第一話 死んだふりからの奇襲
立ち上がることもできず森の中で一本の木に寄りかかって座っていると血の匂いに誘われたのだろう、狼型の魔獣が目の茂みから現れた。私を死体だと思っているのだろう、無警戒に近づいて来る。
運が良い。私の意識がないときにやって来られたらなす術もなく食われていただろうし、それはついさっき同じように茂みから現れたスライムを使い魔にしていなければ同じことだったろう。スライムのような単純な生物ならともかく目の前にいる狼を使い魔にするのは今の私には不可能だ。
スライムでは目の前の狼を倒すのは不可能だ、だから私の背中に隠れさせておく。
一歩、二歩、狼が近づいて来る。重要なのは間合い、彼我の距離に集中する。
来た!!
計算通りの場所に狼が来た瞬間スライムに命令を出し体を膨張させる。するとスライムに押され私の体が狼に向かって倒れ・・・
ギャウ!?
計算通り頭が狼の首のあたりにくるように倒れた私はその首に思い切り噛みつく。これが立つことすらできない私の唯一の攻撃手段だった。口の中に鉄の味が広がる。狼の抵抗に意を介さず噛み続けていると狼の体から力が抜ける。何とか倒すことができたようだ、安堵しているとスライムが来て狼の死体に覆いかぶさり消化し始める。
ふむ、血の匂いで狼を引き寄せてしまったようだが食事中のスライムを見て血の匂いを無くす方法を思いついた。スライムの食事が終わるのを待って、命令を出す。
スライムは私のもとへやってくると腹から流れた明らかに致死量と思しき血液、そしてはみ出た内臓を食らい始めた。
血とはみ出た内臓から分かるように今の私は死体である。魔術師としてのフィールドワークとして森を歩いていた私は何者かに殺された。しかし偶然にも魔術刻印が魂の器として機能し、動く死体、リビングデッドとして復活したのだった。