女になった俺、一線を越える
「あ、あのー……子野さーん?」
「んー?」
「おろしてください……」
「だめー」
俺の願いを楽し気に断り、子野さんは足取り軽く進む。
俺は教室からそのままだ。後ろからお腹を抱えられ、持ち運ばれている。
「うぅぅ……」
とても恥ずかしい……。
「♪」
それにしても、顔は見えないけど子野さんは余裕そうだ。いくら俺こと美少女の体が軽くても、人一人。そんな簡単に運べるか?
「力、強いですね」
「鍛えてるからね」
後ろに話しかけてみれば、得意げな言葉が返ってくる。
……そういえば初めて会った時も、吹っ飛ばされたのは俺だけだったな。
「インナーマッスルだよ」
「いんなーまっする」
よく分からない俺には復唱する事しかできない。
結局されるがままに俺は運ばれるのだった。
「あの時……なんで泣いてたの?」
しかし、不意に子野さんから問われる。
「ごめんね、突然。でも、どうしても気になるの」
事ここに至り、俺はようやく気付いた。ここは子野さんの教室じゃない。
人気の少ない、特別教室の前の廊下に俺は降ろされた。
「あの時って……」
この前の『友達になってください』の時だろうか。
そりゃ気になるよな。だって顔見たら突然泣くんだから。なるほど、確かにナマハゲ扱いは失礼が過ぎる。
「初めて会った時」
ちゃんと謝ろうと思った俺だったが、子野さんが言いたい事は違っていた。
……なんか俺、いつも宛を外してる気がするな。
「俺、泣いてた?」
でもこの時ばかりは仕方なかったと思う。身に覚えがなかった。
「うん……その、ごめんね」
なんか謝られちゃったよ。
「あのとき、すごい傷ついた顔してた。なのに、わたし自分のことばっかりで……誤解して勝手に怖がってた」
「……いや、あれは俺……あ、私が悪いです。怖がらせたのは本当だし」
「うん、でも、わたしが見たミカさんも本当だよ……」
「それは……」
「……ごめん、言いたくないなら無理しないで」
向き合う子野さんは一歩下がり、また謝り始める。なんで、こんなに優しいんだろう。
……知りたい。この時、俺は確かにそう思った。けど、それだけじゃない。逆に……。
「好きな人に振られたんだよ」
実は、この事は家族にも話せていない。知っているのは俺以外には一人だけだった。
俺がこの前『友達になってください』しに行ったのは、俺が鈍感だったからなんかじゃない。あの時は確かに、そしてたったの今までも、俺自身が壁を感じていたんだ。
「そうだったの……嫌なこと、聞いたよね」
「ううん、私も、子野さんには話していいと思ったので」
すると、子野さんは驚きの表情を浮かべた。けど、それはどこか嬉しそうにも見えた。
そんな彼女を見る俺もなんだか嬉しい……ような、何だろうな……苦しいような。
「もーミカさんいい子ー!」
なんだかやきもきとしていると、子野さんの長い腕が伸びてくる。両の手はそのまま、俺の金髪を撫で始めた。
なでなでなでなで
すると俺の目の前には、制服を押し上げる膨らみ。
「……」
もみっ
「ひゃあああーーー!」
セーフだよね?俺今女の子だもん。
読者「短っ」
すみません!