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友達の告白

 「やっぱり彼と相性は悪くないけど、一緒にいると疲れるのよ」「相性?」「うん、体の」百合は自分の膝に視線を落としてから、そうなんだと返した。

 あの日以来百合は何も変わらず、むしろ以前より親しげに姫子に接してくるようになった。話しかける時肩に手を置いたり、出歩く時は腕を組んだり、そうした百合の行動に姫子は過度に意識させられていた。自分を恋愛対象、性の対象として見ている、百合と目が合う度に頭をよぎる百合の秘密。

 「そう、タイミングや力加減とか、私のして欲しいことと彼のしたいことが同じみたいなの。でもそれ以外は全然、すぐ口論になっちゃう」「姫子も怒ることあるんだね」百合がこちらを窺うように視線を投げる。「人の話聞かないし…百合みたいだったら一緒にいて楽しいのに」「なに、愛の告白かな」冗談めかしてそう言うと百合は姫子の手をとった。百合は体が内側から熱くなるのを感じた。その熱が顔まで伝わる前に顔を百合の耳の前までもっていく。「百合との、相性次第かな」ゆっくりと百合から離れると、百合は視線を再び自分の膝に移す、手は姫子の手の甲にのせたままで。

 いつも翻弄されてばかりなので少しからかってみたかった。姫子に向けられる好意を弄び、百合の反応を楽しくむ、それくらいは許されるはずだと思っていた。百合はいつまで手を重ねているのだろう。今日は思わぬ反撃にあってまた姫子が意識させられている。姫子が手を握りかえすのを待っているのだろうか。暫くの沈黙の後、姫子は目を閉じて百合に肩を寄せた。今日はここまで。百合の降りる駅で百合は姫子の手を軽く叩いて起こした。「ごめんね、私降りるから」「うん、またね」「…私もね、大事だと思うよ、相性」手をふって別れようとした姫子の耳元で、百合は囁いた。そのまま踵を返して百合はゆっくりとホームまで降りると、一度だけこちらを振り返り、また歩き出した。

 百合の言葉を思い返していた。前に百合の秘密を知った時のような嫌悪感はなかった。あれだけ拒絶していたのに、何故今回はそうならないのだろうか。自分のことなのに良く分からない。あるいは百合のことが良く分からないのか。また恭介に連絡しようと思い携帯を手にした、お前前より感じてるな、そんな声出したことなかったろ、彼の言葉が思い返されて、携帯を置く。恭介は新しい彼氏に教わったのだろうと、勝手に納得していた。

 百合の家であったことを忘れるために恭介に連絡をしたのに、恭介に抱かれながら浮かんできたのは百合のことだった。百合はこういうことをしたいのだろうか、そして普段は姫子を想像して一人でしているのだろうか。恭介が姫子の髪を掬いながら何か言っている。百合の白く細い指が髪から胸におりてくる。その手で強く胸を掴まれ、姫子は声を漏らしていた。自分の声を他の人から聞いているような感覚の中、どんどん声が大きくなる。

 また体の中から熱くなってくるのを感じて、姫子は困惑していた。前は気持ち悪いと思っていたし、今でもそういう考えは変わらない。それなのに恭介との行為中に百合を思い出して、今までにないくらい感じた。今日も百合に手を握られて嫌な気持ちになることはなかった。これでは姫子の方が恋をしているようだ。そんなことはあり得ないのに、女同士で。仮に百合はそうでも私自信は違う。今はただ同性からの強い好意と、それを弄ぶ快感のせいで感覚が麻痺しているだけだ。もし今後百合が告白でもしてきた時は、きっぱりと断ればいい。そうすればきっとこの百合への思いもまた嫌悪感に変わるだろう。そう結論を出した姫子は火照った体を鎮めるために、先ほどからこすり合わせていた脚の付け根に手を入れた。


 昼休みに百合から話があると言われて、放課後空き教室に呼び出された。改まった様子で何だろうと考えたが、内心では確信がありただの考えるふりでしかなかった。百合はどんな言葉で告白してくるのだろうか、想像するだけで体の中心が熱くなるあの感覚に襲われる。昼休み後の古典の授業では、板書を3回も同じところをノートに書き間違えた。動詞に三角、助動詞に四角と記号を付けて分解しながら、告白の答えを考えていた。

 ちゃんと断らなくてはいけないのに、まだ百合で遊びたかった。とりあえず保留ということにして、百合が体も求めてくるようなら断ることにしよう。そう決めて約束の場所に行くと、百合は教室の隅で両肘を手で抱える様にして立っていた。姫子に気が付くと上ずった声で、来てくれてありがとうと言った。同性への告白なんて緊張しないはずがない、百合の緊張がこちらにも伝染してくるようで、足元がふわふわする。

 「今日は姫子に聞いて欲しいことがあってね、来てもらったの」「うん」「…私、付き合っている彼女がいるんだ」何を言っているのか分からない。「姫子は私の噂、レズだって噂聞いたことあるかな、急にこんな話でごめん。でも、今まで誰にも言わなかったけど、姫子には知っていて欲しかった、一番大切な友達だから」

 馬鹿みたいだ。百合の気持ちを無視して一人で勘違いして、傷ついて、舞い上がって、好きになって。百合はずっと友達として見ていたのに、裏切ったのは、百合を友達として見ていなかったのは姫子の方だった。なんて簡単で馬鹿な話なのだろうか。自分は今どんな顔をしているのだろうか。

 「友達だから、知って欲しいのは私の勝手だから、受け入れて欲しいなんて」「いいんじゃないの」これ以上百合の言葉を聞きたくない。「百合が誰を好きで誰と付き合っても、私には関係ないし、それに友達でいることにも関係ないから」「姫子…ありがとう」

 百合が姫子の肩に顔を付けて、抱きついてきた。百合の肩に手をのせると、涙をためて赤くなった目と視線が合った。こんな話を聞いた直後なのに、体が熱くなる。本当に馬鹿みたいだ。


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