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7

 まもなく、機械を触っていた宇宙人も作業を切り上げて、全員が枠のまわりに集まってきた。

 いよいよ、本当に覚悟を決めなければならないか。リンとミーコが毛を逆立てているが、威嚇の声は弱々しい。俺は、床に座ったまま、ぼんやりと宇宙人の顔を見上げていた。諦めの境地ってやつだな。もう威嚇する気力もない。

 宇宙人の1人が、一番前にいたリンを捕まえた。リンは短い悲鳴をあげ、体を捩って暴れたが、宇宙人はかまわずに抱き上げる。

 あれ、枠の外に出られた?前脚を伸ばしてみるが、見えないゴム膜の感触はまだある。宇宙人と宇宙人の触ってるものだけは通り抜けられるということだろうか。どうなってるのかまったくわからん。

 別の宇宙人が、手に持った小さな機械をリンに向けた。リンも俺たちも、びくっと硬直した……が、特に何も起こらなかった。それでも、それで宇宙人の目的は達成されたらしく、リンはすぐに枠の中に戻されてきた。

「何されたの?」

 ハナが慌てて聞いたが、リンは戸惑った表情で答えた。

「別に、何も感じなかったけど……」

 そのとき、宇宙人がこんどはハナを抱え上げた。しかも、2人の作業を手伝おうというのか、それまで見ていた残る2人の宇宙人も一緒になって、俺たちを次々と捕まえ始めた。

 こうして、俺たちは何度も宇宙人に抱え上げられ、小さな機械の前に突き出された。そのたびに、機械を持った宇宙人が何か操作しているようだが、リンの言うとおり、とくに痛いとか痒いとかはまったく感じなかった。

 やっぱり、抱えられている間だけは、透明な膜が消えたかのように自由に枠から出ることができるようだ。でも、宇宙人の手が触れていない時は、どうしても枠から出られない。

「おい。あいつら、なんかおかしいと思わないか?」

 何度目かに床に降ろされたとき、横にいたマルがささやいた。

「ああ、確かにな」

 心に余裕が出てきたのか、俺たちは違和感に気付いていた。この宇宙人たちには、まったく殺気のようなものが感じられない。これから動物にひどいことをしたり命を奪おうとしているにしては、なんだかあまりにも穏やかすぎるような気がする。もしかしたら、俺たちのことを生きた動物だとすら思っていないとか、あるいは、地球の動物とはまったく違う殺気の出し方をいるので、俺たちが気付いていないだけということもあるかもしれないが。

 

 どうやら、小さな機械を使う作業は一区切りついたらしく、しばらく休憩のようだ。俺たちは床に降ろされた。枠の中ではない。部屋の中なら自由に歩き回ってもいいということなのか?さっそくミーコが、あちこち歩き回っては、壁や機械に体をこすりつけてマーキングし始めた。おい、ちょっと待て。お前はこんなところを縄張りにする気なのかよ。と言ってるそばから、リンも一緒になってやり始めるなってのに。

 そのとき、宇宙人が近づいてきた。今度こそ痛いことをされるのでは……と、慌てて身構えた俺たちの前に、宇宙人は何かを置いた。何だろこれ?縁が少し上がった黒っぽい四角い板の上に、白っぽい粒が混じった茶色のものが山盛りになっている。

「これ、食べ物?」

 ああ、そう言えば、雰囲気的には人間がいつもくれる猫缶に似てるような気もするが。

 マルが、慎重に近づいて臭いを確かめた。

「ど、どう?」

「わからんな。こんな臭いのものは見たことがない」

 まあ、そうだろうな。

「宇宙人の食べ物なのかもしれんが」

「毒でも入ってるんじゃないのか?」

「でも、おいしいよ?」

 いや、いくらおいしくても毒が入っていたら……って、ミーコ、もう食べてるのかよ!いくら好奇心旺盛な年頃とはいえ、もう少し慎重に考えて動けって!

「あ、ホントだ。おいしいねこれ」

 リン、おまえもだ!

「どうする?」

「ま、ここまで来て必死に警戒しても無駄な気もするしな。俺たちも食べてみるか」

 既にばくばく食べているミーコとリンが何ともないということは、毒が入っているわけではなさそうだし。

 食べているミーコとリンに遠慮しながら、端のほうから一口分くわえて少し離れたところまで持っていく。床に置いて臭いをかいでみるが、確かに猫缶とも俺の知ってる人間の食べ物ともまったく違う。思い切って一口食べてみる。不思議な味だが、うん、確かに悪くはないかも。

 結局、俺たち5匹で盛られていた分をほとんど食べ尽くしてしまった。結構な量だったと思うんだけど。

「あー、おなかいっぱい」

 いや、ミーコ。だからって、いくら何でもくつろぎ過ぎだろ。こんなところで丸まってうとうとし始めるなって。お前、すっかりここが自分の家だと思ってるだろ?

 いや、でも、確かに満腹で眠くなってきた。床が固くて冷たいのが気に入らないが、あたたかい座布団でも敷いてあれば、このまま寝てしまいたい気分ではある。


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