エンセーラム壁新聞(3月10日)
『連続空き巣犯、逮捕』
3月10日 著:リリヤ
トト島にて空き巣の被害が連続して報告されている。いずれも日中、家が留守であるところを狙われており、住民による持ち回りの見回りも行われているが被害は減らなかった。
エンセーラム国防軍が内密に巡回を強化していたが空き巣犯は魔法で逃走をはかって追跡の手を一度は免れた。
それを受けてエンセーラム国防軍はエンセーラム魔法大学に協力を仰ぎ、同大学に在籍するD氏とC氏が調査をした。空き巣犯は姿を消す魔法を用いて白昼堂々と家屋に浸入していた。逃亡にも同じ魔法を用いていたとされるが約3時間もの大捕り物の末に犯人はD氏とC氏によって逮捕をされた。
しかし手口を真似る者が出るかも知れないため、貴重品は見つかりにくいところへしまった方が良いだろう。
またエンセーラム国防軍は「地域の住民同士で声をかけあって空き巣が入りにくい地域を作ることが何よりの防犯になる」と警鐘を鳴らした。
『マレドミナ商会、目指すは最後の大陸』
3月10日 著:リリヤ
昨日、マレドミナ商会本店においてセシリー・ソーウェル商会長がアイフィゲーラ大陸にマレドミナ商会が進出すると発表をした。確認されている世界中全ての大陸を股にかけた商売はマレドミナ商会が初めてとなる。ラサグード大陸への進出時は売れ行きが伸び悩んでいたが、商会は目標をクリアしたとしてアイフィゲーラ大陸へ販路を拡大することに踏み切った。
事前の調査によってアイフィゲーラ大陸中原の国である、ライゼル王国に同大陸一号店を開くことが予定されている。
ソーウェル商会長は「ライゼル王国には聖女と呼び慕われる女性が生み出した技術や料理も数多く存在している。エンセーラム王国の技術や料理と合わせ、広く世界へ発信していくことがこれからのマレドミナ商会のありかたと考えている」と抱負を語った。
レオンハルト・エンセーラム王が「一号店が開く時は俺が応援に行く」と発表の場にて発言しており、政府関係者が慌てる一幕もあった。本誌の調べによると王は過去にライゼル王国へ赴いたという情報もあり、ライゼル王国とも国交を結びたいという王の心のあらわれなのではないかと識者は分析する。
『お騒がせD氏、反省の色は見せず』
3月10日 著:テーム
先日にまた発生したエンセーラム魔法大学での小火騒ぎでいつにない波紋が広がっている。これまで度々、不祥事を起こしていたD氏であるが今回は学長室の一隅を燃やしたことで停学処分を受けていた。自宅謹慎を言い渡されている間にも外で遊び回っていたことが露見して魔法大学職員に厳重注意をされていた。しかしその際にD氏は小火の元となった原因を隠滅しようとしていたとのことだ。
本誌は反省の色を見せないD氏に突撃取材を敢行した。
D氏は「心当たりがないことを反省するつもりはない。捜査をもう一度やり直して、本当の犯人を見つけることを要望している。何かあればすぐに全部、俺のせいじゃないかって疑うのは本当にもう失礼千万である」とあくまでも犯行を否認している。D氏の知人のC氏は「D氏は前科があるから疑われているのだという事実を棚上げにしている。一度こってりと絞られてもっと反省をするべきだ」と語った。
何度も騒動を起こしたD氏が犯行を強く否定するのは実は初めてのことである。
『今日のレシピ:焼きうどん』
3月10日 著:イザーク
うどんはあらかじめ、さっと湯をかけておく。
好みの野菜を炒め、ほどよく水気を切ったうどんを合わせて炒める。だしと醤油を入れて馴染ませたら完成。
バリエーションの一例として焼き魚の身をほぐして入れるとその風味が相まってうまくなる。エンセーラム商会で販売をしている魚フレークをつまみでなく、具として投入すれば手軽に楽しめる。
『旅の身空より、遠い故郷へ』 不定期連載第4回
3月10日 著:マオライアス・カノヴァス
これで四通目の便りとなります。この手紙が連続コラムに載るというのは何だか不思議な気分です。実は少しも見向きもされずにお蔵入りになっているのではないかとも思っています。
この手紙は僕の見聞をただ書きしたためているだけの拙い手紙でありますが、おつきあいください。
僕は今、エンセーラムの人には親しみのある大国にいます。僕の出生の地でもあるクセリニアのジョアバナーサ王国です。ヴァネッサ女王ばかりが知られているような印象があったので、今日はそれ以外の側面をご紹介します。
何と言っても十二柱神話が根幹にあるような国です。特に信仰されているのが戦女神ワルキューレです。ヴァネッサ女王が厚く信仰しているので国民にも多いのです。しかし十二柱神話の神々は戦女神ワルキューレのみならず、広く親しまれています。雷神ソアや、地母神イングイといった神々もとても人気です。
それからジョアバナーサ王国の有名なものと言えば刀匠ダモンという名工でしょう。もともと、鉄の鋳造で栄えたという歴史もありますが、その歴史を支えたのがダモンの名を受け継ぐ刀鍛冶の一派です。僕がジョアバナーサへ立ち寄った折、刀匠ダモンの襲名式典が開かれていました。7代目の刀匠ダモンは先代について数十年の修行を経てようやく襲名を許されたと言われています。武器の作り手としてはアーバインが有名ですが、刀匠ダモンの刀剣は実用性に長け、美術品としても手に入れたいという者が後を絶ちません。
さて。語りきれない多様な文化を持った国ですが、ここから先は僕の個人的な話を綴ろうと思います。
僕の両親はエンセーラムにいますが、産みの母はヴァネッサ女王でした。女王は産んだ子どもを父親に会わせるという方針を取っており、まだ2つか3つだった僕をふらりと立ち寄ったリュカに預けてディオニスメリアへ送り届けました。記憶はもうとっくに曖昧になっていますが、とにかく無茶で厳しい女性だったように覚えています。歩けるようになるとすぐに棒切れを持たせて訓練をさせてきて、でも言うことがすぐにころころと変わってしまうので教わる子ども達はとにかく混乱の連続でした。
そのヴァネッサ女王に偶然にも見つかってしまいました。王宮に招かれると名前も覚えていなかった兄や姉もいて、だけど僕のことを覚えてくれていたようです。
何も覚えていないような話をたくさん聞かせてくれました。僕はいまだに、人付き合いが苦手そうだとか、引っ込み思案だなんて言われてしまいますが、それは幼児のころからだったそうです。それでいてヴァネッサ女王に何か言われる度に泣きそうになっていたのだとか。自分のことのはずなのに知らないことが多くてとても懐かしい気持ちになりました。
けれど僕の家族は、やはりエンセーラムにいる父と母、そして弟だと思います。
今では家族と暮らした時間の方が人生において短くなってしまいましたが、帰る場所があるのかと旅の中で尋ねられるとエンセーラム王国だと答えます。今でも思い返せば海へ突き落されて溺れかけたり、サトウキビを齧っていたら乳歯が外れて泣き喚いた思い出が蘇ります。……ろくでもない思い出かも知れませんが、そんな何気ない日々の思い出が今では一人で過ごす夜空の下で胸を温めてくれます。
皆さん、家族を大切に。
遠くて会えない家族には何か気取ったものを贈るより、手紙を便箋二枚も書いた方が喜ばれるそうです。
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「……この連続コラム、早く終わらないかな……」
「何でそういうこと言うの、クラウス?」
「だってお兄様が、海に突き落とされて溺れかけたとか、サトウキビで泣いたとか、イメージが……」
「そういうクラスも似たようなこといっぱいあったんだよ?」
「それは、言わないでよ、お母さん……」
「ふふ、はいはい。マオが元気そうで良かった……」




