5話
読んでいただき誠にありがとうございます。
予定ならもう少しストーリーを進めることができると思ったのですが、少しばかり忙しくて…。
前回のように間を開けるくらいなら、と思い投稿しました。
ではどうぞ
「ねぇ、何を読んでるの?」
不意に誰かの声が聞こえた。そんな気がした。
「僕のこと?」
「そうだけど?」
声の方を見ると、小さい頃の俺が誰かと話している。
学校の机に座り、本を読んでるところに、誰かが話しかけてきたようだ。
話している相手は女の子…だと思う。何しろ、全身か薄暗くぼやけていてよくわからないからだ。
ただ何故か、自分の中の何かが、あの人物は女の子だと伝えている。
「それで何読んでるの?」
「昔の人の伝記だけど……」
「ふ~ん、面白いの?」
その声を聞くたびになんだか懐かしく、そして悲しい気持ちになってくる。
「うん、面白い…と思う」
「そうなの?」
…あの悪夢を見た後に見るこの心地よい夢は一体なんなのだろう。
夢は脳の記憶や深層心理、自らの望むものなどから作られる、と本で読んだことがある。
その理論で行くと、俺の脳みそは女の子ぬ話し掛けられることを望んでいる、変な奴になるのだが…。
「かなり痛々しい奴だなオレは」
誰に伝わるわけでも無しに呟く。
自分の夢をこうやって悲観的に見ていても夢は劇のように続いて行く。
「本はあまり読まないけど、前から興味はあったの。だから貸してくれない?」
「最初はもっと簡単な方がいいと思うんだけど…」
「だったらさ…」
女の子が、本を読む小さい俺の手を取って
「私に似合うと思う本を教えて!」
「え?」
小さい俺は女の子の行動力にどうしたらいいかわからなくなっている。
「ほら行こう!」
「えっと…行くってどこに?」
「本が沢山あるところ!」
そう言って女の子は小さい俺の手を引き、歩き出す。小さい俺はそのまま女の子に引っ張られ、仕方なくその背中を追う。
10歩ほど歩いたところで女の子が何かを思い出し、歩きながら小さい俺に尋ねる。
「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったね」
「夢永コウ……」
「よろしくね、コウくん。私はね……」
女の子の正体が明らかになろうとした瞬間、誰かが俺の肩を叩いた。
……なんだよ、もう少しだけ見せろよ。
振り返るとそこには、あの女の子がいて……。
「君は行かないの?」そう言われた。
夢の世界が暗転した。
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「……きろ、コウ。当てられてるから」
…なんだよリュウ、寝かせろよ。
「…順番なんだから仕方ないだろ」
…だから何がだ。休み時間なんだから寝かしてくれよ。
「…休み時間はとうに終わったよ。寝ぼけてないで早く読めよ」
眠い目を擦り、体を起こす。
「おい早くしろ夢永ァ、授業終わっちまうぞ」
担任で俺らのクラスの小山先生が間延びした声で急かす。
…始業式をつつがなく終え、何故初日からフルで授業があるのかと、愚痴を言いつつも午前の授業受け、昼飯食って、眠くなりつつも5限の授業をどうにかして起きて…力尽きたんだったな。そこから先の記憶が無い。
時計を見ると授業は、あとちょっと。授業中全て寝ていられるのは、流石に先生としても都合がよろしく無いみたいだ。このまま待っていても他の生徒に回すことは無さそうだ。
「何ページのどこ?」
隣の席のリュウに聞く。
「…そこからかよ……144ページの『魔法発見後の社会』を全部」
「多いな…」
「…寝てたお前が悪い」
仕方なく立ち上がり読み始める。
「えっと…『2020年に魔法が発見されて、人類は豊かになっていった。しかし今私達はそれ以上の問題に直面している。2040に発生した日本国内での魔法による凶悪犯罪、多数の死者が出たテロ事件。これに対して日本は2041年、アメリカの法改正を模倣し、新たな法律の制定や警察組織の再編などを行い対応してきた。しかし様々な課題が山積している中でこの対応は充分とは言えず、さらなる対応が望まれている。』」
読み終えて先生の顔を見ると何故か苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「先生?」
「あぁすまない。……少し早いが今日の授業は終わりだ。まとめは来週やる。夏休みの課題~、出してない奴は今日の内にだせよ~」
こうして本日の全ての授業が終わった。
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ホームルーム前、担任の小山先生から
「職員室に来い、今日の授業の事で話がある」
そう言われた。
ホームルーム後に鞄をリュウに預け、重い足取りで職員室に向かう。
…何を言われるのやら…
いくら行きたくないとはいえ、先生からの呼び出しだ。行くしかない。
職員室前に着く。ノックしてから扉を開ける。
「失礼します。2年の夢永です。小山先生いらっしゃいますか」
返事は返って来ない。
「ハァ……失礼します2年の…」
「2回も言わんでも聞こえてるよ」
小山先生が歩いて来た。この50を過ぎていて貫禄のある先生に俺は何を言われるのやら…。
「ここで話すのはアレだな…ちょっと来い」
そう言って歩き出す。俺はその貫禄のある背中の後ろを歩く。
先生はその足で校舎を出て、校門を抜ける。そのまま学校の外周を歩き始めた。
「どこに向かってるんです?」
「人気のない場所。ホレ」
そう言って何かを放って来た。受け取るとそれはコーヒーだった。
「ここなら誰も聞かないだろう」
立ち止まりそう呟くと、学校の塀にもたれかかり懐を探る。その手には、タバコの箱と携帯灰皿があった。
俺は怪訝な目で先生を見る。
「いいんですか?タバコなんか吸ってて」
「…タバコってわかるんだな……いまどきの奴らは画面の中でしか見た事無いと思ってた」
「知り合いに吸ってる人がいるんですよ」
「へ~珍しい…」
先生がタバコを箱から出し、咥える。
「すまなかったな。今日の授業」
「何がです?」
タバコは火を点けずに咥えたまま、話すと上下に揺れる。先生は俺とは目を合わせず、虚空を見つめている。
「……割と気にしてると思ってたんだがな…」
「だから何がです?」
「あの文章だよ。他の奴らは他人ごとだが、お前は…」
「当事者ですもんね、俺」
俺も塀にもたれかかり、さっき貰った缶コーヒーを開ける。カシュッと音を立てて、コーヒーのいい匂いが漂ってくる。それの缶に口を付けず少し飲む。少ない甘みの後に軽い苦味がやってくる。
「言われ慣れましたよ」
「そうか……」
先生がすまなそうに一言つぶやいた。
しばらくの沈黙の後に先生が懐をまた探る。
「…ライターわすれたな……仕方ねぇ」
先生が人差し指を立て一言
「燃えろ」
そう言って指の先から、マッチぐらいの火の玉ができる。そこにタバコの先をくっつけ火を灯す。用を終えた火の玉は煙を出し、消える。
紫煙を口から吐き出し先生は質問をして来た。
「お前のところは今日出動はないのか?」
「今のところは」
「そりゃよかった…」
コーヒーを飲む音とタバコを吸う音が心地よい沈黙を作る。
煙を吐き出し、また先生が話を切り出す。
「昔は中高生の自殺が多い日だった…」
「今日がですか?」
「そうだ、理由は知らないがな。今は『キズ』が発生しやすい日に変わっちまったけどな」
「やっぱ、見て来た人は知ってる事が違いますね」
先生がタバコを深く吸い間が空く。そして煙を吐き、また話が再開する。
「…昼のニュースだ。関東北部で『キズ』が一人、この様子だと明日辺りでこの地域でもでるんじゃないか?」
「この学校ではない事を望みますね」
「別に学校に行きたくないのは、生徒だけじゃねぇんだけどなぁ」
「そこは仕事なんだから、頑張りましょうよ」
深いため息の後に先生が訳を話し始めた。
「あ~俺はな、魔法が発見される数年前に先生になったが、その頃から先生という仕事はサービス業になっていた。それに加えて『キズ』の問題だ。命の危機だぞ、もし自分の生徒が『キズ』になったら」
「安易に言ってすいません」
「…生徒に話す話しじゃねえな、すまん」
コーヒーを再び飲み、先生も再びタバコを吸う。
「なぁ配備状況ってどうなってるんだっけ」
「北海道に大隊が1つ、東北に3つ、関東北部と南部にそれぞれ2つ、近畿から西もほとんど同じような配備状況になってます」
「この地域はどうなってる」
「今日はアルファとチャーリーの2中隊が当番のはず」
「お前の部隊は?」
「休みになっています」
再びコーヒーを飲もうとして缶の中が空っぽなことに気づく。先生もタバコを吸おうとして火が思ったよりも近くに来ていることに気づく。
「…仕事に戻るか」
携帯灰皿で火を揉み消す。
「俺も予定があるのでそろそろ」
プルタブの部分をつまむ。
そして二人とも校門に向けて歩き出す。他愛もない世間話を話していると校門に着く。
「次の授業は寝るなよ。あと、千葉に課題出せと伝えておけ」
「わかりました」
そう言ってそれぞれの方向に向った。
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投稿したばかりで申し訳ないのですが、次は最低でも二週間より後に投稿になります。
ちょっと都合が悪く、書く暇がないのです。
善処はしますがこればかりは勘弁してください。
ご質問等ありましたら、ご気軽にお尋ねください
ではまた次の投稿の時に