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006本格的な冒険へ

「ほうほう、女神像では以下の操作が可能です?」

浅尾さんが女神像の前の祭壇で目を閉じて『女神像の役割』の内容を読み上げている。おばさんと別れたあと、二人にHELP機能の項目追加の話を伝えながらここまでやってきた。


二柱の女神は聖母マリアよろしく目を閉じて胸の前で両手を組んだ姿で、互いに数mの距離を開けて台座の上にのせられている。顔はどちらも俺たちの居る祭壇に向けられているので、女神像同士は相手の顔を斜めに見やる感じになっているな。

姿形はほぼ同じ。どことなくシェルハを思わせる風貌で、光の女神は白、闇の女神は黒の石材で造られている。


「光の女神像では

①各プレイヤーの到達度に合わせたイベントクエストの受信、

②周辺地図の確認、

③ジョブチェンジ。


闇の女神像では、

①モンスターの討伐状況の確認、

②ペナルティ解除クエストの受信、

③『宿敵』の登録|(レベル10以上)、

④『決闘』の申し込み|(レベル10以上)。

が出来ます。各女神像に向けて該当する内容を思い浮かべ、祈りを捧げてください。だってさ。」


ふむ。

光の女神像の方は便利な内容が多い。ジョブチェンジも出来るのか。メニュー画面からは1日1回しか出来ないので、緊急時以外ここでするのが基本になりそうだ。


一方、闇の女神像の方は不穏なものが多いな。①以外はあまり関わる機会のないような冒険を心がけよう。

早速光の女神像に対して3人とも『イベントクエスト』と頭の中で思い浮かべてみる。すると視界の右上にまた「!(メニュー)」が現れる。

メニューの『クエスト』欄を見ると『イベントクエスト・プレイヤー名をつけよう!を受信しますか? yes / no』だそうだ。


yesをクリックすると『ようこそ!新たなる冒険者よ!君のこの世界における名前を教えてください!』とメッセージが流れ、キーボードのような文字一覧がメニュー画面に現れる。

確かにいくらおとぎの国とはいえ、本名で行動し続けるのはあまり良い行為ではないな。ただ外見は自分自身のままなので、いかにもゲーム然とした名前を付けるのもためらわれる。


相談の結果、それぞれ名前のはじめの2文字をカタカナにしてつけることにした。

俺は「ソウ」、浅尾さんは「アヤ」、都築さんは「ヒナ」だな。

決定すると『クエストクリア!報酬:100ディレム。』のメッセージが流れ、HP/MPバーの左に、すぅっと名前が浮かび上がる。


互いに呼ぶときはとりあえず今まで通り名字で呼べばいいと思うが、周りに他のプレイヤーが居るときはこの名前で呼ぶことにしよう。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



「おばちゃーん、これ美味しいね~!」


村の酒場兼定食屋でよくわからない肉の煮込み定食を食べながら、浅尾さんが店のおばちゃんに声をかける。


あのあと拠点の登録や周辺地図、討伐状況の確認をすませ、村人への聞き込みを続けていると、皆空腹を感じる時間になってきたので休憩と情報の整理がてら、こちらにやってきた。都築さんの体力もはっきり視認できるレベルに減ってきていたのでちょうどいいだろう。


アルフ・ライラは夢の中の世界とはいえお腹がすく。

たぶん、魂の端末とやらを維持するのにエネルギーの摂取が必要なのだろう。冒険時に空腹で倒れては困るので、保存食は常に余裕を持って携行しておこう。

ここでおにぎりを作ってもらってもいいかもしれない。


一方、HELPを見ると排泄の必要は無いらしいのでその辺りの心配はいらないな。女性2人と長時間行動するからには気を使うべき部分だと思っていたので、正直ありがたい。


「さて浅尾さん都築さん、これからどうしようか?」

「なんだよー、つれないな高津くん、『アヤ』でいいっていったのに~。ねえ?『ヒナ』ちゃん?」

質問には直接答えず、煮込み定食を食べながら、にやりと笑って茶化す浅尾さん。


「あ、『アヤ』ちゃん、そういう言い方だと高津くんが困っちゃいますよ。」

そこに都築さんがフォローを入れる。


実は先ほどプレイヤー名を付けたあと、互いの呼び方についてちょっとした議論が生じた。俺は今まで通り普段は名字で良かったのだが、浅尾さんが「親睦を深めるために」と常に『アヤ』、『ヒナ』、『ソウ』で呼びあうことを主張したのだ。


……浅尾さんの主張もわからなくはないが、俺はその呼び方が定着することで現実世界でもうっかりその名を呼んでしまうリスクが怖い。

俺たちは同じクラスとはいえ、これまであまり接点がなかった者同士だ。それが突然親しげに名前で呼べば好奇の目で見られることは避けられないだろう。


なので最終的には浅尾さんと都築さんはプレイヤー名で、二人と俺は普段は名字、周りに他のプレイヤーが居るときのみプレイヤー名で呼ぶ、ということにおさまったのだが、浅尾さんは何か思うところがあるのか、その後ちょこちょことからかってくる。あまりこだわってもしょうがないので話を進める。


「今のところイベントクエストは名前付けの後は出ていないし、村人から受けられるクエストはほとんどが簡単な『○○を□□に届けてほしい』のお使い系か、『××を何匹倒してほしい』の討伐系だから、これをメインでやるよりも、島の探索をメインにしつつ、ついでにこなす感じになりそうだよね。」

今度はうんうん、と素直に頷く浅尾さん。


「なのでどこを探索するかになると思うんだけど、村人から集めた情報と女神像のマップによれば、この辺りの街道と草原地帯はほぼ丸ひつじと小動物系しかでない安全ゾーン。東の海岸地帯はモンスターのレベルが少し上がるが、それほど危険ではないゾーン。北の森がきちんと備えをしていないと危ないゾーンで、さらにそこを抜けた先の丘陵地帯がこの島一番の凶暴なモンスターの生息地帯みたいだけど、どうする?」


「ちょっと海いって平気だったら森!」

即答の浅尾さん。すがすがしいな。

確かに素養高めの俺たちのPTだと丸ひつじでは相手にならないし、海岸地帯もたぶん楽勝だろう。問題は森だが、俺のスキル『気配察知』もあるし、様子を見ながら慎重に進み、危なければすぐに引き返すことにすれば大丈夫だと思う。都築さんも特に反対しているわけでもないようなので、その方向で行くことに決めた。


その後食事を済ませ、代金を支払う。

3人で12ディレムという金額は、この世界の相場がわからないので断言は出来ないものの、手持ちの額からするとたぶんお手頃なんだと思う。

都築さんの体力もすっかり回復しているし、なかなか美味しかった。

またくることにしよう。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



「高津くん、どう?なんか気配はある?」

「いや、少なくとも20m四方にモンスターの気配はない」

浅尾さんの言葉に、俺は発動中の冒険者のスキル『気配察知』で得た情報を返す。


今俺たちは森にいる。

海岸地帯はやはり楽勝で、『ジャイアントタートル』とか、『ハーミットクラブ』とか見た目は堅そうなモンスターもいたが、ほぼ一撃だった。動きも鈍く、経験値やお金(ディレム)も大して良くないので、早々に切り上げて森に挑むことになったのだ。


ただ海岸地帯は景観が抜群だった。

まさにインド洋のリゾート地帯のような感じで、浅尾さんも都築さんも裸足で軽く海に入って喜んでいた。「また来たいね~」ともいっていたし、冒険というよりバカンス感覚で行くのもいいな。

ここの気候は温暖だし、水着とかあれば本格的に海に入ってみるのもありかもしれない。

……おっと、話がそれた。


「便利ですよね、『気配察知』。さっきもオオカミの群れに気付かれる前に先手を打てましたし、森みたいにレーダーが効きにくいエリアでは必須ですかね~。」


都築さんが感心したような声を上げる。

そうなのだ。視界の良い平原や海岸地帯ではレーダーから得られる情報のみで十分なのだが、森やダンジョンのような所では目に見えるエリアでしかレーダーが効かない。それに対して冒険者の『気配察知』は、発動中緩やかにMPを消耗し続けるものの、周辺のモンスターの気配を敏感に察知してくれる。しかもMPをつぎ込んだ量に応じて索敵範囲を広げられるという優れものだ。


森のモンスターは獣をモチーフとしているものが多く、人間よりも五感が鋭いようだ。これまでの感じでは正面切って戦えばそれほど脅威でも無いが、不意をつかれると思わぬダメージを受けそうではある。

気配察知がなければ難易度が高く感じたかもしれないな。


「ちょっと止まって。この先モンスターの気配が1つある。たぶんジャイアントベアだと思う。」

少し歩みを進めたのち『気配察知』の索敵範囲を拡大すると大きめの反応があった。

浅尾さんと都築さんに小声で警告し、並行して弓士のスキル『遠見(とおみ)』を発動する。これもMP消費量に応じて遠距離を見ることが出来るので、『気配察知』と組み合わせればほぼ正確な索敵が可能だ。


双眼鏡をのぞき込んだような感覚で遠くの景色がぐっと近くに感じる。

モンスターの気配はやはりジャイアントベアだ。攻撃力が高く、タフな上、動きもなかなかに俊敏という強敵だが、一匹だけならそこまで脅威ではない。

「どう?」と目で問いかける浅尾さんに、「ベア1。こっちに気付いていない」と返す。「じゃあもう少し近づいたら初撃うちます」と、こちらは都築さんだ。

チュートリアルの時からそうだったが、俺たちは元々親交がほとんど無かった割に連携がうまくできている。たぶん、互いの役割をきちんと理解しているからなんだろうな。


そろそろと気配を隠しながら近づき、『遠見』なしでもはっきりとモンスターの姿が視認できるところまで来た。

焦げ茶色の毛並みに隆々とした巨体。『ジャイアント』の語が表すように、およそ3mほどはあるだろう。現実世界で見かけたら死を覚悟しなければいけない姿だ。


しかし、ここはおとぎの国。

熊ごときは古来より少年少女の狩りの獲物でしかない。


都築さんの魔法の射程に入った。


「『火炎烈砲(フレイム・レーザー)』!」

「グ!?ガアアアアア!」


火炎魔法Lv2がジャイアントベアを直撃する。

さすがにこれだけでは倒せないが、不意の一撃に大きくよろめく。

そこを浅尾さんと俺が飛び出し、それぞれ斬撃を加えた。

ベアの体毛は堅いが、先ほどの都築さんの魔法に加え、だいぶ深手を負わせたようだ。半狂乱の(てい)で暴れるが、飛び退いて身をかわしつつ、なおも迫る攻撃を浅尾さんが盾で冷静に捌く。


「『風破斬(ウインド・カッター)』!」

そこに都築さんの風雷魔法Lv1が突き刺さる。いい選択だ。火炎魔法は威力が大きいもののMP消費が激しい。無傷ならともかく、傷だらけのベアならば『風破斬(ウインド・カッター)』で十分にダメージを与えられる。

また悲鳴を上げながら身をよじらせるベアの隙を見逃さず、俺がとどめの斬撃を浴びせると、一瞬の硬直後、緑の(ちり)となってその巨体は消滅した。


直後、俺の足元から淡い青色の光が立ち上り、しゃらしゃらと祝福の音色を奏でる。

視界右上に「!(レベルアップ)」の表示があらわれ、左側のシステムウインドウに目を向ければ、「レベル3になりました!」の文字が見える。

よし、やっとだ。長かったな。


「お!高津くん、おめでとう!」

浅尾さんが声をあげる。

「レベル3ですね!おめでとうございます~。」

こちらは都築さん。


2人は少し前の戦闘でレベルが上がっているので、俺がそれに追いついた形だ。

アルフ・ライラのレベルアップ速度はどうも平等ではないらしい。

レベル2になった時も都築さんがやや早く、次いで浅尾さん、少し遅れて俺だった。


はじめは戦闘で敵に与えたダメージで獲得経験値が違うせいかと思っていたのだが、しばらく互いに獲得経験値を報告しあってもそれほど差がなかった。

そこでメニューを開いて次のレベルに必要な経験値を照合してみたところ、都築さんが最も少なく、俺が一番多いことがわかったのだ。


これには2つの可能性が考えられる。

まず1つは純真の値が影響しているというもの。

純真が高ければ必要経験値が少なく、純真が低ければ増える、ということだ。

ただその場合、A+の都築さんより、Sの浅尾さんの方が少なくなければならないので、純真の影響は0ではないかもしれないが、あまり大きくもないとみている。


2つ目がステータスの総合値が影響しているのではないかというもの。

このゲームは現実世界の素養によるステータスの差がかなり大きい。

浅尾さんも都築さんもシェルハが絶賛するほどの高ステータスだが、その俺たちの間でさえ俺と浅尾さんで総合値に1.4倍、俺と都築さんでは1.6倍ほどの開きがあるのだ。


となれば俺たちのように開始早々森で狩れる者もいる一方、丸ひつじ(バルーンシープ)に苦戦する者もいるのだろう。

その両者のレベルアップ必要経験値が同じでは差が開く一方になってしまう。

そこでバランスをとるためにステータスが高いものほどレベルが上がりにくく、強い敵と戦わなければならないようになっているのではないだろうか。


丸ひつじで楽にレベル3になれる者もいるのかと思うと少し悲しい気もするが、その分こちらの方がお金(ディレム)やドロップは良いだろうし、今のところ浅尾さん都築さんとそこまで必要経験値に大きな差はないからまあ良しとしよう。


ちなみにレベルアップするとHP/MPの最大値が上昇し、さらにボーナスでステータスに3ポイント振ることができる。


浅尾さんは筋力・体力・敏捷にバランスよく振って長所を伸ばしているが、都築さんはまず弱点となっている体力と敏捷に振っている。


知力や精神に振らないの、と尋ねたところ、「私、体力ないんで」とにっこり笑顔で答えていた。

言葉や態度に出さないようにしているが、俺や浅尾さんが身体能力に劣る都築さんに負担をかけないペースで進んでいることに気づいているんだろう。

……なんというか、いい子だ。


「高津くん、何に振るの?それともまた保留?」

「ああ、今のところステータスに不満もないし、もう少し考えるよ。」

浅尾さんの質問に答えを返す。

そう、俺はまだどの値にも振っていない。


浅尾さん、都築さんと違って明確な育成ポイントがない俺にとって、それぞれのステータスの優先順位をしっかり見定める必要性がある。

仮にレベル、ステータスの最大値が99だった場合、俺の素養でもすべての値を99に出来るわけではない。ストロングポイントをどこに置くか、浅尾さん、都築さんのステータスと比較しながら、レベル5くらいまでは考えていいと思っている。

あまり期待はしていないが、ポイントを保留にしておけば必要経験値の差も詰まるかもしれないしな。


……ちなみに弱点である純真に振ることも考えたのだが、なぜか純真だけ灰色の文字で記され、ポイントが振れないようにロックされている。当然ほかの二人はそんなことはないのだが……この世界は純真が低いものにとことん冷たすぎやしないか。


一方、ジョブの熟練度の方は3人の上がり具合に大差はないのだが、いつの間にかつけた覚えのないジョブの熟練度まで上がっていることに気付いた。


HELPによると熟練度は今つけているジョブだけでなく、それらと親和性の高いものも少しずつ上がるとのこと。たとえば戦士は剣士・槍使い・斧使いと、魔術師は炎術師・氷術師・風術師と親和性があり、弓士は狩人、冒険者は旅人と親和性があるらしい。


これをうまく利用して使っていないジョブの熟練度をあげておくのが多くのジョブを使いこなすコツになりそうだな。


そうした情報を確認しながら行く手を阻む『ジャイアントスネーク』や『フォレストウルフ』を狩り、俺たちは奥へと進んだ。

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