君となんて、出会わなければよかった
恋物語、書きました。
短編ですので、気軽に呼んでくだされ。。
少しでも、心に残ってくれると嬉しいです。
「ねえアッくん、好きぃ!」
「はいはい分かったよ、ったく、町中でまでくっつくのやめろよな……」
もうすぐ春、寒々しかった季節がいつの間にか暖かくなって、我が家の前の桜の蕾も開き始めている。
「んふふー、いーじゃん別に、減るもんじゃないしぃ!」
「そういうおっさんみたいな発言はやめなさい」
ポコッ!
僕は頭に軽くチョップを入れる。
「あたっ! ……もう、アッくんのケチ!」
「いや知らねえよ……」
僕と美咲は、小さな時から一緒に育った幼馴染だ。
家もお隣で、一人っ子だった僕の遊び相手といえば、友達よりもまず思い浮かぶのは美咲だった。
それからもずっと、僕らは一緒に育った。
いや、ずっとは嘘だ。
美咲は、高校入学と同時に姿を消した。
僕になにも告げずに。
僕は両親や、美咲のご両親にも問いただした。
すると、なんと美咲はアメリカに留学をしに行ったらしい。
何も伝えられなかったのは少し悲しかったが、それでも、時折アメリカに行く美咲のご両親に助けてもらって、何度か手紙を送りあった。
そして、大学受験を終え、入学式を待ちわびていた僕の元に、美咲は突然帰ってきた。
その時の衝撃は、今でも忘れない。
虫も殺せないような大人しい女の子だった美咲が、天真爛漫そのもののようになって帰ってきたのだ。
そして、再会するなり、僕の腕に潜り込み、
「ただいまアッくん! だーい好き!」
何が美咲を変えたのだろう。
アメリカか? アメリカが変えたのか?
まあ、それからはずっとそんな調子で、一週間も経つと、あんなに恥ずかしい気持ちをしていた美咲の告白にもさすがに慣れてきた。
「ねえねえアッくん、大学生って何するの?」
「え、そりゃ、勉強したり、サークル行って友達作ったり、するんだろ?」
「ふーん、なんか、楽しそうだね!」
「そういえば、美咲は大学行かないの?」
「うーん……じゃあ、アッくんとおんなじ所!」
「じゃあ、で入れる大学じゃ無いからな! 僕がどれだけ勉強したと思ってんだ!」
そんな他愛もない会話をしながら、僕らは山を登る。
と、いっても別に山登りを楽しんでいるわけでは無い。
山の上の方に、お墓がある。
『足利家代々ノ墓』
『山内家代々ノ墓』
これまた、見事に隣に並んだ二つのお墓。
足利は美咲の、山内は僕、篤志の名字だ。
僕らの両親は、僕が高校生の時、亡くなった。
美咲の両親は、アメリカで交通事故にあった。
僕の両親は、僕が出かけている間に、家が火事になって亡くなった。
僕の周りで、突然大人がみんな亡くなってしまった時は、路頭に迷いまくっていた。
でも、なんとか必死に努力をして、奨学金で大学に入る事が出来た。
「よーし、パパ! ママ! 私頑張るからね!」
合掌を終えると、美咲は墓石に向かって宣言する。
「何を頑張るんだ?」
「うーん、何でもないよ〜」
そういうと、美咲はスキップで先に墓地を出ていってしまう。
それを横目で見た後、僕は二つの墓石に、美咲を習って宣言する。
「美咲の事は、僕が絶対に守りますからね」
それから、二人で家に帰った。
僕の元の家は、火災のせいで何もなくなってしまい、今では美咲の家に居候という形になっていた。
「て、いうか私が帰ってくる前にアッくんここ住んでたよね!」
まるで僕の心を、読み取ったかのような返答に一瞬驚いた。
「ま、まあ僕にとっては、両方とも我が家みたいなもんだったし、美咲のご両親も親戚になんか口聞いててくれたみたいだし、感謝してるよ」
「ふーん、ま、今じゃ私と二つ屋根の下、イチャイチャしてるだけだけど〜」
「いつ僕がイチャイチャしたんだよ!」
「してるじゃない、いっつも」
「僕がしているのはお前が一切やらない家事全般だよ」
「し、してるしぃ!」
全く平凡な、他愛もない会話。
これが日常。
常だった。
でも、異常は、突然やってきて、常が不変でないことを知らしめる。
僕の両親の様に、美咲の両親の様に。
今、僕は病室にいる。
病床に臥しているのは、美咲。
身体中を色んな管に繋がれて、植物の様になっている。
「美咲、どうして黙ってたんだよ……」
美咲は、余命幾ばくもないらしい。
もう、治らないと言われた。
アメリカではずっと入院していたみたいだと、医者は話す。
アメリカでの治療を中断してまで、日本に帰ってきたそうだ。
「自分の死期を、悟ったのかもねぇ……」
医者は無責任に語った。
僕に、怒るほどの力は残っていなかった。
美咲の、小さな手を握る。
白くて、冷たい。
「美咲、寒いか? 元気出せよ」
握る手に、力が入る。
胸の奥が、潰れそうになる。
「また……僕が近くにいる人が死んじまうのかよ……」
我慢していた感情が、雫になって溢れ出す。
「一人に……しないでくれよ……」
ポンッ
頭に、とても弱々しい衝撃があった。
顔を上げると、美咲が笑っていた。
「もう……アッくんは、泣き虫だなぁ……」
「ぅえぇ? み、美咲ぃ……」
「ふふ……情けないなあ……」
美咲はそう言いながら、僕の頭を撫でる。
その弱々しさが、余計に胸を締め付ける。
「美咲、どうして黙ってたんだよ……」
美咲は少しだけ口角を上げて言う。
「さいごに……最期に、アッくんと沢山お話したかったからだよ」
「じゃあ、沢山話そう」
それから、僕たちはいっぱい話した。
小さい時、僕が美咲のために取ってきたカブト虫を、美咲が一瞬で逃してしまった事。
美咲が先輩に告白された時、本当は寂しくて泣きそうだった事。
美咲が僕の事を、昔からずっと好きでいてくれた事。
「ねぇ、アッくん……今、何時?」
美咲に聞かれ、僕はスマホで確認する。
「もうすぐ零時、日をまたぐよ」
「そっ、か……」
そう言うと、美咲は天井を仰ぎ見た。
「私、もう篤志君の事、忘れるから」
唐突に、しかしはっきりと、力強い口調で美咲は言う。
「……え? 何言ってんだよ」
「もう、篤志君とは会えないんだし、いつまでも篤志君には頼ってられないし、向こうに行った時、一人でも平気な様にしないとーー」
「だから、もう篤志君の事は好きじゃないよ」
美咲は、僕とは決して目を合わせずに天井の一点を見つめながら淡々と話す。
「美咲……」
「一人に、して」
僕は、何も言えなくなって、病室を後にした。
一人、呆然と歩く。
何も考えられない。
また、僕は独りになるのか。
そのまま、僕はホールのソファに座った。
座って、呆然と壁を眺める。
壁には、色んな紙が貼ってあった。
と、偶然に目に入ったものを見て、僕は全て気付く。
「美咲のくせに……!」
走って病室に戻ると、いつの間にか医師が数人で美咲を囲んでいた。
「え? どうしたんですか?」
「ああ、山内さん、ですね? 残念ながら、足利美咲さんは……」
「最期の少しの時間、そばにいてあげてください」
それ以上、医師達は何も言わずに病室を後にした。
「美咲」
僕は美咲の手を握りながら、話しかける。
「僕だって、お前には迷惑かけられてばっかだよ。急にどっかいなくなるし、家じゃなんもしないし、全然可愛くないし」
自然と、また涙が止まらなくなる。
「君となんて、出会わなければよかった」
涙が、溢れる。
感情がぐちゃぐちゃになる。
自分が何を言っているのかも、考えられなくなりながら、自然と本音がもれた。
「君の事、大好きだったんだよ、僕だって。ずっと、ずっと、大好きだったよぉ……」
その時、確かに手に力を感じた。
それから、数秒後、力が消えた。
病室には、高い機械音が鳴り響いた。
僕は、スマホの画面を確認する。
『4月2日 0:05』
「……約束、守れて良かった」
それから、僕は朝まで一緒に過ごした。
朝になって、家に向かう道の途中、一人で小さい頃の事を思い出していた。
「ねえねえアッくん! しがつのさいしょのひって、うそつかなきゃダメなんだって!」
「ちがうよみさきちゃん、うそついてもへいきなだけだよ、うそはだめだよ」
「うーん、でもせっかくだしなぁ」
「せっかく?」
「じゃあ、そのひのおわかれのまえに、おたがいうそをつくってどう?」
「どうって、まあいいけど……」
「ふふっ、やくそくだよアッくん!」
「うん……」
僕らは、指切りで約束をした。
空を見上げて、色んな事を思い出す。
不思議と、涙は出なかった。
ーー家の前の桜は、綺麗に、美しく咲いていた。
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