5 なずなの愛
んー、どうしようかな?
お昼休みに私は、1人で花壇を見ながら昼食をとっていた。勿論、楓先輩から貰った資料を見ながらだ。
資料に載っている花束はどれも綺麗だ。例えば……
去年の春の花束
この人は、アネモネのビビットなピンクにスイートピーの甘いピンクをたして春の雰囲気を出した花束だ。
で、一昨年の花束は…
わぁ!こっちは、全体的に黄色の花を使っている。あちこちに散りばめられた菜の花が可愛らしい。
私は、“春”というとどうしてもピンクの色を想像しがちだが確かに、黄色にも春らしさがある。んー、どうしよう。やっぱり、色って大切だよね…だってほら。過去のページをめくっていくと、夏なら青それに水色だったりと季節ごとの色を決めている……
もう!下手に過去のやつなんか見るから、余計にわかんなくなっちゃったよ!…と完全に八つ当た……
「あーーー!そこの君、ちょっと動かないでーーー!」
可愛らしい声が聞こえたと思った瞬間「むぐっ⁈」私の顔は、虫取り網に掛かっていた。
え?え?え?と大混乱をしていると
「あぁ、行っちゃった…」
と悲しそうな声が聞こえたと同時に相手は私に気が付いたようだ。
「ごめんね。…僕の名前は、玉簾なずな(ぎょくれんなずな)。クラスは1ーAです。君は…?」
「私は、1ーCの雪村桃。
…で、玉簾君は何をやってたの?」
私が不機嫌なのはしょうがないだろう。なにせ、相手は私の顔にいきなり虫取り網をかけてきた上に……そう、攻略対象キャラなのだから。
もう流石に慣れたわ…
私が彼らと会うのは必須なのだろう。でも、この間の経験から必ずしも恋愛イベントに発展することは無いのはわかっていた。
前回、本当なら私は生徒会長に頼まれる時にキスをされなければいけなかった。その時に
「…俺に続きをして貰いたかったならせいぜい頑張ることだな。」
と言われた筈だった。
しかし、実際は“お茶友達”としての激励だ。勿論、今回は引き受けるにしても好感度アップイベント…いくつもの恋愛イベントをこなした結果起こる今後のルートに関わる大きなイベントには出来るだけ参加したくない。
記憶が完全に戻ってる訳じゃないからあまり言えないが、ハーレムエンドにも種類があって、何かの条件をクリアしたら全員とほぼ同棲生活が待ってた気がする…他にもハーレム状態で何かをすると嫉妬イベントが起きて…………なんか凄かった。凄いってことだけは覚えてるのに詳細が思いだせない。とにかく、私はハーレムルートだからといって安全という訳では決してないのだ。むしろ、一番難しいルートだから、それ故バットエンド数も多い。
「…桃ちゃん?」
玉簾なずなは私のことを心配そうに見ていた。おっと、頭ん中トリップしてた…
「あ、ううん。なんでもないの」
「そお?なら良いんだけど…
それよりさ、同じ歳なんだから玉簾じゃなくて名前で呼んでよ!」
「えと、なずな君?」
なずな君は、満足そうに笑った。
「あ、それでね、さっきは…」
と言いかけたところでチャイムが鳴る。「んー、そうだ。桃ちゃん、放課後またここに来てよ!」と彼は去って行った。
「キャーーーーー!」
放課後、私は言われた通りに花壇の方へ向かうと女の子の悲鳴が聞こえた。なんだろうと思い走って行ってみると…
「おい、そこどけよ!」と見知らぬ男子生徒がなずな君に怒鳴る。なずな君は、何かを必死に守って「やめてよ」と半泣きになりながらも抵抗してる。……多分、なずな君が守っているのは虫だ。
なずな君ルートでは
昆虫大好きななずな君は、周囲の人に理解されずに寂しい思いをしていた。それをヒロインが慰めて一緒に周囲への理解を深めていくというストーリーだ。
「ねぇ、何をやっているの?」
私が、声をかけると男の子の意識はこちらに向いた。
「あいつが、俺の彼女を泣かせた虫をこっちに渡さないんだよ!」
なるほど、あの悲鳴の女の子は、こいつの彼女だったのか。その女の子は、泣きながらこちらの様子を見ている。
「ふーん、で?
なずな君から虫を取ってどうするの?殺す気?」
私の言葉になずな君はびくりと震える。
「それは…、その…」
相手は口籠った。どうやら、特には考えてないようだ。
「あのさ、彼女が泣かされてムカってするのはわかるよ。でも、それはさ泣いている彼女を放置してすることじゃないと思うんだ。」
彼は、彼女の様子に気が付いた。
「彼女が大事ならさっさと、彼女の所へ行って慰めてきなよ。……もしかしてさ、彼女がまだあそこにいるのってまだ君と一緒にいたいからなんじゃない?」
虫が怖いなら、この場所から逃げたっていいんだ。でも、彼女はまだここにいる。
「わるい…」
彼は一言謝ってから、彼女の元へ向かった。私の考えは当たっていた様だ。2人仲良く去って行ったよ…いーなぁー私も茂兄と……。
「桃ちゃん、ありがとう!」
なずな君は、満面の笑みを浮かべてお礼を言った。その後、また表情は強張る。
「女の子って、虫を怖がるよね…
桃ちゃんも虫が怖い?」
一応まだ手の中にいる虫を私に見せない様にして気を使っているようだ。
「ううん。別に…特に好きって訳じゃないけど、嫌いでもないよ」
これが私の正直な言葉だ。
好感度アップを狙うなら「大好き」と言うのが正しいだろうけど、そういうつもりは無い。
「そっか…、嬉しいな。」
と言いながら手の中に入れていたミミズを見せる。
「僕は虫が好きなんだ。正直、花よりも。確かに花は綺麗だよ?
でもさ、そういう風に綺麗に咲けるのって…それを育てた回りの環境。お世話をしてくれた人だったり、虫だったり……僕は花みたいに目立つことは出来ないけど虫みたいにそのお手伝いなら出来る。
知ってた?ミミズって、土を耕してくれるんだよ。凄いよね!でね、それっていうのはね……」
なずな君は、最初はポツポツ。段々饒舌に虫への愛を私に語る…。
「……ってことなんだよ!あ、僕1人で先走り過ぎちゃったかな?
……でも、久しぶりだなぁー
こんなに虫の話が出来るなんて!また、お話しよ?今度は、僕の特別な部屋に案内してあげるね!気にしないで、僕と桃ちゃんは親友だから!、」
なずな君は去って行った。
……親友?いつから?
私、あなたと喋ったっけ?さっきから私は相槌しか打ってないのに?ひとしきり喋ってポイかよ……
…………疲れた。
なずなの花言葉は『私の全てをあなたに捧げます』うん、君の愛は深いね…