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女になった俺、ピンチ

 因果応報という言葉があったな。

 明確な定義はともかく、良いことをすれば自分に良いことが返ってくる。悪いことをすれば悪いことが自分に返ってくるとか、そんな意味だったはず。


 なんで今そんなこと言うかって? うん、そうなんだ。


「子野さん、そろそろ満足……」


「してないです。まだです」


 真後ろの子野さんは表情こそ見えない。けど、いつもの弾むような声とは正反対の、抑揚のない声色。まだ機嫌は治らないらしい。


 つい出来心でやったことだ。それが自分に返ってきた結果がこれ。

 俺は今、背後の子野さんに思いっきり胸を揉まれている。


「ふむぅ、子野っちも凄いけど、ミカちんも、なかなかのものをお持ちでぇ」


 そんな俺の胸を凝視するのは、子野さんのクラスメイトの花路(はなじ) 沙鳥(さとり)だ。

 俺が子野さんに持ち上げられて、魔窟に連行されてきたのはつい先程。

 教室の一角に陣取っては無言で俺の胸を揉み始めた子野さんと俺の目の前に陣取り、その光景をまじまじと見つめていたのだ。


「あの、助けてくれたりは……」


「だめだめぇ、こんな美味しい場面を止めてしまうなんてとんでもない」


 どうやら花路さんに子野さんを止める気は無いらしい。

 元から下がり気味だった眉尻を八の字に下げ、切れ長な目を更に細めてコロコロと笑っていた。


もみもみ……


 それはそうと、無言で俺の胸を揉み続ける子野さんの手は止まる気配がない。

 元はと言えば俺が先に手を出したんだけど……。


「ちょちょちょっと子野さん、な、なんか」


もみもみもみもみ……


 やばい、なんか、なんか背筋に来るこの感覚はやばい!


「……んっ」


「子野っち!」


 謎のふわふわぞくぞくとした感覚の中、花路さんが声を上げるも、子野さんから反応はない。

 だが手は止まらない。


「いかん、いかんぞ子野っち!」


 頼む花路さん! 子野さんを止めてくれ!


「このままではミカちんのエッチな声で男どもが中腰になってしまう!」


 何言ってるのこの人!

 いくらなんでもそんなことで……いや、なってるわ。


 改めて周囲に目を向けてみると、中腰で苦悶の表情の元同士達。すまん、健全な男子諸君。


「けしからん、けしからんぞぉ」


 などと言っているが花路さん、実は止める気ないな? ……あれ、なんであんたまで中腰なってんの? 中腰になってまで隠すものないよね?


「って、花路さ、んっ、見てないで助け……」


 そろそろ余裕もない。こみ上げてくる恥ずかしさに、目頭がちょっと熱くなる。

 ほ、本当にそろそろ助けてくれないと……!


「あっ、その表情ぉ、イイ……」


 しかしその言葉を最後に、花路さんは鼻からツウとひとすじの血を流し、その場に崩れ落ちた。


「は、花路さーん!?」


「また花路が鼻血を出して倒れたぞ! 保健委員!」


 またって、花路さん前科持ちかよ!


 花路さんが倒れ、いよいよ教室内が混沌としてくるが、子野さんの手は止まる素振りが見えない。


 前回に引き続き、俺はこのクラスで、このまま恥の上塗りをするしかないのか……そう思ったとき、昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムが鳴る。

 ぴたりと止まった子野さんの手から、俺は抜け出した。

 そこから振り返ってみると、いつもは丸くて大きいはずの半目と、膨らんだ頬が不満を訴えていた。


「今日はこのくらいで勘弁してあげる」


「は、はひい……」


 俺は思わず腕で胸を隠し、逃げるように魔窟を後にした。


 自分のクラスに戻ってみれば、親友(ガネ)のにやけ顔に出迎えられた。


「楽しかったか?」


「そ、それどころじゃねえよ……!」


 そうとも、俺は聞き逃さなかった。

 子野さんが最後、何て言ったか。今日は(・・・)このくらいで勘弁してあげると言ったのだ。つまり次もある。


「あはっ、あははは……」


「まーた頭がおかしくなってやがる」


 諦めのあまりに笑いがこみ上げてくる。なんとなく、けど確実に、子野さんから逃げ切れる気がしてこなかった。


 何故ならと、子野さんの顔を思い出す。

 不満ありありとした顔だった。引き結んだ唇で頬を膨らまし、丸い目と、眉を吊り上げて訴える不満。


 ふと気が付くと、その顔の事しか考えられなくなっていた。

 逃げれるとか逃げれないとかそんなことじゃなくて、俺は逃げようとするだろうか。あの顔で、また見つめられて――


「百面相もそこそこ面白いがミカ、そろそろ戻ってこい」


 なんでだろう、また顔が熱……


馬下(まおろし)の奴がお前を探してたぞ」


「……えっ?」


 親友からの言葉に、俺の思考は顔の熱さ諸共、全部吹っ飛んだ。

 無理もないだろう。だって、なんで俺を振ったあいつが、俺を探してるんだ?

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