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ノーリグレット! 〜 after that 〜  作者: 田中一義
11 新時代を担う騎士
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デリカシーのない王様と将軍と、騎士も?


「お前がロジオンか!? すっげえ探したんだぞ!?」


 宴も竹縄な頃合いに、ラルフが現れた。

 両手に節ごとに切られたサトウキビを挟み、思い切り宴会を楽しんでいたような恰好である。そんなラルフがやって来たのは王宮前広場が会場となる宴の噴水前。食い物も飲み物もこの周辺へ集められ、ここから持っていったものをそこかしこで広げてどんちゃん騒ぎをするのが習わしであり、いつも俺が陣取ってしまうところである。


「どうした、ラルフ? 肉食うか?」

「食う」

「よし、ほれ」


 肉の串焼きをラルフへ差し出すとサトウキビを放り出して肉をかじり始める。いやー、やっぱ肉大好きなんだな。尻尾がはち切れんばかりに振られて、それを見るロビンの尻尾がしゅんと垂れ下ろうとしている。


「お代わり」

「おう、いっぱい食え」

「ところで何か用事?」

「あ、そうだった!」

「ラルフ、食べながら喋らないの」

「親父は黙ってろよ! ていうか、一緒にいたなら教えろよ! クラウスの親父さんも!」

「いや、きみがどういう探し方をしていたのかが問題だぞ」

「うるさあい! とにかく俺と、勝負しろ!」

「勝負?」

「そういうの大好きな年頃でね……」

「軽く揉んでやればいい」

「む、そう簡単にやられたりなんかしないぞ! かかってこい、ロジオン!」

「ラルフ、サトウキビもらうよ」

「ダメ!」

「ちぇ……」

「リュカ、お前はお子様からもらおうとするな」

「だってそこにあったから」

「ごちゃごちゃしてないで、勝負だ、勝負ぅー!」

「じゃあちょっとだけね」


 ラルフが癇癪を起こしたように叫び、ロジオンが応じるように腰を上げた。

 やる気満々でラルフが木剣を引き抜いて構え、ロジオンがリュカが諦めたサトウキビの短い一節を手にする。


「そ、そんなので相手する気かよ? 容赦しないんだぞ?」

「いいよ、かかっておいで?」

「やる気だな。おーい、色々と見ものが始まりそうだぞ」


 周囲の酔っ払いへ声をかけると視線が集まってくる。ラルフを冷やかしたり応援する野次が飛ばされる。尻尾がピンと、毛の先まで逆立って苛々しているようだ。ロジオンはサトウキビの先端を見せながら徳利をラッパ飲みしている。けっこう酒に強いというのが今日分かったことだ。


「舐めやがって……」

「いつでもどうぞ?」

「だったら、全力でぇっ、こうだ!」


 ラルフが獣人族らしい瞬発力を見せ、速攻でロジオンに迫る。まだまだ子どもだが、それでもロビンとリアンの子というべきか、光るものはある。運動神経なら同世代ではぶっちりぎりの1番と言える。戦うことを知らぬ大人程度なら圧倒できるほどに。

 だがロジオンは宣言通りに容赦なかったラルフの攻撃をいともたやすくいなして見せた。サトウキビの持ち手から根元の方で木剣を受け、そのまま流して足払いまでかけてしまったのだ。勢いのままラルフは俺達の方へ足をもつれさせたまま転がり込もうとしてきて、宴会だろうとも生真面目に酒の一滴も飲まず俺の近くに侍るシオンに抱き留められる。


「気は済んだかな?」

「ふ、狙い通りだな……」


 ぼそりとマティアスが呟くのを俺は聞き逃さなかった。

 ラルフは向上心と言えば聞こえのいい、負けず嫌いな性格だ。ラルフが負かしたいと思うのは、誰であろう実の母であるリアン。そんなリアンに勝つべく、自分を鍛えなければならないという使命感に何故か燃えていて、自分より強いと認定していた相手にはとことんつきまとっては勝負を挑み続ける。

 最近、マティアスがそんな被害によく遭っていた。だから体よくロジオンにその役目を押しつけようと画策していたんだろう。余談だが俺ならいつでもいいのに、何故かラルフは俺のとこへはこない。


「ぐぬ、ぬぬぬ……」


 シオンの腕からちゃんと立ち上がってロジオンを振り向いたラルフはやはり不服そのものに見える。


「覚えてろよ、次はこんな簡単にいかないからな! クラウスの親父! さん! 稽古つけろ!」

「何故そうなる……」

「うわははは! 目論見外れてやんの!」

「ええい、レオンに行け、レオンに! こいつは僕より強いと昔から威張り散らしているんだぞ!?」

「ヤなこった!」

「何でだよ!?」

「お袋がいっつも近くにいる感じするから!」


 何も言い返せなかった。

 本人としてはその母親を負かすのが目標である。多分、そのための努力を見せたくはないのだろう。だから俺のところにはこない。――筋が通っている。悔しい。


「畜生、ロジオン、飲もうぜ」

「ああ、僕はそろそろ姉さんのとこへ帰るよ」

「もうかよ? 宵の口だぜ?」

「うん、また明日ね」


 クールにロジオンは去ってしまった。徳利で6本は飲ませてやったはずなのに足取りに乱れはなく、颯爽としている。ラルフはラルフで、持てるだけの食いものを持って走って行ってしまった。


「飲み直すか、マティアス。朝まで」

「ああ、今日はそのつもりだ。ロビンもつきあえ」

「明日は僕、講義があってね……」

「国防軍将軍の誘いだぞ?」

「王様の誘いだぞ?」


 俺とマティアスが揃ってロビンに迫ってみると、やれやれとばかりに尻尾をしゅんとさせて盃を軽く持ち上げてくれた。改めて乾杯し、宴を続けた。




 夜が更け、朝が訪れるころには俺もマティアスもぐったりしてしまっている。眠気が凄まじいし、場所を王宮に移して沈黙の長い席を打ち止めるタイミングを逸して惰性で酒を見つめたりするばかりである。ロビンもリュカもとっくに帰り、シオンもつきあわせても無益と悟って数時間前に寝かせておいた。そんな朝の、朝日がやたらに眩しい倦怠感に満ち溢れた朝。


「マティアス、お前、今日の予定は……?」

「いくつか報告を聞くだけだ……」

「俺も似たようなもん。朝っ風呂浴びてから解散だな……」

「ああ、そうしよう」


 のろのろと食堂を出て自慢の露天浴場へ向かう。互いに無言で裸になり、風呂へ入ろうと脱衣場から露天浴場へ入ると先客がいた。海へ向いている浴槽の縁へ立って、転落防止のために設けられている欄干へしがみつくようにして朝日に輝く海を眺めている。素っ裸で、真っ白い尻を向けて。


「レオか?」

「へっ?」

「きみも朝風呂か。趣味がいいな……」


 声をかけながら湯に入るとレオが驚いた顔で振り返る。

 そして俺とマティアスは目の当たりにした。お子様の、お子様たる象徴――ああいやいや、男の子の象徴がレオになかったのだ。あんまりデブってて毛に埋もれて見えないなんてわけじゃない。そう、本来あるべきものが、つるりと何もなかったというわけだ。


「……あれ、俺、酔っぱらってんのか?」

「僕も目がおかしいようだ……」

「王様と……えーと、マッケンジーもお風呂?」


 ちゃぷんとレオが湯舟へ入り、こっちへ寄ってくる。


「マッケンジーじゃない、マティアスだ」

「うわはは、どんな間違われ方だっての」

「ロジオンのせいだ……」

「ていうかレオ?」

「うん?」

「お前、女にしか見えなかったぞ? 俺、まだ酔ってんのか?」

「ああ、僕もだ。まるで女みたいに何もなかった」

「女だよ?」


 マティアスと顔を見合わせる。ははーん、さては夢だな――なんて2人して思ったようで互いの頬をつねっていたが、地味に痛い。


「女あっ!?」

「き、きみ、女の子だったのか!?」

「あっ、そう! 言い忘れてた! オッサンがね、旅の最中は女だと悪いこと考えるやついるかもだから、男になっておいた方がいいって言うから。本当は名前も、レオじゃなくってレオナだから」

「ま、マジか」

「確かに、その判断は誤ったものではないが、てっきり僕は完全に男だとばかり……」

「てか、レオナか……」

「うん、レオナ」


 にしても恥じらいとか一切ないのな。


「ロジオン知ってんのか?」

「そう言えば言ってないけど……分からないかなあ? そんなに?」

「ああ、かなり完成度が高い。今だって湯に浸かっているから違和感がないようなものだ」

「ああ。ちんこの有無でしか男か女か分からねえ」

「ないし! もうっ、失礼!」


 ばしゃっとお湯をかけられたが、酔いと眠気にやられてる俺達には大したダメージなんてなかった。


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