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女になった俺、ツインテール

 人には尊厳ってものがあるだろう。その人の誇りだったり大切なもの、そして許せないものがそうだ。


 そして尊厳をもつこと、それは男だろうが女だろうが変わらない。だったら俺にだって尊厳はある。男でありながら女の心を持っていた俺にだって……男の頭で女になろうと苦心する俺にだって。


 そんな俺こと鹿襟(かえり) 巳方(みかた)は今、窮地に立たされている。


 こんな良い朝に、他ならぬ家族の手によって。


「なあ、姉さん、母さん……考え直すつもりは無いのか」


 家の中、壁際に追い詰められる俺。


「愚問よ。大人しくして」


 いつもの愛嬌のある顔は何処へやら、完全に肉食獣の目をした姉さん。


「ミカ、聞き分けなさい」


 ……俺の記憶にある母さんはもっと優しい人だったはず。そんな有無も言わさない感じじゃなかったよね?


 そして追い詰められた俺に、二人はじりじりと包囲を狭めてきた。女になって幾分背も縮んだ俺だが、それでも姉さんや母さんとはほぼ同じ身長だ。……なのに、詰め寄る二人の圧迫感に自分が小さく思えた。


「い、いや……やめて、それだけは……」


「ふふん、観念しなよ」


「任せなさい、母さん達がミカを女の子にしてあげる……ミウ!」


「ガッテン!」


 俺のこの体は力もない。姉さんに簡単に取り押さえられてしまった所に、母さんは手を伸ばす。


「いやあああああああああ!!!!!」


「さあ、可愛くなるのよ」


 やめろー! 女になったから云々って問題じゃない! それは……それだけは!


「ツインテールだけは嫌だあああああああ!!!」


「こら、暴れないの」


 俺は尊厳を守るために、じたばたと頭を振って最後の抵抗を試みる。これが暴れずに居られるか!


「俺! 十七歳! わかる!?」


 そう、俺はまあ……ちょっとは変な奴かもしれないが、人生をちゃんと歳の数だけ送って、歳相応の感覚は持っている。そんな俺が思うに(同い年でツインテールの子が居たら本当にごめん)、この歳でツインテールっていうのはちょっと……いやとても……痛い。


 そう、俺は今、羞恥プレイをさせられるか否かの瀬戸際にいるのだ。


「なんでよ、絶対似合うのに」


 姉さんは俺に乗っかりながらなんでもない風に言うが、とんでもない事だ。


「そりゃ似合うかもしれないけどそれも問題だろ! 作者だって金髪吊り目のツインテールなんてコッテコテのキャラクターは書きたくないはずだ!」


「別に良いじゃない。あんな人、気にしなくたって」


「そうそう」


「それでも良いけど俺のことは気にしてくれー!」


 結果、逃げられなかったよ……。














 そして俺はそのまま登校させられた。……仕方なかったんだ……母さんは今月の野口さんを人質に取ったんだ……。母さん……あんなに優しかったのに……。


 俺はもう開き直ることにして、ずかずかと通学路を歩いた。何か大切なものを失った気がしたけど、俺が守りたかったものって一体なんだったんだろうな(笑)。


「あはっあはは」


 なんだかおかしくなって、笑いがこみ上げてきた。そんな事をしていたものだから、すぐそこにいる親友には気づけなかった。

挿絵(By みてみん)

「大丈夫かお前……」


「おうっ、良い朝だなあガネ! おはよう!」


「ああ、おはよう」


 今日も一日良い日になるぜ!


「……」


「……」


「……」


「……ぷっ」


「笑うなぁ!」


 これだよ。……いや、笑いを堪えようとしてくれてるのは有難いんだけどな? そうかよ、そんなに面白いかよ。こっちは現実からトリップする程恥ずかしい思いをしてるのに。


「いや、頭だけじゃなく、頭までおかしくなったのかとな」


「このやろう上手いこと言いやがって!」


「おかしいのは頭だけみたいで安心したよ」


「こ、このやろう……!」


 どっちのこと言ってんだ!


「……あっ、おはようミカさん」


 親友とバカをやっていると、俺に挨拶をする声。


 振り返れば昨日和解したあの子、子野(ねの)さんだ。


「お、おはようございます子野さん」


 俺はなんとか敬語で挨拶を返すが、自分の格好を振り返っては気恥ずかしくなり、しどろもどろ。なんたって「髪が綺麗だね」と言われた次の日には狙い澄ましたような金髪吊り目のツインテールだ。……こう、自意識過剰な奴だと思われていやしないだろうかと心配だ。


「あっ、髪型変えたんだね」


 言ったそばからギクッと来た。


「あ、はは……うん……」


 正直、今一番触れて欲しくない所だった。この髪型は自分でやった事じゃないとは言え、現に俺はこの髪型で居るのだ。


 ……正直、正直な話、鏡で自分の姿を見て似合わないとは思えなかった。それだから、なんだろうな。


 ガネの奴が面白がるのも、本当はちょっと気に食わなかったんだ。否定されるのが怖い。


 俺はそれ以上の言葉を返せず、息を呑んだ。


「……かわいい」


「ん……?」


 言葉に子野さんの様子を窺うと、どうやら本心らしかった。


「すごい似合ってるよ! それが一番良いと思う!」


 思わず顔が熱くなるのを感じた。


「あっ、ごめんわたし朝練行かないと、また後でね!」


「ああ、あう、うん……」


 子野さんは小さく手を振り、早足に去っていく。残された俺はただひたすら、子野さんの言葉を反芻していた。


「ふーん」


 いつの間にか斜め下からガネが見ていた。……いや、最初から居たんだったな、こいつ。


「すごい似合ってるよ(笑)」


「か、からかうなよ」


「くくっ、悪い悪い……彼女は?」


「ん? 子野さんか?」


……………………。


「ふーん、そうかそうか、丁度良かったんじゃないか?」


「え、何がだよ」


 歩きながら昨日までの子野さんとの事を説明すると、ガネはよく分からないことを言う。


「まあなんだ、体だけとりあえず変わったお前も、着々とツインテールの女の子になりつつある訳だ」


「うん、女の子には(・・・・・)なりつつあるな」


 女の子には、な。


「けど、この先も女で生きるつもりなら同性の友人の一人も居た方が良いだろ?」


「なるほど」


 歳の近い同性というだけなら姉さんも居るけど、やっぱりそれ以前に家族だ。性別以前の所で繋がってる以上は違うんだろう。友人というだけでもこいつが居るけど、性別が違えばとても相談できないこともある。それはここ一週間程でよくよく学んだ。


「だから丁度良かったじゃないか、子野さんが友達になってくれて」


「え、いや、まだ友達って訳じゃ……」


 子野さんとはまだ会って三回目だし、めちゃくちゃ怖がられてたのを和解しただけだ。知り合い以上、友達未満って感じか?


「……はぁ」


 かと思えば、こいつは肩を竦めてやれやれと首を振る。


「なんだよ」


「お前な……まあ良いや」


 そしてこいつは、俺に課題を突き出したんだ。


「子野さんと今日中に友達になること。本人の前に行って、『友達になってください』だ」


 きょ、今日中か?

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