女になった俺、女になろう
自分でも女っぽいとは思ってたよ。俺、鹿襟 巳方は趣味や特技の類は女の子っぽいそれだ。何より性の好みもな。
けどそれは……なんだ? アレだ、感性だ。そりゃ俺だって哲学者じゃないんだ、俺の中ではどっからが感性で、どっからが心なのか分かったもんじゃないさ。けど、切り離された胸の内と頭の中は別物なんだってな。
だから女の心と男の頭……ついでに女の体でごっちゃごちゃになってる俺は今、悪戦苦闘中だ。
「……なあ姉さん、これ着けなきゃダメ?」
俺の手には姉さんから手渡された水色のブラジャー。
「あったり前でしょ。お風呂以外いつでも着けなさい」
まるで着けてなきゃ生きてけないみたいな言い方だ。それならブラジャーが無かった時代はどうしてたんだとか気になったが……
「ブラジャーは1914年、アメリカのジェイコブ氏によって特許が申請されたもので、それ以前の下着は……」
「わかった、着けるから専門知識は勘弁してください」
まあ、それは良いや。よくわからないけど重要なものらしいしな。それで俺はホック?との戦いに勝利してブラジャーを装着したんだが……。
もみもみ
「何? 神妙な顔して」
「……いや、姉さん、この硬さは男の夢を壊すぞ」
別に大して興味は無いけど、僅かに残った俺の部分が『これはいかん』と言っている。……気がする。
「大丈夫。ミカみたいな童◯でも無ければそんな夢見ないから」
あっ、そう……。
いつか天国の息子に会うことがあったら謝っておこう。
「それにちゃんとバストを支えられるブラじゃないと垂れるよ」
わかった。ブラ、大切、俺、覚えた。
……で、それから俺は
「んん……なんかぴっちりして落ち着かない」
「あれ?結構骨盤広いのね」
パンツ。……ショーツ? パンツじゃないの?
「うわっ、スースーする!」
「中に短パンでも履いとけば?」
「それは男の夢を壊すだろ!」
「めんどくさ……」
我が黒歴史のスカートを履いたりした。
「けどなんだかんだ言って、物は嫌いじゃないんでしょ?」
「うん」
そうなんだよなあ。
姉さんが貸してくれる服はどれもこれも、綺麗だったり可愛いかったり。俺はそれに感じ入るものがある。下着だけは流石に俺に用意してくれた物だったけど、デザイナーがそうあれと思って手掛けたそれらはとても可愛らしく、俺は下心無しに魅了されていた。
多分、この辺は最初からなんだろうなあ。
そんなこんなで今日も学校。今日の俺は一味も二味も違うぞ。
「どーよ」
そう、今日の俺はピシッと決めたブレザーにつやつやに梳かした金髪。もちろん、スカートの中にだって夢が溢れてる。昨日までとは違う、正真正銘の美少女だ。
「わーすごい(棒)」
親友よ、それが目の前でポーズを決める美少女に対する反応なのか?
「うん、まずポーズな? なんで世界最速の男なんだよ」
は? あの肉体美が良いんだろ。
「もうちょっとリアクションが欲しいなあ」
「なら手本を見せてみろ。……口か鼻かは選ばせてやる」
ガネの奴はそう言ってスッと俺にチューブのワサビを差し出す。
「美少女にする事じゃないな!? てかなんでそんなもん持ってんだ!」
「は? 弁当の飯にかけて食うんだよ」
「リアクション芸人みたいなもん食いやがって! それでなんでリアクションが出てこないんだ!?」
「……」
「……」
「……」
「ぷっ、ふふふ……」
「くくく……」
ああ、やっぱりお前は良い友達だよ。
「元気そうで何よりだよ」
「おかげさまでな」
こいつは今の俺にとり、既に異性だ。それでも俺は、今までのこいつとの関係をこれからも変えたくないと思っている。いや、変わらないと信じている。
こいつは出会った時からそうだった。口調はそこそこ生意気で、そのくせ見た目は完全に陰k……冴えない感じだ。けどその実、本質は極めて誠実な男だ。こいつの人を見る目は、かなり独特な俺の個性を知った上で、俺を一人の人として見てくれた。それに比べれば、俺が女になった事なんて些細だろ。
他の誰かには話せなかったろうな。俺の個性の秘密を守ってくれてすら居た、こいつ以外には。だから、俺もこいつを信頼できる。だから……
「とりあえずワサビしまおう? な?」
「お前の醜態なら昨日たっぷり見せてもらった。今更何を気にする?」
やめろ。それは鼻水どころの騒ぎじゃなくなる。
出来るだけ更新ペースを維持したい……