円。コンビニの時給900円と比較しても、なかなかの稼ぎになってきたのではないだろうか?
「はい。E級ボーション1個で1万円。まいどありー」
怪我がなければ……だが。
結局、自宅ダンジョンがなければまだまだ赤字というわけだ。
6821万3634位:城 弾正
ランキングは大きく900万位ほど上昇。
これまで俺の魔石売却合計は2万9000円。探索者になっても3万円を稼げず脱落する者が多いというわけか。
「ヘイ。ボーイ」
換金所を後にする俺に声かける男がいた。誰かと振り向けば、狩場で俺の近くにいたアメフト男ではないか。
「ユーは稼げましたか?」
なぜに怪しげな日本語なのか?
よくよく見れば男のガタイは良く顔の彫りは深い。
アメフトヘルメットを脱いだその頭は金髪丸出し。
異国の人間であった。
「ええまあ。スモールですけど」
「オー。スモールでしたか。うんうん。ユーの戦いはいまいちでしょう」
余計なお世話である。
「そんなボーイには、これをプレゼントでしょう」
何を考えているのかアメフト男は俺に大量の魔石を手渡した。思わず受け取ってしまったが……いったい何だこれは?
「ミーのピンチをヘルプしてくれましたお礼でしょう」
あの時のハイエナ獣の襲撃。気づいていたのか?
だとしても別に謝礼を貰うようなことでもないが……貰えるというなら貰うのもまた礼儀。
「ありがとうございます!」
アメフト男は俺に手を振り立ち去って行った。
「すみません。これも買い取りお願いします」
「はいはい。ラッキーですわねえ」
確かにラッキーであるが、このラッキーは偶然ではない。
人助けの結果が巡ってきたわけであるなら、俺の人徳が生んだ必然というものである。
6515万6631位:城 弾正
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「ただいまー」
午後9時。自宅に帰るが誰の出迎えもない。
イモのやつダンジョンか?
おそらくニャン太郎を連れて入っているのだろうが……本当に大丈夫だろうか?
荷物を置いてイモの部屋へ向かう。
部屋に入ったところで、ちょうどダンジョン入口からイモが梯子を上がり出てきた。
「おー。おにいちゃん。おかえりー」
「ただいま。って、うおっ?!」
イモに続いて、2匹のネコがダンジョン入口を飛び出した。
「なんだ? ニャン太郎と……もう1匹?」
「そなの。ニャン太郎の彼女だってー。うらやましいよね」
イモが部屋の窓を開けると、2匹はペコリと頭を下げ窓を出て行った。
ニャン太郎……部屋に女を連れ込むとは、とんでもないプレイボーイであった。
「いや。それよりもだ。あのネコもギフトを?」
「うん。一緒にダンジョン潜ってきたんだよー」
ふーむ。まあ別に餌代がかかるでもなし……戦力アップで良いか。
「ネズミ肉いっぱい取って来たー。今晩も焼肉だよー」
ホットプレートで肉を焼き焼き。タレを付けて食べる食べる。
「それでねー。ニャン太郎とニャン子が凄い速さでねー」
食事の間中。イモはネコ2匹の活躍を我が事のように話してくれた。
「ふーむ。つまり2匹ともに十分に戦えるというわけか」
「そだよー。だから明日はもっと先へ行ってみようよー」
今日も黄金モンスターを退治したと言っていたな。
2匹ともにLVは十分に上がっているなら……行けるか。




