エンセーラム壁新聞(2月2日)
『ヴァネッサ女王、来国す』
2月2日 著:シオン
ジョアバナーサ王国の王であられるヴァネッサ女王がエンセーラム王国へ参られた。
エンセーラム王国は建国の折より、ジョアバナーサ王国との縁があり、海を隔てた遠い距離にありながら今日まで親交を深めている。ヴァネッサ女王は今回の来国にて、エンセーラム王国の特産品の視察や、今後の協力関係の在り方についての会議をされる予定だ。
ベリル島迎賓館において催された歓迎会でヴァネッサ女王は「レオンハルト王が壮健で何より嬉しい。この王が在り、この国が在るのだとはクセリニアでよく言われることでもある。技術・流通・産業など、様々な側面で協力をし合い、今後の友好関係をより強固なものにしていきたい」と語った。
クセリニア中原の国においてジョアバナーサ王国は大きな影響力を持っている。侵略戦争によって国土を広めてきた同国は同じく中原の諸国家からは怖れられ、国力をつけて打倒しようとする動きを見せる国家もある。ヴァネッサ女王はエンセーラム王国との関係性を諸外国にアピールする狙いがあると分析する有識者もいる。
ヴァネッサ女王の滞在は5日間の予定。見かけた方は敬いの気遣いを忘れぬように。
『消える親心』
2月2日 著:リリヤ
エンセーラム王国において、両親を事故や災害、病気等で亡くした15歳未満の子どもの受け入れ先が問題となっている。昨年は32人が両親を亡くし、内14人が身寄りもなく一時的にベリル島孤児院に引き取られた。ベリル島孤児院では行き場の失った子どもを受け入れて養育しているが、養育費は運営をするカハール家の負担となってしまっている。里親となれる人を探して積極的に新たな家庭へ迎え入れてもらおうという動きはあるが、金銭的負担等を理由に里親に立候補する者が多くないのが現状だ。
昨年はベリル島孤児院から11人が里子に出されたが、依然として行き場のない子どもの数は増加してしまっている。最近、表層化をしている問題は妊娠したものの育てることができないという理由で孤児院の前に置き去りにされる赤子である。リュカ氏は「捨てられた赤ちゃんを見る度に悲しくなる。生みの親を探しても出国をしてしまっているケースが何度かあり、置き去りにされた赤ちゃんを孤児院に受け入れて育てている。子どもが生まれない家庭や、新しく家族の欲しい家庭に里親として赤ちゃんを引き取ってもらいたい」と話す。
里子として引き取られるのは乳幼児が多く、10歳以上の里子をもらおうとする里親候補は少ない。
親心は大人の都合で棄てられるが、子どもの心は棄てられてはならない。政府の早急な対策が求められている。
『一石二鳥のお手柄見習い水夫』
2月2日 著:テーム
昨日、見習い水夫のナイエルくん10歳が人命救助で活躍をした。
ナイエルくんは去年から四島を連絡する舟の漕ぎ手・水夫として働き始めた。主にユーリエ島とベリル島の桟橋を往復するルートを担っている。そんなナイエルくんがいつものように櫂を漕いでいたら海の下から果物が浮かび上がってきた。不思議に思ったナイエルくんは舟を飛び降りて潜り、溺れていたフイン氏(43)を発見して救出をした。フイン氏はこっそりとベリル島の原生林へ忍び込み、果実を盗んでいたが、魔物に襲われて果物を抱えたまま逃げて海に落ちてしまったと供述をしている。慌てて逃げていたために海へ落ちて混乱し、溺れてしまったところをナイエルくんに発見された。
フイン氏は「深く反省しています。悪いことをしたらやっぱり神様に叱られる。命を助けてくれた坊やに感謝します」と話して罰金を支払った。ナイエルくんは「人助けをしたと思ったら泥棒を捕まえていた。だけどフインさんが溺れて死んでしまわなくて良かったです」と話した。
人命救助を称えてエンセーラム国防軍は後日、ナイエルくんを表彰すると発表した。
『オリエンス学校の開校準備、着々』
2月2日 著:リリヤ
来年度より開校される、トウキビ島のオリエンス学校の教員募集が開始された。初等教育機関における教育者は、諸島教育機関卒業者であること、一定以上の学力を有していること、エンセーラム王国国民であること、面接において教育者にふさわしい人格であること、の4点を満たした者がその職に就くことができると定められている。
新規開校であることから新たに6名の教師を採用すると政府担当者は発表をした。ユーリエ学校の教師の一部もオリエンス学校へ転任し、初等教育要綱を満たす指導法などが伝えられる。ユーリエ学校長のシルヴィア氏は「全ての子に教育する場を与える政府の方針は素晴らしいものと考えています。オリエンス学校で行われる教育についても、新たな情熱を持った教師が要綱を守った上で模索をし、様々な価値観を持った人材が国に増えてくれることを望みます」と話す。
一方で肝心の校舎建築に遅れが出ており、期日までに子ども達を迎え入れる準備が整うのか疑問視する声も出ている。
『問題児、斯く語る』 第1回
2月2日 著:クラウス・カノヴァス
本日より20回に渡る連続コラムの執筆を担当することになりました。クラウス・カノヴァスです。
シオン編集長にはユーリエ学校で教わったことがあり、このお話をいただいた時は光栄で断れませんでした。連続コラムを書かれたことのあるお歴々がどうして必ず、第1回でシオン編集長にお話をいただいた、という報告をするのかがずっと疑問でしたがわたしも此度、ようやく得心がいきました。しかし紙面では語れませんので割愛させていただきます。
『問題児、斯く語る』というコラムのタイトルは友人のDやRと接する中でふと思いつきました。コラムの内容については公序良俗を守れば何でも良いと編集長に伺っていましたので、わたしは身近にいる彼ら、そう、問題児について書いてしまおうと思いついたのです。
DとRはわたしの幼馴染です。Dはわたしと同じく、エンセーラム魔法大学に籍を置く魔法士の端くれ。Rは誕生日も同じで乳兄弟。親同士の仲が良く、わたし達は飽きることを知らずに友人としての関係を築いています。
第1回ということで、今日はDとRがいかに問題児であるのか、という点を取り上げます。
Dは大変甘やかされて育ちました。その結果、甘えてしまえば全ての問題は解決してしまうのだという誤解を抱いたまま今日に至ります。しかし彼の甘え癖を助長してしまったのはわたしのせいでもあったでしょう。幼い時分を思い出す時、どんなに些細なことであっても頼られてしまうと嬉しくなる、という経験が誰しもあるのではないでしょうか。わたしもその例に漏れず、ほんの少し年が上のDに頼られてしまうと態度では嫌がりながら、けれど頼られたのが嬉しくて何かと世話を焼いてしまいました。
こういう遊びを考えたけれど、実行するには大人の目を盗まなくちゃいけないから協力をしてほしい。
今度こういう催しがあるけれど、参加するには大人でなければならないから肩車をして、足元まで覆うようなローブで顔を隠せばきっとごまかすことができる。だから布を調達し、ついでに肩車もしろ。
そんなことを、わたしは協力させられてしまいました。けれど最後は結局、痛い目を見る。それでもわたしが幼心から庇ってしまい、彼はだんだんと調子に乗っていってしまいました。わたしの不徳がいたすところが原因で、色々な方にご迷惑をかけてしまっていることをお詫びします。
一方のRはDとは少し違うタイプの問題児です。Dが他人をどんどん巻き込んでは、甘えてみて罪を帳消しにしようとする腹黒天使だとするのならば、Rは一匹狼を気取って暴走した挙句、大失敗をしてしまうという問題児です。わたしは彼とは乳兄弟でもあって、本当に幼いころからお昼寝からおやつの時間、散歩をしたり、夜に眠ったり、何から何まで同じ生活リズムだったこともあると両親に聞いています。だからなのか、本当の兄弟のように感じているので、Rの暴走を見てはいられないのです。
だれそれという人は、それはそれは剣の腕が立つらしいと耳に入れればRは挑みかかっていきます。わたしはそれを追いかけていって、いきなり立ち会えとワンワン騒ぐRを宥めすかしました。威勢が良いくせに、彼はこてんぱんにされると目に涙を溜めて、負け犬の遠吠えをしてしまうのです。落ち込んでいる兄弟を見て、お前が悪いんだと注意することはありました。が、そうすると今度はわたしに噛みついてきてしまうので、そっと寄り添って慰めてやるのがわたしの日課でした。そうして歩み寄っても彼は一匹狼を気取りたがる性分なので、あとになってから強がってきます。言葉をなくす、とはこういうことだろうかと齢8つで悟った覚えがあります。
と、ここまでDとRについて紹介しましたが、彼らは紛れもない問題児ではあってもただただ、ひたすらに面倒臭いだけの可哀そうな存在でもありません。どちらも非凡な才能があり、優れたところはあるのです。
DもRも壁新聞をちゃんと読むような殊勝な人格ではありませんから、わたしは彼らとのエピソードを書き綴り、読者の意見を問おうと思います。果たしてDをこのまま甘やかしてしまって良いものか。果たしてRとは、どういうつきあいをしていけば良いものか。
けれど一方的に書き綴っても卑怯ですから、ちゃんと彼らの言い分を紹介します。どれだけそれが支離滅裂で幼稚で、いっそ可愛いと感じてしまうのか、それは読者の皆さんの受け取り方次第でしょう。あんまりお子様のようで可愛いじゃないかと許すのも一興、けしからんと声を上げて2人をキツく叱ってくれる方が出てきても一興。
愛すべき問題児達の実情に興味がある方は、明日から目を通してみてください。
愛すべき、なんて自然と書いてしまうあたり、わたしは2人の問題児について諦めの境地に至ってしまっているようでもありますが。DとRはわたしにとって、一応は大切な友人なのだろうと第1回にあたり、予防線を張ったところで終わります。
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「ほほーう、殊勝な人格じゃない? へえー? 割と泣き虫ちゃんなクラウスくんを、おっきい蜘蛛から守ってあげたのは誰だったかなあー?」
「そーだぞ? 俺とディーの陰に隠れて、こっそりつまみ食いしてたり、ちゃっかりいいとこ持ってってたりするやつのこと、ちゃんと覚えてる」
「……ほ、ほら、シオン先生に頼まれて仕方なくだから、さ? じ、実名出してないし」
「丸わかりだよ、こんなの!」
「クラウス、お前、めーよきそんで決闘だ! 汚名挽回してやるっ!」
「そうだそうだ、俺も汚名挽回する! あれ、汚名って挽回――あれ?」
「汚名は返上しなきゃダメでしょ……。これだから2人とも」
「何をぅっ!?」
「やるのか、クラウス! かかってこい!」




