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ノーリグレット! 〜 after that 〜  作者: 田中一義
11 新時代を担う騎士
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魔剣技


「俺の部下どもを、よくもまあ可愛がってくれたもんだなあ、小僧」

「船長、このガキっ、尋常じゃねえっ!」

「うるっせえ、見りゃあ分かる!」


 逃げ出した海賊を追うようにして穴の中へ入っていくと、海の水が入り込んだ洞窟になっていた。でも木材で組んだ足ばがあって濡れずに中へ入れる。篝火も岩肌に固定されてて明るかった。そして洞窟の奥に、船長はいた。黒々とした髭で、シャツからはだけてる胸毛とかヤバくって、ギラギラした金色の指輪とか腕輪とか、何だかちょっと――カッコいい。


「さあってえ、小僧……。奇襲なんぞ仕掛けてきて、一体、何をするつもりだ?」

「海賊退治!」

「はっはあ、威勢のいいガキだな。だったら俺を殺すかあ?」


 座っていた椅子から船長――バルボスが立ち上がると思いのほか、大きかった。背も高いけど、横にもすごく大きい。樽みたいなお腹だし。だけどそのお腹を覆ってる腰布めいた赤い帯も、ちょっと驚く。あんな大きいサイズもあるんだな。もしかして手作りなのかな、なんて思ったら無造作にそこへ手を突っ込んでバルボスがまた金ぴかのものを取り出して手にはめた。拳をガードするようなものにも見えるけど、手の側面から刃が伸びてる。殴って切れる、手につける武器? あんな武器もあるなんて知らなかった。それを両手にはめるとバルボスは一度、ガチンと音を鳴らすようにして拳を叩き合わせる。


「面白いぜ、やってみろ。名乗りな、小僧! 俺は荒血のバルボス!」

「……レオ、で通してる」

「そうかい、じゃあレオ坊ちゃんよぅ――死んじまいなあ!」


 体に似つかない敏捷な動きでバルボスが迫ってくる。繰り出されたパンチをじい様にもらった剣で受け止めたけど、もう一方の拳が出てくるのが速い。剣で弾いてから避けたのでは間に合わなくって、顔を振って避けた。だけどそのせいで受け止めていた方の拳で力押しされた。


「あぐっ!?」

「おぅら、まだまだ終わりゃあしねえぞ!?」


 崩されたところへ連続で拳が繰り出される。一撃ごとが重い。狙いも何もない、単なる連続のパンチのはずなのにいいように殴られ、たまに外れても拳の側面から突き出る刃に切り裂かれる。何度、拳を浴びせられたか分からぬまままともに食らい、最後に腹部へ強烈なのを撃ち込まれた。気づけば床を転がっていて、全身が痛くて息が酷く乱れる。


「っ、は、はっ……」

「おうおう、まぁだ起きるのかあ? 根性だけはあるみてえだな?」


 起き上がろうとして膝をついて、手も突いてみたけど全身が痛くて立ち上がろうと力を込めると辛い。


「ん――? なぁんだ、まだいたのか。いや、ガキ1人でって考える方が甘いってもんだよなあ? てめえが本命か?」


 バルボスが誰かに喋っている。ロジオンが遅れて来たんだと思ったら、腕を掴まれて立ち上がらされた。やっぱりロジオンだったけど、見下ろしてきた目は冷ややかだった。ジャムを買ってくれた時のやさしそうな、いつもの穏やかなものは感じられない。


「僕は単なる保護者さ。この喧嘩はこの子が売ったもので、僕は積極的に身を投じるつもりはない」

「ロジオン……?」

「これがきみの選んだ手段だろう? 僕をあてにしたわけじゃないはずだ。それなら、僕はきみを見守ろう。死ぬ前には止めてあげるけれど――それとも、僕に命じてバルボスを討たせるかい? 別に構いやしないよ」


 言い方が何だか、すごく冷たい。

 別にあてにしてた覚えなんてないけど、もしかしたら代わりに戦うのかもって思っていたから、何だかすごく、変な怒りがわいてくる。


「そんなの、期待して、ない……!」

「そうだろうと思ってたよ。けれどレオ、きみは相手が荒血バルボスと知っていたはずだ。二つ名を持つ人がどういう存在であるのかを知らないきみの無知と、相手の力量を推し量れないきみの鈍感さはあまりにも致命的とだけ言っておくよ」


 何だかじい様みたいな言い方だ。刺々しい言葉でアドバイスしてくるなんて。

 そっとロジオンが剣を拾い上げて、それも渡してきてくれた。


「この剣を託されたのなら、きみに敗北は許されない」


 剣のたかだか1本に何だか大袈裟な気もする。

 だけど負けちゃいけないことは知ってる。だって相手は悪いやつなんだから。


「何だ何だ、結局そのガキにやらせんのか? 俺が言うのもなんだが、てめえ、冷血だな?」

「自分ではそう思ってないよ」

「お喋りしてないでよ、敵を前にして……!」

「そりゃ俺の台詞だ。――が、楽しみができた。ディオニスメリアの騎士相手に、どこまで通じるか、試したい。ガキぃ、とっととてめえは退場しやがれ!」


 今度はこっちからも走り出した。拳は一撃ずつが重いし、速い。それでいて変幻自在だ。リーチは短いはずだけど逆に身を守るための小回りは利きすぎるくらい。だったらとにかく捌くしかない。捌いて捌いて、隙を見つける。あの大きな体なんだから疲れるのも早いはず。そこを突くしかない。


「うおらあああっ!」


 大振りな一撃は避けて、こっちの剣のリーチから仕掛ける。でも拳で撃たれて弾かれる。拳は2つ、防御に使ってもすぐ攻撃用が繰り出されてくる。こっちは剣が1本だけど――魔法がある。ファイアボールを迎撃のために放ったけど、バルボスの拳は簡単にそれを打ち破ってくる。


「ぐっ――!?」

「俺の拳が軟弱な魔法で止まるかよぉっ!」


 だったら今度は、ウォーターフォール!

 大量の水をバルボスの上から流し落としたのに、その水圧を受けながら向かってきてまた殴り飛ばされる。吹き飛ばされながら剣を床へ突き立てると、組まれた木の板がべりべりと削り壊される。そうして衝撃を殺してどうにか止まれたけど、すでにまたバルボスが迫ってきてしまっている。


「終いにしてやるッ!」


 顔を上げた視界にロジオンが見えた。腕を組んで何かを見極めるようにじっと見てきている。――あの人に失望されたらいけない。じい様に似たような瞳が見つめている。あの目に、情けない姿を見せちゃいけないと強く思った。

 息を吸い上げ、魔力を引き出す。襲い掛かってくるバルボスを見据え、魔法の発動。幻影を作り出すだけの魔法とともに剣を引き抜き、残像へ拳を突き出すバルボスの懐へ潜り込む。


「残影剣!」

「な、にィ――!?」


 手応えを感じながら交錯して、すぐ振り返る。確かに斬ったけど首から下げている黄金の胸飾りが邪魔だった。致命傷にはなれていない。それでも一撃でそれは叩き砕けた。黄金の破片を撒き散らしながらバルボスも振り返ってくる。


「一体何をしやがった……?」

「内緒」


 種を教える必要なんてない。

 だけど通用する。でもこれは何度も何度も使っちゃいけない技だ。


「まあいい、もう一度だ。次で見切る」

「……ふぅぅ」


 落ち着け、落ち着けばいい。

 あんなにキツい訓練をじい様に施されたんだ。泣こうが喚こうがやめなかった、あの鬼ジジイにしごきにしごかれた。それを思い出せばこの程度の傷も、痛みも大したことはない。怖がる必要もない、痛みに震える必要もない。


「ブルってんぞ、ガキぃ?」

「知らない? 武者震いって言うんだよ」

「上等じゃあねえか。どこまで楽しめるか、試してやるよ!」


 足場の下には水がある。その中へ魔法で熱を生み出し、蒸気を湧き立たせて目くらましにする。それでもバルボスは水蒸気の濃くなる前に狙いを定めて突っ込んできている。それでいい。水魔法で人型を作ってその場へ立たせ、気配を殺して回り込む。


「うおおおら! ――ああ!? 何、水のダミー!?」

「スパイクアイス」

「ぐ、うおおっ……!?


 壊された水人形の飛沫が、氷結されて元の場所へ戻る。細かな棘が、バルボスを次々と刺し貫く。顔を庇ったバルボスはまともに周囲の状況を――こっちの動きを把握できなくなる。水蒸気の目くらましとスパイクアイスによる攻撃、そして水人形が標的と思い込んだことによってどこへ身を潜ませたかが分からなくなっている。


「でぇえええいっ!」


 顔を片腕で庇い、身を屈ませているバルボスに真正面から斬りかかる。反射的にバルボスは左拳で剣を受け止めてきた。でも今度はまともな力勝負をするつもりなんかない。ほんの少しだけ、相手の姿勢が力を伝えにくいことを利用して互いの力が拮抗してくれさえすれば良かった。刃に角度をつけて拳を受け流し、剣に魔法を乗せる。這わせるのは透明に近い超高温の炎熱。この熱を感じ取ったところでもう遅い。


「炎刃・閃牙!」


 炎熱とともに振り抜いた剣がバルボスを切り裂き、すぐにその全身を燃やす。切り裂いた衝撃に吹き飛ばされたバルボスが洞穴の壁へぶつかり、その下になかった足場の代わりに海水へと落ちた。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 ちょっと――じゃなく疲れた。

 じい様曰く、魔法戦は剣と魔法の並行使用。

 でもその上には秘奥とされる数々の技がある。それこそが、剣と魔法の融合使用。その名も魔剣技。剣に炎熱の魔法を乗せた炎刃がこれに含まれるけど、ただ魔法を使うことだって走りながらや、剣を振りながらでは難しい。魔法の動きへ体の動作を合わせることで制御を少し簡単にするというのは常識だろうけど、それとは似て非なるのが魔剣技だ。頭と心で魔法を制御して、剣はそれを乗せながら無駄なく、魔法の邪魔をせぬように――けれど剣技としての冴えを失わせずに振り切る必要がある。だからかなり、体に負担がかかる。


「レオ、きみは……」

「見直した、ロジオン?」

「そうだね。正直、少しだけ。……過大評価していたみたいだ」


 言い間違い?

 何か言葉が違うなと思ったらロジオンが目に見えない速さで剣を抜き放っていた。そして鋭い突きが繰り出されて、背後から返り血を浴びたのを感じる。振り返るとバルボスが胸を突き刺されて、それでも必殺のポジションで拳を振り上げて笑みを浮かべている。


「っ――!?」

「諸共死にやがれ」

「きみだけで十分だ」


 拳の方が速い――はずだった。

 でもバルボスはその腕が上半身ごといきなり氷で固められ、胸に突き立てられていた剣がその体を無造作に引き裂いた。凍った血肉ごと骨を砕き、バルボスの肉体がバラけていく。


「荒血バルボス、討ち取ったり」


 血のついた剣を振るってからロジオンが鞘へ納める。


「レオ、減点30ってところだね」

「……何の、点数?」

「さあ?」

「減点法より加点方がいい!」

「受けつけません」

「むぅぅ……」


 何だかやらしい。

 だけどロジオンは神様だけあって強い。うだつが上がらないとか聞いてたのに、全然そんなことはない。何でじい様もオッサンも、揃いも揃ってこんな人をあんな風に言ったんだろう――?


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