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ノーリグレット! 〜 after that 〜  作者: 田中一義
 4 A few years later ― 竜口大河の上下の顎で
20/119

リカルドは友達だ

 走って走って、ようやく会場に戻って来られた。

 相変わらず黒い煙がもうもうと上がっている。逃げられる人はすでに逃げたのか、会場の周辺にすごい数の野次馬がいた。


「何があったの?」

「急にあちこちが爆発しやがったんだ! しかも突然っ、大勢が消えちまった」

「消えた?」

「いきなりだ。いきなり、舞台が光ったと思ったらそこらにいたやつらが消えてたんだ!」


 興奮しながらおじさんが俺の両肩を掴み、唾を飛ばしながら言い聞かせてくる。

 そんな大声を出して必死にならなくても頭には入る。入りはすれど、いまいち飲み込めない。人がいきなり消えるなんてことはあるだろうか。考えられるのは、転移の魔法程度だけど……まさか。



「あ、それよりおじさん! あれに参加してた人達は? 戦う側で!」

「ああ? そういえばお前、最初の試合に出てた――?」

「どうしたの、中にいる? 外に出た? 俺の姉ちゃんと弟分なんだ!」

「い、いや、一緒に消えちまったが……」

「消え、た……?」


 力が抜けていく。

 本当に消えたんなら、どこに消えちゃったんだ。


 地の底?

 海の果て?

 空の彼方?


 どれも非現実的だけど、万が一の転移の魔法の方がまだ信じられる。

 まさか消失したように見えるように抹殺されたなんてことはないだろうし、それは絶望的すぎて信じたくもないけれども、とにかく、何が起きたのかを把握しなくちゃ。




「お前がやったんだろう!? コスタクルタの仕業なんだな!?」


 怒気を孕んだ痛烈な声がした。ざわついている人混みの方へ歩いていくと、大勢に囲まれたリカルドがいた。これからリンチでも始まりそうな剣呑とした雰囲気のただ中で、怖い顔をしながらぎゅっと拳を握りしめている。


「何とか言ったらどうだ!? お前らがやったんだろうがっ!?」

「僕は、関与していない……」

「何ぃ? だったら関係がねえって言うのか――ああっ!?」


 恫喝するように問いつめていたおじさんが拳を振り上げたので、その手首に魔縛を放って止めた。魔縛は魔力を細く糸状に伸ばし、自在に伸び縮みをさせられる魔技だ。絡め取って短くしながら引けば、ものを引き寄せたりすることもできて便利な魔技でもある。



「リカルドっ!」

「っ……キミは、ディー……」

「何だ、小僧!? お前もコスタクルタの仲間かっ!?」

「違う! リカルドは友達だ」

「それを仲間って――」

「俺はエンセーラム王国の王子、ディートハルト・エンセーラム。コスタクルタとも、このカウリオドゥースとも国交はまだ結ばれてないし、ここからずっと離れたところの国だ。だから俺とリカルドの関係は、友達以外の何でもない」


 エンセーラムという名前は、こんなところにでもマレドミナ商会を通じて知られはしているらしかった。虚言で一国の王子を名乗るほどのバカな子どもにも見られはしなかったらしい。


「姉ちゃん達も、一緒に消えちゃったって聞いた。リカルド、キミは何がどうなったのか、分かる?」


 問いかけにリカルドは目を伏せる。


「リカルド」

「……僕は関与していない。だけど心当たりは、ある」




カウリオドゥースの港に停泊していた、コスタクルタの軍艦が遠目に出港していくのが見えた。リカルドが舌打ちをする。港に辿り着くころにはすでに遠く、普通にやっては追いつけないのが明白なほど小さくなっていた。


「やっぱり、うちが噛んでた……」

「どういうこと?」

「僕は友好のために、任務で闘技会へ参加するようにと拝命していた。けれど、実際は正反対の目的を持った作戦があったのかも知れない。闘技会にはカウリオドゥースの高官も見学に来ていたし、彼らを一度にさらってしまった。こんなことをするのはコスタクルタしかいないけど、それを立証することはきっとできない。シラを切り通すだろうし、証拠も残さないはずだ」

「見据えられてる目標は、何なの?」

「侵略戦争だ」


 侵略戦争……。穏やかじゃない。

 本当にカウリオドゥースとコスタクルタは仲が悪いのか。竜口大河を挟んでお向かいさんなのに。いや、だからこそか。ヘタに距離が近い分、貿易の独占をはかるためには邪魔になる。それ以外にもあるだろうけれど、すぐに思いつくのはその程度だ。


「この後、どうなると思う?」

「さらった人を監禁……あるいは軟禁して、この騒動についての抗議を受けた時にシラを切るんだと思う。その上でカウリオドゥースの方から手を出させて、攻撃行為だなんて決めつけて戦争の口実にする」

「じゃあ、それを回避するためには、まずさらわれた人達の救出だね」

「いや……」

「?」

「もう、戦争は回避できないかも知れない」

「どうして?」

「仮に救出できたって、いきなり仕掛けたのはコスタクルタだ。何もなしで引き下がってくれるはずもない。国力はコスタクルタの方が上だから、力をかざして押さえつけようとするかも。そんなことをされたら関係はさらに悪化していく。すぐに戦争にならなくたって、近い内にはきっと」

「そんな……」


 遠ざかっていく船を眺めてリカルドが拳を握った。

 いや、でも手をこまねいてる時じゃない。


「あの船は、関係あるんでしょ?」

「ああ……。だけど、もう追いつけない」

「追いつけるよ。高いところ平気?」

「え?」


 レストの笛を吹き鳴らすと、すぐに一頭のワイバーンが飛んできて俺達の前に降りた。


「なっ、竜――いや、ワイバーン? こいつっ……」

「レストって言うんだ。いい子だよ、乗って。世界中、どこだってレストに乗れば行けちゃうんだ」

「クォォォッ!」


 短く鳴いてレストが顔を擦り寄せてくる。

 頭を撫でてやって、リカルドに視線を向けるとぽかんと口を開けていた。



 レストに乗って空へ飛び立てば、すぐに出港したコスタクルタの船に追いつけた。上空から迫りつつ、後ろのリカルドを振り返る。


「あの船は何なの?」

「僕の率いてる中隊の船だ。あれ自体は輸送用で攻撃能力はないが、僕の部下は乗っているから白兵戦になるだろう」

「それをどうすんの?」

「きっと連中なら……僕に知らされてないことを知ってる」

「隊長のリカルドより?」

「しょせん、形だけなんだよ」

「そう。……レスト、降下だ」

「クォォッ!」

「待った、甲板にすでに迎撃態勢が――」

「大丈夫っ、ちゃんと捕まって!」


 降下し始めると同時、船の甲板からファイアボールが放たれてきた。魔法士は揃えられているらしい。だがレストはそれをするりと避けていきながら甲板へと急降下する。


「飛ぶよ!」

「ああっ!」

「レスト、お疲れさま!」

「クォォォォッ!」



 レストから飛び降りる。甲板上にいた魔法士が散っていき、代わりに例のお揃いの甲冑をつけている兵達が出てきた。


「武器を納めろ、僕の命令が聞けないのか!?」

「生憎と、あんたはただのお飾り隊長でいいって言われてんだよっ! この前の借りもまとめて返したらぁっ!」


 ざっと20人。さらに魔法士が10人。

 リカルドと背中合わせになりながら取り囲む兵士達と向かい合う。


「やっつけちゃっていいの?」

「死ななければ……」

「そこまでするつもりはないから安心して」

「じゃあ左半分を頼みたい」

「任せて」

「たった2人で、どうにかなると思うな!」



 この前は俺とラルフだけで10人いながらやられたくせに、今度は大丈夫だとか思ってるらしい。

 ニゲルコルヌに魔伸をかけた。ものの働きを増長させる魔纏という魔技の、さらに応用版だ。魔力で獲物のリーチを伸ばしてやることができる。黒短槍ニゲルコルヌは石突きから穂先までで150センチメートルとなっている。まあ、槍として見たら短いけど携行とか、魔人族の血が入ってて成長が遅い俺や姉ちゃんにはこれくらいが丁度良かったりするのだが、時と場合によってはリーチが足りなくなることもある。それを魔伸ならば補えてしまう。


「クソガキがあああああっ!」

「ガキ、ガキって言わないでほしいんだけどね!」


 魔伸をかけたニゲルコルヌを一気に薙ぎ払った。

 一振りで5、6人を同時に吹き飛ばしてから風魔法エアブローも使って、さらに煽って甲板から海へと落としていく。死にはしないだろう、海に落ちた程度なら。


「ていうか、こっちは姉ちゃんに負けてて、ちょっとご機嫌斜めなんだよっ!」


 魔法士達の放った魔法を魔弾で撃ち抜いて霧散させ、通常サイズの10倍くらいに留めておいたファイアボールを上空から叩き落とした。爆風と熱波が急速に広がって人が吹き飛ばされていく。衝撃で船のマストが折れた。


 すぐにリカルドも敵を薙ぎ倒して無力化してしまい、船を制圧することができた。

 あとはコスタクルタが何を企んで、どんな行動を取ったかを聞き出すのみだ。


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