女っぽい俺、女になった。
TSは良いぞ(洗脳済み)
そういえば記憶にある。二つ歳の離れた姉が七五三の頃だったから、その時、俺は五歳だったか。
お洒落で姉さんが履いたスカートを見、俺は『僕も着たい』なんて言ったんだったかな。姉の他には誰が居たんだったか。その人は苦笑いで『大きくなったらね』なんて言った。
もちろん、それからというもの、俺がスカートを履くなんて事は無かった。そりゃあ男だしな(笑)
それでも【スカート着たい事件】は無邪気だった俺の、偽らざる本心でもあったんだと思う。昔からよく言われてた。どうにも女の子のようだと。
言いたい事は分からないでもない。
何せ俺は自らを省みるに、女性らしい感性は持っていると思っている。
手先は器用。というか手先を使った遊びや趣味が楽しい。裁縫や料理だって御多分に洩れずさ。
そこそこ寂れた片田舎に住みながら、虫は嫌い。大嫌い。ゴキがこっちに飛んで来ようものなら絹を裂くような叫びを上げる自信がある。声は野太いけど。
もちろん自分は男だと理解はしているし、周囲の人間も俺のことは男の子として見てたし見れたんだろうが、素質はあった気がする。
いや、それも環境に育まれたのかもしれないけどな。何せ周りには女性ばかりで育った。多忙にして家に滅多に現れない父、家庭には母さんと姉さんと、爺さんに先立たれた婆さん。
田舎の小学校には一学年に二十人だって居ない。流石にクラスの俺以外みんな女の子でした〜なんて馬鹿な話にはならないが、ご近所の同学年みな狙い澄ましたように女の子。
流石にコミュニケーション能力に問題の無い俺は、徒歩の通学には友人と無口で……とはいかない。
で、家族相手にもちゃんと接する俺。気が付いたら女寄りになってても仕方なくね?
まあ良いさ。この辺までは俺もまともだったからな。性質は女の子寄りでもちゃんと男の子だったからな。
問題は幼年期じゃなくて思春期だよ。
出会っちまった。おおよそ、運命の人って奴に。
そいつはまず優しい。んで笑顔がそう、なんというか眩しい。んでもってスポーツ万能で……そう、引き締まった筋肉が……ん?
何?好きな人を語ってるにしてはおかしい?ああ、そう、それが問題なんだよ。
好きな人ってのは俺と同じ男だ。俺こと、鹿襟 巳片はホモである。どうやら恋愛対象すら女寄りになっていたらしい。いや、それともこれはゲイというのか?別にどっちでも良いや。
重要なのは女よりも男が好きという事だ。
……はあ。いや、別にだからといって好きな人を嫌いになった訳でも無いし、好きなものは好きなんだから仕方ないじゃん?
そりゃニュースの上では同性婚がセーフだとかそういう感じにはなってるけどなあ、世間的には視線も風も冷たいものを感じる訳よ。受けた事無いけど。
しかしまあ、辛かったわ。人を好きになる事を後悔するなんてな。想っても報われないだろう事は勿論、この先想う誰かも自分と同性だろう事もな。
辛くて悔しくて、女々しく男泣きしたもんだ。そして自分の過去を、呪わずに居られなかった。
もし家にいつも居るのが父だったら。もし兄弟が姉ではなく兄だったら。祖母でなく祖父が生きていたら。男の友達がたくさん居たなら。
どれも仕方ない事だったけど、それだけ俺も辛かったのさ。けど、呪いはだんだんと姿を変えて『もし〜だったなら』なんていう願いともつかない荒唐無稽な妄想に変わっていったんだ。
……で、だ。
その妄想の一つに結果がついてきた。
なるほどこれなら、愛しい人に想いを伝え、愛し合う事が出来る。
ある日、俺は女になった。理由は知らない。寝て起きたら女になってた。
胸には触れればふよふよと柔らかな双丘。股にあった筈の相棒は、子も為さぬならとばかりに退散していた。
「さよならち◯こ」
汚い言葉を発してみれば綺麗な声が響く。しっとりと、沁み渡るような美しい声だった。
そして、頭を動かすとサラリと目の前に流れてくる髪。……なんで金髪なんだ?
いや、そんな事は今更無粋だ。性転換というこの現象だけでも十二分に不可解だし、それに……俺の願いが叶うんだ。
正直、もう頭の中は万々歳だ。無神論者の俺だったけど、今となっては何某かの神様ってやつを信じられると思う。なんならバイト代の諭吉を生贄として賽銭箱に身投げさしても良い!
とにかくありがとう神様! 俺、あいつに想いを伝えて幸せになるよ!
「いや、あの……無理」
数時間後、俺の願いを聞き届けてくれた神様は死んだ。
[2019/1/6]
感想でご指摘がありました不整合を一部修正させてもらいました。
主人公の自己評価がほんの少し変わりましたが、ストーリー等に影響はありません。
今後ともよろしくお願いします(´ω`)