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女になった俺、失恋

 俺は昔からダメなんだよ、そういうのは。


 家族で遊園地なんかに行ってみたってそうだ。ジェットコースター、ダメ。お化け屋敷、ダメ絶対。

 そこには俺が男だ女だ、それ自体は関係ないと思う。だって姉さんも母さんも普通に楽しんでたしな。


 けど俺は本当にそういうのはダメなんだ。昔からアドリブが効かないとかそういう自覚はあったけれど、その延長なのか『ビックリ』とか『ドッキリ』とかそういうのは本当にダメなんだって。


 だからそういう――


「本ッッッ当に申し訳なかったッッッッッ!!!!!」


「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!」


 心臓に悪いのは本当にやめろ!

 やっとのことで緊張をほぐして、いざとなったその直後なんて不意打ちもいいとこだ!


「すっ、すまない!」


 俺の悲鳴に驚いてか、馬下(まおろし)は面食らったように頭を上げた。

 ……いや、驚いたのはこっちなんだけどな。


 俺は不意打ちからなんとか体勢を立て直すも、動悸は収まらない。心臓は緊急事態にアラートを鳴らしっぱなしだった。

 ふと、そんな俺の手首に触れる感覚。

 振り返ってみると、ガネが俺の手首を掴みながら、丸眼鏡の奥の三白眼でスマホを見ていた。


「何やってんのお前」


「心拍数120……かなり焦ってるな」


「余裕か! お前だけ余裕か!」


 なに人の心拍数測ってんだよ。

 ……ああもう、このお節介焼きめ。


 俺は一度大きく息をついて、改めて馬下に向き直った。


「ちょっと、時間あるかな」


 あの時はただこっちの想いをぶつけて終わりだった。けど、もう一度……今度はちゃんと話してみよう。

 今の馬下の謝罪も含めて。














 育ち盛りの高校生の中でも、馬下の体は大きい。

 いざこうして向かい合って座ってみると、縦にも横にも、その大きさが良く話かる。小柄な親友と比較してみれば、同じ椅子に座っているのかというほどだ。……まあ、その親友は今、席を外しているんだけど。


 ……と、今はそれよりだな。


「あの、さっきのって、なんで俺に謝ったの?」


 聞いてみれば、馬下はばつが悪そうに視線を斜め上に泳がせた。けど、直ぐに意を決したように口を開く。


「……重ねて、申し訳なかった。それと、すぐに謝りに行かなかったことも」


「え、なんで?」


「それは……」


 言い淀む馬下の答えを、俺は待つ。

 こいつは口調と体躯の割に、物腰は柔らかい。そういえば、そんなところも好きだったな。


「あんな断り方って、無かったと思う」


 そうか、馬下は俺の告白を断ったあの時、俺に酷いことを言ったと思っていたのか。

 それをずっと気にしてて、今になって謝りに来たんだ。律儀なところも、好きだったな。


 けど、あれは――


「仕方ないよ。変なことだけどさ、俺は本当に男だったし。しかも男だった時からえっと、すき、で……き、気持ち悪いだろ?」


 確かに、傷つきはした。だけどあの拒絶はそう、一般論だったと思う。

 俺だってそうなんだから、男に告白されて嬉しい男も、無いではないかもしれない。でも、それはどうあがいたってマイノリティ。

 だから『無理』なんだろう。


「そんなことはない」


 潔く諦めようと思った。なのに馬下の言葉は、あくまで俺を引き留めた。


「告白されたことは嬉しかった。ありがとう」


 拒絶なんかじゃない、こいつはむしろ、俺の事を受け入れていた。悪意じゃなく、好意として、こんなに真摯に。

 胸の中で何かが広がって、呼吸を圧迫してくる。

 夢みたいだ。俺が憧れた人は、何処までも俺の理想の男性なんだ。


「けど――」


 大人びた顔の初心な少年の顔が俺の胸を打つ。

 そのあとに何が続くか分かってる。嫌だ、その先を言わないでくれ。諦められないよ。だって俺はこんなにこんなにお前のことが――


「好きな人がいるんだ」


「そっか」


 これが、現実だ。
















 教室を後にした馬下。それと入れ替わりに、親友が姿を現す。

 日も落ちかけ、光の薄くなった教室には俺とガネの二人しかいない。


「なあ、お前はさミカ……あいつのどこが好きだったんだ?」


「……全部」


「全部って?」


「全部だよぉ……大きい手も背中も、真面目なのに柔らかい性格も! 心も体も俺にないもの全部全部ぜんぶすきだったのにい!」


 心の中にあった一つ、大きなものが全部溢れ出た。いや、叶わない想い全部叫び出したくて、我慢できなかった。


「そうか……」


 俺は親友にも構わず、今度こそ空っぽになるまで嗚咽し続けた。

6秒間に何回脈があったか計測しましょう。

×10で毎分心拍数です!

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