彼の名はジョン ドゥ
その男の船に久し振りに郵便艇が届いたのが昨日の事
船のポストに入れられたその手紙は 殺しの依頼だった
まず この男について説明しなければいけないだろう
その男の名は数千通りある
彼に仕事を頼むような連中は彼をこう読んでいる
〔ジョン ドゥ〕
フリーの殺し屋と賞金稼ぎを兼ねており その腕は「とりあえずあいつに頼めば大丈夫だ」
と語られるまであった
「へぇ...殺しの依頼は久し振りだね」
ジョンはそう呟き、愛猫を撫でる
飛空艇を掠める風の音が歯車だらけの部屋を揺らす
手紙を机に置き、少し考えた後立ち上がった
「さて 準備しますかね」
彼はまた呟き、錆び付き気味のドアを押し開けた
大きい螺旋階段を中央に聳えるパイプですっ飛ばし、また別の部屋に入っていくジョンは 端から見たなら優雅に 或いは非常に馬鹿らしく写っていただろう
暫くぶりに開けられた入口は朝日を受け入れ、まともに整理されていない部屋を照らす
そこは武器庫だった
「ふむ...そうですねぇ... 取りに行くのも面倒ですし...」
「今日はエルマになりましょうか」
そう言うと彼は<エルマ スキッティ>と張り紙が張られた木箱を開ける
中に入っていたのは拳銃2挺にナイフが一本 天命石が一個に 手首に嵌めるワイヤー射出器 束ねられたピアノ線だった
ジョンは拳銃を腰のホルダーに提げ ナイフを上着の内側に忍ばせる
ピアノ線をポケットに突っ込み、手首にワイヤー射出器をはめた
そして天命石をみてこう呟く
「え~と確かこの天命石は...」
首から下げているペンダントに天命石をはめ、ジョンはこう言った
「私は誰だ?」
そう言うとジョンは異常でありながら 慣れてしまった感覚を感じる
風の音は重くなり、呼吸はとても緩やか というより異常なまでに遅くなった
そして窓から見える雲は完全に動きを止めている様にも見えた
(問題はないようですね...)
(もういい 戻せ)
そう念じると風の音は戻り、雲も元通り動き始めた
「さて行くとしましょうか」
彼は武器庫の隣へと行き 愛用している小型飛空艇にエンジンをかける
ハッチが開き 勢いよく空に捨てられる
彼は巨大飛空艇都市オーレリアへと飛んでいった