１７．ＥＸスキル
イモの部屋に戻ったところで時刻はお昼過ぎ。
朝からけっこう大変な思いをしたわりに、まだこんな時間か。
「イモ。適当にお昼の準備するねー」
イモがお昼を準備するなら俺はデザートを準備するとしよう。
リュックから取り出したるはプルンと輝く黄金ゼラチン。
不思議ビニールで覆われており、衛生面に問題はない。
不思議ビニールをやぶり母の分もあわせて３等分。
器に入れて冷蔵庫で冷やすだけで準備は完了する。
「ふいー。ごちそうさま」
イモの用意したお昼ご飯を食べて、いよいよデザートの時間。
冷蔵庫で冷やした黄金ゼラチンを取り出した。
「おー。これモンスターのやつ？」
「そうだ。攻略読本によれば、けっこう旨いらしいぞ」
もっとも攻略読本の情報は通常のアメーバー獣のレアドロップ品。俺たちの目の前にあるのはレアモンスターである黄金アメーバー獣のレアドロップ品。レアのさらにレアであるからして、きっと旨いはずである。
「イモ。危険がないか俺が先に毒見する。ちょっと待ってろ」
「えー？」
イモは不満そうだが、兄として当然の処置。
大丈夫とは思うが念をいれるに越した事はない。
パクリ
うめえええええええーーーーーーー！
「おにいちゃん？ どう？」
パクパクパク
うめえええええええーーーーーーー！
「もー！ おにいちゃんっ」
パクパクパクパクパク
うますぎるうううううううううーー！
「いいもん。イモも食べるから」
パクリ
「おいしー！ なにこれ？ うまー！」
イモは凄い勢いでスプーンを差し込むが、確かにこれは旨い。冷たく冷えたゼラチンがプリンとした滑らかな触感を持って口の中を滑り噛んだと同時に感じるプチンとした触感がどーたらこーたら。
「ぷはー。ごちそうさまー」
２人ともに完食である。
【ＥＸスキル：プリンボディを習得しました】
む？
「イモ。何か感じたか？」
「んー。プリンボディ？ なにこれー」
やはりイモも……ということは考えられる要因は１つ。
黄金ゼラチンを食したこと。
滅多に出当えないレアモンスターのレアドロップ。
特別な効果があるということか……
習得したギフトとスキルは不思議とその概要が頭に浮かび上がる。
プリンボディ：身体の弾力が増す。
「おー。なんか身体がもちもちだぞー？」
自分のお腹をぷにぷに撫でるイモ。
「ほらほら。おにいちゃん見てみてー」
俺の手をとりお腹に押し当てた。
むう……確かに柔らかい。普段と比べてどうかは分からないが。
「あれ？ おにいちゃんの手も、もちもちしてる？」
そういってイモは俺の身体に抱き付き、ぎゅーぎゅー締め付ける。
「おー。なんか気持ちいーぞ？ おにいちゃん。もちもちしてるー」
むう……確かに気持ちいい。
イモの手前、特にどこがとは言えないが……主にふくらみが。
「おいしーのにもちもちになるなんてすごいよー。また食べたいね」
「だな」
とはいうものの。めったに出会えないからこそのレアモンスター。ダンジョン初日で運を使い果たした気がしないでもないが……これで良い。
何事も最初が肝心。初日に大怪我を負い挫折する者も多いと聞くなか、いきなりＬＶ６までブーストした上に、謎スキルまで習得できたのだから万々歳である。
おかげで探索者としてやっていく自信もついた。
「イモ。お兄ちゃん今晩、母さんに言うよ。探索者になったって」
・
・
・
夜。仕事から母が帰宅する。
「お母さんおかえりー。ご飯できてるよー」
「ただいまー。イモちゃん。ありがとうね」
もう良い年だというのに母の見た目はまだ若い。
デパートで接客している関係で、身だしなみに気を使っているのだろう。
「２人とも待ってくれたんだ？ 遅くなるから先に食べて良かったのに」
服を着替えた母がテーブルに着き、一家３人が勢ぞろいする。
「お帰り。母さん。実は話があってさ」
いただきますのあと、話を切り出した。
「俺。探索者になったよ」
「ええ！ お母さんびっくり。どうして？」
それはもちろん。
「億万長者になるためです」
「億万長者って……危険よ。探索者なんて」
母が反対するであろうことは承知の上。
「学費のことならお母さんが稼いであげるから。ね。今度良い仕事が見つかりそうなのよ」
良い仕事。稼げる仕事ということは……エロエロである。
それを防ぐため探索者になったわけではあるが、母を相手に直球でエロエロはやめてくれと言うのも気まずい話。だからしてここは──
「母さんこそ無理しなくても平気だよ。母さんのデパートの制服、似合っているのに辞めるのもったいないよ」
「まあ、まあ。そんな褒めても何も出ないわよ」
褒める言葉に母が嬉しそうにする。
ちょろい。こんなんだからクソ親父に騙され、エロエロ店にスカウトされるのだ。
「それに俺には探索者が天職なんだ」
「天職って……まだ先のことは分からないわよ。大学いってからじっくり考えれば良いじゃない」
「もちろん大学には行くよ」
社会で生きていくには学歴は必要。噂に聞くヤリコンサークルにも興味はあることだし、行かないという選択肢はない。
「でも母さん。探索者に限っては向いているか向いていないか事前に分かるんだ。俺のギフトは暗黒魔導士っていうんだけど……ほら、これを見て」
俺は１００パーセント攻略読本から暗黒魔導士のページを開いて見せた。
「総合評価９．５点？ これって良いの？」
「控えめに言って最強かな？ １００点満点でいうなら９５点。始める前から成功が約束されたようなものなんだ」
「あらー今ってそんなことが分かるのね」
それが良いのか悪いのか。
いくら探索者になりたいと思っても、ギフトが奴隷であれば、挑戦する前から夢を諦める羽目となる。まあ、ＳＳＲである俺には無縁の悩みだが。
「でもねえ……帯に大丈夫って書いてあるけど、こんな本のいうことを信じろってのも……」
大丈夫と書いてあるのだから大丈夫である。
何よりこれがその証明。論より証拠。
「これ。今日ダンジョンで捕ってきたんだ。食べてみて」
「ゼリー？ ダンジョンってこんなものまで手に入るの？」
パクリ
「おいしっ。おいしいー」
黄金ゼラチンを食べて大喜びする母さん。
母を説得するには俺が探索者としてやっていける。その証拠を見せるのが一番てっとり早いというもの。
「イモは賛成だよ。おいしい食べ物拾ってくれるもんねー」
母の黄金ゼリーにスプーンを突っ込み、勝手にパクパクしながらイモが口を開く。
「あっ。こら。イモちゃーん。うう無くなっちゃった……分かったわ。弾正は好きにやりなさい」
これにて一件落着である。
「その代わりに勉強もちゃんとやるのよ。もしも怪我するようなことがあったら探索者は禁止だからね」
勉学は学生の義務。当然である。
そして、最強天才美少年暗黒魔導士である俺が怪我をするなど万が一にもありえないから心配は無用というものである。
（おにいちゃん左腕はだいじょうぶ？ だいぶ血が出てたけど？）
（しっ！ 後でお菓子をやるから黙っていてくれ）
ゴキブリ獣に深く噛まれた左腕。
Ｅ級ポーションで表面上の傷は癒えたが完治するはずもない。幸いにも右利きであるため、それほど支障はなく黙っていれば悟られることもない。
「ん？ 弾正にイモちゃん。２人でコソコソどうかしたの？」
「いや。何でもない。イモに母さんのゼリーを食べるんじゃないと注意しただけだから」
「ゼリー。おいしかったね……また手に入ったらゼリーを御馳走してね。お母さん気に入っっちゃった」
いや……あれはレアモンスターのレアドロップ。
たぶん無理だと思うのだが……黙ってうなずく以外に選択肢はないのであった。
