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ノーリグレット! 〜 after that 〜  作者: 田中一義
11 新時代を担う騎士
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神はいた?


 ロジオン・ブレイズフォードを探せ――とじい様に言われた。

 基礎はもうみっちりと叩き込んだ。ここから先へ進むためには大きな世界で見聞を広めていかなければならないらしい。オッサンが言うには「もう年だから旦那も楽したくてリリースするわけだ」なんて言ってた。じい様がオッサンのご飯だけやたら味を濃くする地味な嫌がらせをしていたけど、それは置いといて、探すべきはロジオン・ブレイズフォード。

 ディオニスメリア王国騎士で、うだつの上がらない人物らしい。でもじい様とオッサンが言うには、現在、唯一の真なる騎士を体現できる実力を備えている。実力だけなら。


 一体、どんな相手なのかは分からない。

 でも会えと言われた。ついでに手紙も託された。

そうしてアイウェイン山脈の北端――モルスポルタを出てきた。あそこを出てきた直後は、あれこれと驚かれた。モルスポルタと言えば秘境中の秘境で、年中厳しい寒さに囲われている上に出てくる魔物はいずれも狂暴で、とても人が暮らせるような場所ではないと。だから嘘だろうとか、別の場所と間違ってるんだろうと何度も言われたけど、モルスポルタから出てきたのは間違いなかった。


 そうして初めて、雪の積もらない道を歩いて、10人以上の人間がいる村落を通って、100人以上もいる大きな港から船へ乗って、ディオニスメリア王国に辿り着いた。船は、気持ち悪かった。揺れたのが気持ち悪かった。どうやらとても田舎者らしいとはここまでの旅路で学んだけど、オッサンに教わったことが意外と活きてどうにかここまで到着した。

 うん、意外とオッサンは役立った。買い物をする時は必ず足元を見ておけ、とか。じいっと足元を見つめ続けると、商売人は何故かたじろいで勝手に値段を下げてくれた。ついでに何か、元気出せよって感じで肩とか頭とか、ぽんって叩かれたりもしたけど安く売ってくれた。あと腹の立つ対応をされた時は、悪口言うやつは大概が阿呆だと教えてもらってたからあんまりカチンとこなかった。阿呆に何を言っても仕方ないのは分かってる。だってじい様がオッサンに何を言っても意味がなかったんだから。


 ともかく――ディオニスメリアに到着をした。

 ジェニスーザ・ポートという大きな大きな港町である。船を降りると潮に交じって、初めて嗅ぐ、何か不思議な、でもお腹をすかせるような香りが漂っているのに気がつく。ふらふらと匂いがする方へ歩いていけばうどんと大きく書かれた看板を掲げる小屋があった。そこに人が出入りしている。何の建物だろうと思って、戸口から中を覗く。中には食事する人間ばかりがいる。彼が座るテーブルの向こう側が炊事場で、次から次へと料理を作っているらしい。


「らっしゃい、僕! さあさ、入りな。銅貨22枚で並、25枚で大だよ!」

「……?」


 料理をしていた男性に声をかけられ、自分を指差してみたら頷かれた。それから炊事場から身を乗り出すようにしてテーブルを拭いて手招きする。そこへ座れということらしい。金を入れておいた袋を覗き込んで、金が足りてるのを確認する。


「で、並と大、どっちにするね?」

「どう違うの?」

「並は普通のサイズ、大は大きなサイズだ」

「……じゃあ、大」

「あいよ、大一丁!」

「大一丁まいどぅっ!」


 威勢の良い声がする。炊事場では3人の男が慌ただしく動き回っている。ひたすら、細長い紐状の白い何かを茹でる男。ひたすら、その白い紐をよそった器に具のようなものを乗せる男。そしてそれを受け取ってから、茶色いどろっとしたものと、黒っぽいスープを注ぎ入れる男。最後の、声をかけてきた男性がテーブルにそれを出した。


「あいよ、カレーうどんの大、お待たせ!」

「カレー、ウドン……」


 何だろう、この、すごく食欲をそそる香り。

 フォークを掴んで中をあさると、どろっとしたものと具、それから紐状のものが絡んでいく。持ち上げると茶色の飛沫が小さく飛んだ。一思いに大きく口を開いて食べる。――う、まい。何これ、何これ、おいしい。何だこれ、おいしい。すっごくおいしい。夢中で食べるとすぐになくなってしまった。スープまで飲み干すと、心地よい満腹感に襲われる。


「おじさん」

「あいよ!」

「おいしい、何これ?」

「これかい。これはカレーうどんって言ってね、海の向こうにあるエンセーラムって国の王様が考えた料理だ。うどんっていう麺に、スープと、カレーっていうものをかけてできあがる。もし、興味があるんなら隣の隣にマレドミナ食堂っていうのがあって、そこもエンセーラムの料理を出してるから言ってみな。お題は銅貨25枚だよ!」


 良いことを聞いてから金を払って出ていく。言われた通り、隣の隣を覗いてみる。そこもやっぱり料理を出してるところだったけど、ものすごく大きかった。10人以上、一度に入れそう。中はもっと広いのかも。しかも入口の前に植物が置かれてたりする。興味はあるけどお腹はけっこういっぱいで、これ以上は食べられなさそうだ。でも食べたい。お腹が減るまでここで待ってようか。


 いや、でもじい様にロジオンという男に会えって言われてる。

 こんなところで道草を食っててもいいんだろうか。オッサンの知恵、何か――ハッ!?


『いいかい、レオちゃんや。人生なんて、適当にふらふらしてるだけでも収まるとこへ収まるってもんだ。突きつけられてるもんがあっても、ふいと目を逸らしてみりゃあ色々目につくもんがあるからね。たまにゃあ、そっちへ行ってもいいさ。結局、最後に戻ってやりゃあいいだけだからさ』


 オッサン、ナイス――!

 そうだ、最後に戻ってあげればいいだけ。収まるところに収まるんだから。

 だったらもう、ちょっとこの近辺で過ごしてみよう。どうせ、うだつの上がらない人間を1人、訪ねるだけなんだからどれだけ回り道したっていいはず。


 ふふふん、そう決まればどうしようかな。

 ただぶらぶら歩くなんてつまらないし、色々と港を見て回ろうかな。それがいいかも知れない。船の中で聞いた話だと色々なものがこのジェニスーザ・ポートには集まるらしいし、確か、マレドミナ商店っていうところに行くと本当に世界中の様々な舶来品が手に入るとか何とか。――ってあれ、マレドミナ? ここでも?

 気になる。マレドミナって、確か古い言葉で海の女主人だとか、そういう感じだ。ちょっといい響き。これは確かめないと気が済まない。


 そして見つけたマレドミナ商店は、さっきのマレドミナ食堂よりもはるかに大きかった。

 入口が、めちゃくちゃ広くて棚がいっぱいあって、ぎっしりと品物が並べられている。見たことないものばっかりある。中へふらふら入っていくと瓶詰めのジャムがあった。たまにオッサンが土産に持ってきてくれてた、ものすごく甘くておいしい、あのジャムがたんまりとあった!


「何これ、もしかして天国? 極楽ってここのこと……? これ、1ついくら――って、銀貨8枚? 高い、何これ、高すぎる……。オッサン、こんなのを、5個も6個も買ってきてたの……? オッサン、罪深すぎるよぉ……」


 これじゃあ1つくらいしか買えない。

 でも1つなんてすぐぺろりと食べちゃうし、どうしよう……。


「ジャムが好きなの?」

「うん、好き……。このベリージャムが1番好き……」


 横からかけられた声に応えながら、瓶を1つ手にする。


「でも、路銀を考えたら1個しか買えない……。どうしよう、どうしよう……」

「エンセーラムまで行けばもっと安く買えるらしいよ」

「本当っ?」


 顔を上げるとそこに旅装の男の人がいた。

 目が合うと少しくたびれてる顔にほほえみを浮かべ、ベリージャムを3つほど積むように持った。


「これからエンセーラムへ行くところだったんだけど、船旅は退屈をするからね。何かおいしいものを買っていこうと思って立ち寄ったんだ。けれど僕は見栄っ張りで、買うならたくさん買っておきたい。だから、1つ、お裾分けをしてあげるよ」


 じい様もオッサンも、神はもう地上にいないと言っていた。

 でもここに、神はいた。


「か、神様、神様でしょっ? お名前は? 名前を、教えてっ……!」

「い、いや、神様とかそんな恐れ多い……。僕はロジオン・ブレイズフォード、しがない単なる騎士の端くれさ」


 金を払ってジャム3つを手に入れた神様――もとい、うだつの上がらないと噂のくたびれた男はそう名乗ってきた。



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