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おまけで大人気

「くひひひ……大ヒット商品を生み出す秘訣……それはなに?」

 幹生宅の玄関で、首をがくんと横倒しにした、目つきのうろんな少女が問う。

「古くは富山の薬売りから、グリコでしょ、プロ野球チップスでしょ、ビッグワンガムでしょ、ビックリマンチョコにチョコエッグ。つまり、魅力的なオマケでしょ」

 柿のヘタのようなヘッドドレスをつけていて、内に巻き気味の茶色のボブカットと合わせて、柿の実みたいに見える少女が答える。

「インディード(左様)……いつも幹生にはお世話になってる……。ここは、オマケをつけて幹生の商売に貢献してあげようじゃないか……くひひひひ」

 うろんな目つきの少女は、口の端からよだれを垂らしそうになりつつ、怪しく笑う。

「エノキタケみたいな、誰でも食べたことあるようなキノコだけじゃつまらないでしょ。だから、あんまり人が食べたことないキノコをおまけしちゃうでしょ」

 そういう柿っぽい少女は、にこにこと平和な笑顔を浮かべて話す。

 無断で幹生の売るキノコにオマケをつけようとしているこのふたり、どちらも目が赤く輝いている。つまり、毒キノコだ。

 くひひと笑う方、シロシベ・アルゲンティは、ヒカゲシビレタケの娘。

 クスリでもキメてるんじゃないかという物腰だが、何しろ当の本人がそのクスリだ。幻覚作用を持つ毒キノコで、一時はマジック・マッシュルームなどといって出回った。

 今は麻薬及び向精神薬取締法によって、栽培や譲渡はおろか、所持しているだけでも犯罪になる。しかも廃棄することも犯罪なので、うっかり手に入れたら捨てることもできない。実際、どうすればいいんだろう?

「くひひ……そのダブルバインドは法律が悪いんだ……キノコのせいじゃない……」

「どうしたの急に。誰と喋ってるのかわかんないでしょ」

「気にしない気にしない。くひひ」

 ごまかされたが、アルゲンティが突然見えない誰かと話をするくらい、当然ありそうに思える。柿っぽい少女はそれ以上こだわらなかった。

 その柿っぽい少女はというと、カキシメジの娘だ。

 柿っぽい頭と、柿っぽい丸く膨らんだスカートが特徴的だが、他はあまり目立つところはない。上半身は白のノースリーブにオレンジのネクタイ。耳に広葉樹の葉と松葉をかたどったイヤリングがあるが、さりげない感じ。足元は、白い編み上げサンダル。

 名をシャロン・ウスタという彼女、今は地味で穏やかそうな女の子に見える。

 しかししばらく経つと、いつの間にか衣服に茶色のシミが浮き始め、さらには皮膚がひび割れて、真っ黒な肌が垣間見えてくる。

 皮膚が割れたのではない。漆黒の肌を、ファンデーションで分厚く塗り込めているのだ。

 やがて顔の化粧も剥がれ落ちると、その下からは禍々しさそのものの素顔が現れる。

 そんな娘の姿同様、カキシメジはいかにも毒のなさそうな見た目をしているから、キノコ狩りをする人がよく間違って食べて中毒する。

 一般に、人を殺すような激烈な毒を持つキノコの娘は、自分を人に食べさせようとはしない。逆に、人が死なない程度の毒を持つキノコの娘は、隙あらば食べさせようと機会を伺っている、陰険な娘が多い。

 カキシメジは、死ぬところまではいかない毒キノコだ。

「ただオマケにつけるだけじゃつまんないでしょ。少なくとも全五種類をランダムでつけるべきでしょ」

「くひひ……コレクター魂をくすぐるんだね……」

「そうでしょ。あたしたちとあと三種類、ヒトヨタケとバライロウラベニイロガワリ、それとチシオタケってとこでしょ」

 ヒトヨタケは美味しいキノコなのだが、人体のアルコール分解酵素を阻害してしまうため、お酒と一緒に食べるとお酒が毒になる。つまり、一発で悪酔いしてぶっ倒れる。

 バライロウラベニイロガワリは、美味しいキノコの多いイグチ科のキノコであり、食べるとやはり非常に美味しいといわれているが、酷い消化器系の症状を起こす毒を持つ。

 チシオタケには別に毒はないのだが食用でもない。キズがつくと赤い血を流す不気味な性質を持ちつつ、しかも非常にキズがつきやすい。

「そして五種類全部コンプリートしたお客さんには、スーパーレアキノコのシャグマアミガサタケ(国産品)をプレゼントでしょ」

 シャグマアミガサタケは食用キノコではあるが、見た目が脳ミソみたいで強烈だ。

 しかも、食べる前に煮沸して毒をよく飛ばす必要がある。そしてその煮沸蒸気に、モノメチルヒドラジンなんて恐ろしい有毒物質が含まれ、吸うだけで死ぬことがある。

「くひひひひ……コンプガチャ商法……! 景品表示法の限界にチャレンジ……!」

「人間の会社だってどこも労働基準法守ってないんだから、こっちだって食品衛生法とか景品表示法くらい無視ってもオッケーでしょ」

 アルゲンティとウスタが、拳を合わせる。

「おまえら、俺の仕事中は、毒キノコは立入禁止だっていってるよな」

 そこにふすまを開けてやってきた幹生は、ふたりを容赦なく叩き出す。

「くひ……手伝ってあげようとしてるのに……」

「うるせえ毒キノコ混入とか冗談で済まないんだよ。毒キノコ去るべし。慈悲はない」

 玄関から転げ出されたアルゲンティとウスタの前で、ドアが閉まって鍵がかかった。


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