情報統合思念体とインターフェイス
目の前に座った私の親友が
「それは現実なの?妄想なの?」
としつこく繰り返す。彼女は泌尿器科医。女医は珍しい業界だが、同級生にもう一人いるらしい。
一方で私は、精神を病んでいる。
別にどうということはない。彼女は私をよく知っているから、水を沢山飲んでも手が震えても気にしない。
こんなに飲んだら薬飲むと危険よね。
そうね。
薬飲まないのもねえ。
大丈夫だよ○○○病院は開いてるから。
どこそれ。
谷上。
知らねーよという言葉は飲み込んだ。確かに地下鉄で一駅だから、何かあれば親に言って調べてもらって搬送できるだろう。
持つべきものは友である。彼女は震災後私が精神を病んだ時、真夜中にも関わらず東京の深夜開いていて精神科がある病院をリストアップして送ってきた。
「あの時は暇だったんじゃない。いつでもはやらないよ」
昨日も明日も当直の彼女は、疲れていた。
待ち合わせたのは、私が通っていた予備校だったので、早く着いた私は記憶を頼りに手洗いを借りて、暇だったのでパンフレットを開き、あまつさえ受付で受験の相談すらした。
予備校の事務員はちゃんと案内をして、ぴったり六時に私はドアを開け、彼女に出くわした。
「あら」
彼女の頬は真っ赤だった。
「ほっぺたが真っ赤ですけど、先生」
「出かける前にチークをグルグルしてきたんだよ」
「化粧慣れしてないのよく分かりますけど先生」
「いつもちゃんとしてるよお」
「ていうか先生なのよね」
「先生に見えないってよく言われるけどね」
まあ先生には見えないね。オカッパでお世辞にも美人とは言えない彼女だが、若い男性だと勃ってしまうこともあるそうで、
「ごめんねえ、女で」
と思うそうだ。ちなみに私はそう思ったことはない。
「酔っ払ってるね」
私が手洗いから帰ると、バーテンから水が出された。
「あら、至れり尽くせりだこと」
「私が頼んだんだよお」
「あら、ありがとう」
「読みが当たって嬉しいよ」
ふと見ると、何か拾っている。
「カード落としたの?」
「うん」
「きゃーとも落としちゃったとも言わずに拾うのね」
「そういうところに気づいてくれる人には好かれるんだけどね」
万事淡々としている。
「軸がブレる人はみるくちゃんとは合わないよ。感化されやすい人は疲れるから」
的確な指摘と批評だ。私たちは予備校からは近いからと一月の神戸の坂を歩いていた。
「ここなら歩いて帰れるでしょ。私は酔っ払いの介抱はしないよ」
そんなことを言って、
「大体この時間にお開きになるように六時にしたんだよ」
説明されるとぐうの音も出ない。何もかもお見通しだ。
「ありがとう」
「何を今更。私はみるくちゃんの錨になりたいよ。私は老後は奈良に住もうと思ってるから関西には留まってるから。貴女には、私の目の届く範囲にいてほしい。たまにメールするとアドレス変えてるんだもの」
「申し訳ない」
「じゃあ次は四月ね」
「一番気が狂ってる時期ね。五月ならいいよ。誕生月だし」
「あっそ。じゃあ土日にいっぱい当直しとくよ」
「そうしてください」
心底どうでも良さそうに言われた。
「じゃあね」
「地下鉄の入り口分かる?」
「知らない」
「あの辺。行けばわかる」
「あっそ。じゃあね」
振り返りもしない親友が、私にはいる。