6 なずなの恋
……。あれから、なずな君は私の元によく訪れる様になった。
「桃ちゃーん、一緒にごはん食べよ?」
お昼休みになると、なずな君は毎日の様に来る。クラスの子もわかっているのか、さっと私の隣の席の子が机を譲ってくれる。その時、「頑張れ!」って声を忘れずに……
いや、何を⁈
なずな君は、とても整った顔立ちだ。綺麗というよりは可愛い系。授業中にもよくメールが来たりするが、頭も良いらしい。また、実家は超金持ちのようだ。これで人当たりも良いとなると優良物件の様に思えるが、普通の女の子にとって最大の難関がある。それは、なずな君が重度の虫好きということだ。
私は、まぁよく田舎にも遊びに行くからかまわないけど普通の、それもお金持ち学校に通っている女の子にはキツいものがあるらしい。
「えへへ、ありがとう」
と、席を譲ってくれた女の子に声をかける。女の子は、顔を赤らめながら去っていく。…このイケメンが!
なずな君は、私の元に来ても特に何かをするって訳では無い。
例えば、私が花束の資料を見てたりすると何も言わずに時間が来ると去っていく。「暇じゃないの?」と前に聞いたことがあるが、「全然!桃ちゃんの顔見てるだけで楽しいよ」とニコニコと返してきた。そこまで言われたら、もう何も言い返せずに結局このままだ…。
でも、見てるだけで楽しいってどういうことだろ?……昆虫を見て「可愛い」言ってるのと同じ感じ……なんてことも、ありそう……
「どうしたの?桃ちゃん、溜息ついて……そうだ!僕、美味しいケーキ屋さん見つけたんだ。一緒に行こう」
「桃ちゃん、これから…」
ニヤニヤと笑って女の子達は私の周りに集まる。いい気なもんだ。
女の子達にとって、付き合うことはなずな君の虫好きの為に出来ないがイケメンであることには変わり無い。やはり、皆イケメンを見ていたいのだ。私がなずな君と付き合うってことは、私はなずな君を呼び込む良い招き猫になる。だから、皆して私となずな君をくっつけようとする。
「違うよー、私となずな君はそういう関係じゃないよー。ただの友達
。」
「えーー、でも今日デートに誘われてたじゃん!あれは立派なデートだよ、2人きりで行くんでしょ?」
恋愛大好きな我が友人、小春ちゃんが皆を代表していう。皆も「そーだ、そーだ!」という。
私がまたそれに言い返せそうとすると「うん、そう。僕達これからデートするんだよ」と呑気な声が聞こえた。
⁈
それは、なずな君の言葉だった。
女の子は、男らしいそのセリフに悶えている。私も顔が赤くなっているだろう。
「え、え、え?なずな君?
なっ、何で……」
「遅かったから迎えに来たんだ。
桃ちゃんのこと好きだよ?だからデートに誘ったんだー
何でって聞かれると、んー、悩むなー。あんまり女の子と虫の話したことなかったから、なんとなく気になった、って感じかな?桃ちゃん、面倒くさがりながらでもきちんと僕の話聞いてくれるし」
そんな告白を受けて私は正気でいられなかった。なにしろ私は今まで告白されたことは無い。今まで茂兄の後だけを追い続けた私は…その……“ボンっ!”私の記憶はここで無くなった。
それからのことは、よく覚えていない。いつの間にか家にいた。「ケーキ美味しかったね」ってなずな君からメールが届いてたことから私は一緒にケーキ屋さんへ行ったのだろう。また、他の子が言うには私はコクン、コクンと頷く言われたことを意識なくやるだけの人形状態だったそうな。
いや、そんな人間連れてくなよ。