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011再び丘陵地帯へ

泉からあがった俺たちは装備をととのえ、一路丘陵地帯へと向かう。

森ももはやモンスターがこちらを避けるようになってきたので最短距離で抜けた。

目の前に広がるのは緑豊かな丘の連なりと、そこに点在するモンスター達。


前回は慎重に進んだが、こちらもパワーアップしているし、今回は派手に狩ることにしようか。

俺はメニューを呼び出し、ジョブチェンジする。

【剣士・闘士・氷術師・冒険者・学者・踊り子・狩人】のサポート充実型から、【剣士・斧使い・闘士・魔術師・氷術師】の純戦闘型へとシフトした。


冒険者や学者は便利だが、もう初見のモンスターがいない以上、無くても充分やっていける。踊り子や狩人も外せば斧使いと魔術師がつけられるので、これで筋力・知力補正を強化すれば戦闘能力は確実に向上するはずだ。


浅尾さんはJPが17まであがったため祈祷師・羊飼いを外して修行僧をつけた。

スキル『聖魔法(低)』は本来の聖魔法がLv1~LV3までそれぞれ2種類の魔法が存在するのに対し、Lv3が使えず、Lv1と2もそれぞれ1種類のみとなっている。


しかし、Lv1の『軽回復(ライトヒール)』は徐々にHPを回復させる祈祷師の『祈り』と比べ、MP消費こそ大きいものの一瞬でHPを回復させてくれるし、Lv2の『加護(プロテクション)』は自身の防御力を上げてくれる。加えて若干の筋力・体力・純真補正がつくので浅尾さんの戦力増強にうってつけだろう。


都築さんは構成に変化はないが、炎術師・風術師がそれぞれ新魔法を覚えていることに加え、巫女も熟練度5でスキル『踊り』に属する『巫女舞』を覚えたので戦力は確実に強化されている。


早速近くにいた『ヒル・ゴブリン』の群れに襲いかかったが、都築さんがLv1魔法を1発撃ったほかは、スキルも魔法も一切無しであっさり蹴散らすことが出来た。


よし、このままどんどん狩ろう。

目的はレベルアップとクエスト『鍛冶屋の最高傑作』に必要なソウルを手に入れることだ。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



『ジャイアント・ヒル・スパイダー』は8本の脚のうち、前2本が硬化しており、それを武器に振り回してくる。

現実世界の蜘蛛ではあり得ない挙動だ。

『ブレード・ウィーゼル』辺りも同じような攻撃手段をとっていたが、威力と効果範囲は当然比較にならない。

蜘蛛の攻撃対象……俗に言う「タゲをとる」状態にあった俺は大きく後方に飛びすさってかわすが、その隙に巨大蜘蛛は大きく息を吸い込むような仕草を見せる。

粘糸をまき散らす前の予備動作だ。


しかし、

「浅尾さん!」

「まかせて!」

横から回り込んでいた浅尾さんが『斬閃(スラッシュ)』を放ってダメージを与えた。

痛みから粘糸を吐く動作を中断する巨大蜘蛛。その隙に俺も『斬閃(スラッシュ)』を放ち、蜘蛛の顔にあたる部分を大きく切り裂く。

蜘蛛は怒りにまかせて脚をでたらめに振り回して暴れるが、当然それは俺たちにかすりもしない。


「[炎の精よ、我に力を。我が敵を撃ち抜く砲弾となれ!『獄炎砲(バースト・キャノン)』!!]」

そこに都築さんが新たに覚えた火炎魔法Lv3を放つ。

章句通りの巨大な炎の砲弾が都築さんの持つ杖から発射され、直撃を受けた蜘蛛のHPバーが一気に減った。


『獄炎砲(バースト・キャノン)』は、同じ火炎魔法Lv3『烈火爆炎陣(フレイム・バースト)』に比べて効果範囲はかなり狭いが、詠唱がLv3魔法の中では短く、威力も高い。

大量の敵を相手にするならば『烈火爆炎陣(フレイム・バースト)』だが、こうしたボス戦のような局面ならば『獄炎砲(バースト・キャノン)』が有効だ。

炎に焼かれ、もがき苦しむ巨大蜘蛛に俺と浅尾さんが斬りつけ、とどめを刺した。


「よし、まずは1匹!」

浅尾さんがガッツポーズをとる。


「また湧くまでには少し時間もかかるでしょうから、この間にさっき見えた2体の『レイジ・ブル』を狩りに行きましょうか?」

こちらは都築さんだ。


モンスターは一度倒してからしばらく経つと、特定の出現ポイントの範囲でまた「湧く」のだが、この湧き時間はモンスターによって異なっている。

『ジャイアント・ヒル・スパイダー』はここのボス級だけあって湧き直しに若干の時間がかかるようだから、その間ここにいるよりも他の地点にモンスターを狩りに行った方がいい。


理にかなった発言ではあるが、なんだか都築さんのセリフとしてはちょっと過激な気が……。


「そうだね、それがいいと思う。」

「じゃあ決まりですね!今度は新しく覚えた風雷魔法を試してみたいのですが……いいですか?」


どうやら新しい魔法の試し打ちがしたくてたまらないらしい。

すっかり好戦的になった都築さんに連れられる形で『レイジ・ブル』を狩りに向かう。丘陵地帯で2番目に強いモンスターのはずなんだが、なんだかもう都築さんに捧げられた生け贄にしか見えない。


案の定、2体まとめて新たに覚えた風雷魔法Lv1『雷撃鞭(サンダー・ウィップ)』で嬲られ、Lv2『双風斬(ダブル・カッター)』で切り刻まれたあげく、Lv3『天雷(ライトニング・ストライク)』で昇天していた。


最後の『天雷(ライトニング・ストライク)』は明らかに過剰ダメージ(オーバーキル)だったと思うのだが、何も言わないでおこう。


『レイジ・ブル』は巨体を生かした突進攻撃が売りの、攻撃力がきわめて高いモンスターなのだが、一方その動きが直線的すぎて一度攻撃をかわせば大きな隙を見せる。

しかもあまり群れないらしく、1体、多くても2体までしか同時に見かけないため対処がしやすい。

慣れてしまえば敏捷値の低い都築さんでも狩りやすいモンスターだ。


「あ、あっちにも『レイジ・ブル』がいます!……1体だけですし、また魔法の効果を色々試してみてもいいですか?」


それがわかっているのか、その後も『レイジ・ブル』を見るたび都築さんは嬉々として魔法各種の試し打ちにはしり、その都度ブル達の悲鳴が丘陵地帯に鳴り響くことになった。


俺と浅尾さんはというと、はじめこそ都築さんを守れる立ち位置にいたのだが、すぐにすることが無くなったのでブル狩りの時は休憩時間と割り切ることにした。


浅尾さんが「ヒナちゃんって、やっぱりバーサク少女だよね~。」と得心がいったように話しかけてきたので、俺はその言葉に適当に相づちを打ちながら、心の中でそっと『レイジ・ブル』達の冥福を祈った。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



そこから2時間近く、俺たちは丘陵中のモンスターを狩りまくった。


はじめは丘陵中の敵全てを狩り尽くしてしまうのではないかと心配したのだが、1つの狩り場で特定のPTが狩りすぎるとモンスターの憎悪(ヘイト)が高まって出現数が増えるらしく、まず『ヒル・ゴブリンコマンダー』が『ヒル・ゴブリンガード』3体を含む、20体以上のゴブリン部隊を率いて襲いかかってきた。


これは俺と都築さんの広範囲魔法で美味しくいただいたのだが、『ジャイアント・ヒル・スパイダー』までもが2体同時に登場してきたときにはさすがにちょっと驚いた。

もっとも浅尾さんと俺がそれぞれ1体ずつ攻撃を引き受けながら、都築さんが小蜘蛛や粘糸を処理したり、『巫女舞』でステータスをあげるサポート役に回ることで充分対処できたのだが。

浅尾さんは『加護(プロテクション)』で防御力を上げていたし、俺は捌ききれない攻撃を無属性魔法Lv2『魔力盾(マジック・シールド)』で防いだのでそこまでダメージを受けない。第一、都築さんがまめに『祈り』をかけてくれるため、多少のダメージは心配する必要がなかった。

隙を見て『斬閃(スラッシュ)』をたたき込みながら戦い、俺と浅尾さん、2人がほぼ同時に蜘蛛を仕留めることが出来た。


……ちなみに蜘蛛2体を上回る衝撃だったのが『レイジ・ブル』で、丘陵№2のモンスターが何と10体同時に襲いかかってきた。

突っ込んでくるブルのあまりの怒りの表情に、俺と浅尾さんは思わず都築さんの方を見、都築さんは「ちっ、違いますよ~!」と首をぷるぷる振って否定したが、絶対都築さんの虐殺ぶりがブル達の怒りに火をつけたんだと思う。


笑い話のようでこれが今日一番の死闘だった。

都築さんが『火炎球(ファイアー・ボール)』を連発して群れをひるませ、俺が氷水魔法Lv2『氷縛呪(アイス・バインド)』で足止めをしながらなんとか各個撃破したのだが、コンビネーションで時間差を付けつつ執念で(おもに都築さんに)襲いかかってくるブル達の攻撃を一再ならず受けてしまい、一時的にではあるが戦闘中はじめて(都築さんをかばった)俺と浅尾さんのHPバーが半分を割り込む事態に陥った。


こうなると『祈り』の回復速度では危険なため、浅尾さんと都築さんが『軽回復(ライト・ヒール)』を連発したのだが、やはり『祈り』に比べてMP消費が激しい。

普段の狩りは極力『祈り』で対処できるレベルが理想だな。


いずれにしろ無事に倒すことができて何よりだった。


「……ヒナちゃんってさ~、必ず何かやらかすよね~。」

「ごっ、ごごごごごごごごめんなさいっっっ!!」

戦闘を終え、急いで森まで待避すると、さっそく浅尾さんの都築さんいじりが始まった。


「罰として村に帰ったら『オトナのエロカワ水着』を購入することに決定!」


「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!そ、それだけは許してぇぇぇぇぇ!」


「ダ~メ!今回は購入するだけで許してあげるから必ず買いに行くこと~!」


「こっ、購入するだけなんだよね?着なくていいんだよね? ね???」


「今回はね~?……でも次回また何かやらかしたら着てもらうよ~?うふふふ。」


「あ、アヤちゃん、お慈悲を!『オトナのエロカワ』だけはいやぁぁぁぁ!!!せめて『ちょっときわどい水着』で許して~!!!」


「ふふふふふ。よ~し、自ら願い出たその勇気に免じて『ちょっときわどい水着』で許してあげよう!感謝するんだよ、ヒナちゃん?」


「ありがとうアヤちゃん!!!」


……浅尾さん恐るべし。


おそらく最初から『ちょっときわどい水着』を買わせるあたりが落としどころのつもりだったんだろう。しかしはじめからそれを言っては都築さんが抵抗を示す可能性が高い。そこであえて無茶な『オトナのエロカワ』をはじめに出し、都築さんが自分から『ちょっときわどい』を申し出るように仕掛けたのだ。


人間、はじめに出された条件が厳しすぎると、あとの条件が実際よりも甘く感じてしまって飛びつきやすくなる。

交渉術の基本ではあるが、それだけに見事だ。


罰が軽くなったことに喜んでいる都築さんがちょっと哀れになってきたので、浅尾さんにこっそり「あんまりやりすぎちゃダメだよ」とささやきかける。浅尾さんも苦笑いを浮かべながら「いや~、そうは思ってるんだけど、あまりにヒナちゃんの反応が可愛らしくてさ~。さすが純真A+だよね!」と返してきた。


……あなたの純真はSのはずなのですが。


そう思っても口には出さずに曖昧な笑みを浮かべるにとどめた。

俺も立派な日本人スピリットの持ち主だな。


しかし一連の狩りで『鍛冶屋の最高傑作』の必要ソウルはもちろん、俺たちのレベルも都築さんと浅尾さんが9、俺が8まで上がった。

各種熟練度もかなり上がっている。

思いもかけぬパワーレベリングになったな。まあ死ななかったからよしとしよう。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



村に戻ってドロップ品を整理し、鍛冶場に行ってソウルを渡すと例の親方格の職人が決意を込めた表情で、「あんたらの苦労に報いる最高の一品を作ってやる!」と鍛冶仕事に取りかかり始めた。完成は明日らしいので、ログインしたらすぐに取りに行こう。


都築さんのおかげ(?)で『ブルソウル』が大量に集まったが、これは防具や装飾品の強化に当てることにした。浅尾さんと俺が『レイジ・レザーアーマー』、都築さんが『暴牛の青僧衣』、『レッド・ホーン・カチューシャ』の作成を依頼する。

都築さんの杖も『ブラック・ビースト』から手に入れたソウルを用い、新たに『黒豹の杖』を作成することにした。


『アメジスト・ストーン』も大量に手に入ったので、これら新規作成品を+1にするとともに『レイクソード』を+2にしてもらうべく、職人さんに預けた。


ちなみに+1にするのに必要なストーンは1個だが、+2には3個必要だった。

ここまでは成功率100%らしいので心配はいらないが、+3から失敗の可能性も出てくるらしい。まあ装備が壊れるわけでは無いらしいので、アメジストで済む分にはあまり気にしなくていいだろう。

慎重になるのは上位のストーンが要求されるようになってからだな。


なお、都築さんは約束通り雑貨屋で『ちょっときわどい水着』を購入していた。

……最初はアレを見て絶叫していたハズなんだけどな~。

『オトナのエロカワイイ水着』を買わずに済んだことが嬉しかったのか、にこにこと笑顔で『ちょっときわどい水着』を握りしめている。


たぶん、次に何かやらかしたら本当に着させられるのだろうけど、『ちょっときわどい』も都築さんにとってかなりのチャレンジになってしまいそうなレベルなのだが……そこまで『オトナのエロカワ』はやばかったんだろうか。


あのとき俺は逃げるように店を出たので現物を見ていなかったのだが……『あぶない水着』よりひどいと言うことは……さすがに無いよな?


まあしかし今日もなんだか色々なことがあったが楽しかったな。

明日はいよいよ定期船が来る日だ。

浅尾さん、都築さんと話し合った結果、もうウル島はほぼ制覇したので港町ユーフラに行くことで意見が一致した。

『大陸』の方に行けば他のプレイヤーとの本格的な出会いもあるのだろうか。


……願わくば都築さんが明日は何もやらかしませんように。

都築さんのためにもそう願いながらアルフ・ライラの2日目が終わった。



■ ■ □ □ ■ ■ □ □ ■ ■ □ □



キャラクターステータス


高津創一郎 Lv3→8

 ジョブ   ※【】内は現在のジョブ、◇はそれ以外。数字は熟練度。 

 【剣士9・斧使い3・闘士7・魔術師6・氷術師5】

  ◇戦士4、弓士5、冒険者5、炎術師2、風術師2、騎手1

   学者5、狩人5、薬師3、旅人3、踊り子4


 ステータス ※()内はジョブの能力補正値。HP/MP/JPは矢印で以前の値と比較。

 HP203→255   MP139→166   JP42→43

筋力31(+15) 体力35(+9) 敏捷35(+13)

器用43(+0)  精神32(+8) 知力52(+11) 純真0


スキル

 『斬閃(スラッシュ)』『気功術』『無属性魔法』『氷水(ひょうすい)魔法』

 


浅尾彩佳  Lv3→9

 ジョブ

 【剣士8・修行僧3】

  ◇戦士3、闘士1、祈祷師5、羊飼い5


 ステータス

 HP215→282   MP108→136  JP15→17

 筋力35(+6) 体力34(+5) 敏捷40(+8)

器用9 (+0) 精神13(+2) 知力8 (+0) 純真42(+0)


 スキル

 『斬閃(スラッシュ)』、『聖魔法(低)』



都築雛子  Lv3→9

 ジョブ

 【炎術師8・風術師8・巫女8】

  ◇魔術師5、神官4、祈祷師5


 ステータス

 HP61→93   MP241→276 JP27→29

 筋力4 (+0) 体力12(+0) 敏捷10(+4)

器用21(+0) 精神31(+16) 知力38(+15) 純真35(+4)


 スキル

 『火炎魔法』『風雷魔法』『聖魔法』『祈り』『巫女舞』

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