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甘味戦争

作者: Halu
掲載日:2017/05/21

青羽根シナリオラボ、キャラクターミックス企画参加作品


キャラクター紹介


早瀬三園ハヤセ ミソノ

京大に通う京都女子。

基本的に図書館、博物館、美術館にいる。ちょっと周囲の人が引くくらい博識。

「頭使ったら甘味」とばかりに甘味処に通っている。京都にある甘味処は全制覇したという噂もあったり。



御園美涼みそのみすず

20歳

さすらいのかき氷屋さん。相棒の屋台と一緒に日本全国でかき氷を売り歩いている。



ルナ


見た目は同年齢の子供より少し小柄で、中身も年齢相応の幼女。優しい両親に恵まれ、ひとりっ子な事もあって愛情いっぱい、すくすく元気に育っている。


一言で太陽系を消滅させられる力を持つ。今はまだ自分の真の力に気が付かず、自分の体を強化してかけっこで一番になる、テレビを何も使わず離れたところからつける等、無邪気に魔力を使っている。


現状できることは効率的に魔力を動かして超常現象を起こす魔術ではなく、膨大な魔力に物を言わせた物量作戦(力押し)であり、このあとどう成長するかによって、人類の敵にも味方にもなる存在。

「早瀬先生!こっちこっち!」


駆け足で先をゆく少女を追いかけて、私は走っていた。学童のアルバイトで子供達と鬼ごっこで遊んでいた私は、今回こそはと、いつもどうしても捕まえられない瑠奈ちゃんに挑んでいる。大学生活で運動とは無縁になった私でも、小学二年生ならばまだ身体能力では勝っているはずなのだが、瑠奈ちゃんだけは、どうしても捕まえることができないのだ。


「捕まえた!」


「きゃっ、あぶない!」


伸ばした手が空気を掴む。またしても寸でのところでよけられてしまった。ちょうどその時、防災無線でチャイムがなった。チャイムを聞いて、一緒に遊んでいた子供たちが一斉に学童へ向かって走り始める。


「えへへ、また捕まらなかったよ!」


瑠奈ちゃんは私の腰に抱きついてくる。瑠奈ちゃんには気にいられているようで、隙あらばベタッとくっつかれる。瑠奈ちゃんをくっつけたまま学童にもどる途中、ポケットにいれていたスマホに電話がかかってきた。瑠奈ちゃんを先に戻らせて、一人になったところで電話に出る。電話の相手は御園美涼、二年前、京都の甘味処を制覇する途中でに出会った、同い年のかき氷屋さんだ。かき氷の屋台を押しながら日本全国を回っている変り者で、この間は電話で、大阪にいると言っていた。


「もしもし?」


電話の向こうからは、女子にしては低めな声で、三園か?という返事が来る。この声に反さず、御園は乱雑に切り詰めた髪、高めの背、男らしい口調にケンカを仲裁する事に躊躇いのない度胸と、そのへんの男よりも男らしい。


「そうだよ。こんなに短い期間で電話してくるなんて、珍しいね」


「ようやく京都に戻ってきたんだ。お前に連絡しないわけにはいかないだろ」


「え?京都にいるの?この間はまだ戻ってこないって言ってたけど」


「ちょっと用事があってな。あと四日くらいで京大の近くまで行けるんだけど、会えないか」


「もちろん!どこに来るの?」


心が踊る。この時、心が踊った理由が再開より、美味しいかき氷であることに少し、申し訳なく感じた。




「名まえとみょう字がおんなじなの?おもしろーい!」


三園と一緒に屋台に来た少女はいちごのかき氷を食べながら名前の不思議に感動している。三園はというと、新しく開発したタールチョコのかき氷を一心不乱に貪っていた。私はかき氷を削るための特注のナイフを手入れしながら、少女に話をふる。


「美味しいかい?」


「うん!とってもおいしい!みそのおにいさん、かき氷作るの上手だね」


「瑠奈ちゃん、実は、御園はお姉さんなんだよ」


「ええ!?」


不思議そうに目を丸めた少女は、上から下まで視線で探ったあと、何かを納得して頷いた。


「みそのおねえさん、まちがえちゃってごめんなさい。ねぇ、お友達になってくれる?」


「いいけど、あんまり遊んだりできないぞ」


「いいの。また会いたいし、わたしもかき氷作りたいの!」


「わかった。今度かき氷作りは教えてあげる。でも、今日はもう遅いから帰りな。親御さんが心配するぞ」


「うん、わかった。じゃあ、最後に約束。また会えるよね?」


「ああ、あえるよ」


少女…たしかるなという名前だった…が小指を出した。小指を引っ掛けて、指切りをする。静電気だろうか、少しビリッとした。


「バイバイ!」


「またおいで」


「また学童でね」


少女は背を向けて走り出す。それを見送ってから、三園の方に視線を向ける。


「急にごめんね。瑠奈ちゃん、いつの間にかついてきてて」


「いやいや、かき氷を美味しそうに食べる子供に悪い子はいないさ」


三園はいつの間にか完食していて、私に話をふってきた。


「それで、用事って?」


「ああ。京大の教授らしいんだが、この男、知ってるか?」


屋台の中から写真を出して見せる。


「知ってる、私授業とってるよ」


「実は最近、お菓子屋の間で噂があってな。この男が、世界中の人間が甘みを感じられなくなる何かを作っているらしい」


「た、たいへん!止めなきゃ!」


「さすが三園。京都の甘味処を制覇しただけある」


「甘みは正義、世界の潤滑油よ。だって、糖分がないと頭の回転が悪くなるでしょ?それに、お菓子がなくなったらみんな悲しむじゃない」


相変わらず面白い世界観だ。三園は甘味を全人類の共通の指標として捉えている。その行き過ぎた甘味愛のおかげで、全く宣伝をしてない私の、偶然ここで一日だけ営業した屋台を見つけたんじゃないかと、変に勘ぐってしまう。


「で、どうするの?ひとまず大学いく?まだ五時過ぎだし、教授、いると思うよ」


「ああ、そうしよう。話を聞いてみたいしな。支度するからちょっとまっててくれ」


店仕舞いをして、屋台の裏に作ったテントで着替える。流石に、氷の字が入った青いハッピで大学の敷地に入るのは気が引ける。服装は動きやすさ重視、荷物は氷と、削るためのナイフ、特性のシロップに、かき氷のカップ。これさえあれば、一応かき氷が作れる。荷物をクーラーボックスに詰めて、肩からかける。


「さて、行こうか」


「クーラーボックスって、釣りでも行くわけ?」


三園は苦笑いでこっちを見ている。


「氷が無いとかき氷が作れないだろ」


「え?作るの?」


「作るかもしれないからな。なんてったって、甘みは世界の潤滑油だろ?」


「いや、そうだけど…甘みを感じられなくする薬を作ってる人には効かないんじゃない?」


「大丈夫だ。かき氷を信じろ」


「………」




「ただいまー」


「瑠奈!ダメじゃない、どこに行くか教えてくれなきゃ。早瀬さんと一緒でも、出かける前に電話してって言ったでしょ」


仕事から帰ってきたママは、とっても怒っていた。私はママに謝って、次からはちゃんと電話することを約束して許してもらう。


「それで、どこに行ってきたの?」


「早瀬先生の学校のそばの、かき氷屋さん!早瀬先生のお友達のお店でね、私ともお友達になってくれたの!かき氷、とっても美味しかったの!お家の近くだから、今度ママも一緒に行こ?」


「ご馳走になったの?ちゃんとお小遣いで払えた?」


「お小遣いで払ったよ」


「そう、偉いわ、瑠奈。それじゃあ、ご飯にしましょうか」


「うん!」


そういえば、早瀬先生は今何をしてるんだろう。いつものように思いを馳せると、早瀬先生の事が見えてくる。早瀬先生は、見覚えのある所にいた。早瀬先生の学校の中だ。かき氷のおねぇさんもいる。二人はまだ見たことのない建物の中に入ろうとしているようで、これからどうするのかとっても気になった。


「瑠奈ー、御飯よー」


「はーい!」


呼ばれてしまった。続きはまた後でにして、ひとまずご飯を食べるためにリビングに向かった。




「ダメ。閉まってる」


研究室の扉は閉じられていた。中からは灯りが漏れているが、ノックをしても、呼びかけても返事が無い。


「どいてくれ」


「御園?」


御園はいちど勢いを付けて、肩から研究室のドアに体当りした。


「ちょ、御園?」


驚いて声をかけると、御園は平然と言い切った。


「ここに甘みを感じられなくする何かがあるなら、それを潰せばいい。簡単だろ?」


「ええ…それはないでしょ。第一、まだ確定じゃない訳だし、出直したほうがいいと思うんだけど」


二回、三回と御園が体当たりを繰り返すと、中からバタバタと足音が聞こえ、写真に写っていた教授が顔を出す。


「うるさいぞ貴様ら!ドアを壊す気か!」


「教授、聴きたいことがある。入るぞ」


「まて、貴様!勝手に入るな」


御園はスルリとドアの隙間をすり抜けて、中に入った。その時、奥の机に、試験管が載せられているのが見える。うすいピンクの液体が入ったものだ。怪しいと直感した時、教授が慌てて後を追ったので、私もその後ろから中にはいって、逃げられないようにドアの鍵を占める。


「教授、あんた、甘さを感じられなくする薬を作ってるんだってな」


御園は部屋の奥の方に入って、それらしい薬の入った試験官の前に立って言った。


「離れろ!それは私の最高傑作だ!もう二度と作れないのだぞ!」


教授が試験官を取り上げようと飛びかかり、机ごと倒れる。御園は教授と試験管を飛び越えて、こちら側に着地した。


ガシャン


机の上の試験官が割れて、教授の上に降り注ぐ。


「ぬぅ、私の最高傑作が!貴様ら、許さん!」


「いや、今のは自業自得じゃ…」


教授は自分の机から、黒光りする機械を取り出す。それが短機関銃…クリス・ヴェクターであることを理解するのは、すぐの事だった。


「伏せて!」


御園を押し倒して、金属製の棚の影に転がり込む。次の瞬間、鉄の嵐が襲ってきた。





「ふはははは、後悔するがいい。甘みを感じられない私の最後の希望を打ち砕いた、貴様らもが悪いのだぞ。貴様も甘みを感じられないようにしてやるわ!」


教授はこちらに打ち続ける。少しづつ位置を変え、ここを横から打てるように移動しながら。ここは袋小路だ。飛び出さなかったら、横薙ぎにされる。


「三園、行ってくる」


クーラーボックスから、特性のシロップの瓶を出して飛び出す用意をする。


「ちょ、死ぬよ?」


「ここにいても同じだ。だったら、やれるだけやる。ちょっと行ってくるわ」


「御園…」


棚の影から飛び出す。銃口から鉛球が飛び出してくる。ほんの数メートルの距離が、遠く感じた。


《あぶない!》


声がして、銃弾がすり抜けていく。一発だけ頬をかすめたが、それだけだった。シロップを教授の顔面にぶちまけて、銃を叩き落とす。


「ウップ…甘い、甘いぞ…シロップが…甘い…?何故だ?私は…甘みは感じられない…はず…」


「どうだ、うちの特性シロップは。なかなかの味だろ?」


教授は震えながら、頭を抱えて崩れ落ちた。ぶつぶつと小声で、今のシロップについて疑問を呈し続けている。パトカーのサイレンも聞こえてきた。どうやら収束するようだ。


「一件落着。かな」


そういえば、さっきの声は誰だったのだろう。三園ではないし、あの距離で銃弾が一発も当たらないのは奇跡だ。


「まぁ、甘みは正義、ってことかな」





四年後、御園は京都に戻ってきた。今日は瑠奈ちゃんと一緒に屋台に行く日だ。


「御園、久しぶり」


「お久しぶりです、御園さん」


「よ、三園。瑠奈ちゃんも、大きくなったな」


「でしょ?おじさんも、こんにちは」


「こんにちは、お譲ちゃん。早瀬さんも、その説はどうも」


屋台の中には、御園と一緒に、四年前の事件以降、御園の弟子になった教授の姿があった。御園のシロップに惚れて、弟子入りしたらしい。


「教授も元気そうですね。御園、かき氷2つ!特性シロップで!」


「あいよ!」


ちなみに、御園のシロップは万人が甘みを感じられるシロップらしい。このシロップのおかげで、世界の甘みは救われたのだ。


「へい、お待ち!」


「「いっただっきまーす!」」


一口。口の中で広がる、芳醇で濃厚な甘み。


「やっぱり、甘みは正義だね」

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