試験の説明
天使長の説明が続く。
「まずこの試験では世界各地を巡ってもらいますわ。方法はお任せします。徒歩や馬などの移動手段や転移魔法も使ってもらってかまいません。そこで各地にいる天使が試験をして判定を行いますわ。その天使に認められると勇者の証が貰え、勇者ランクがアップするので励んでくださいね」
と天使長は笑顔で説明を続ける。
ただ、次の説明の前に真面目な顔になると
「ただ、試験の期限は3年ですので超えないように注意をしてくださいね。これは馬を使って世界を旅した場合の期限で、転移魔法が使えるパーティだったら大体1年ぐらいと思うわ。あと、試験中に死亡した場合は1回目はサービスで天使が出張して蘇生します。2回目からは所持金の半額です。地獄の沙汰も金次第と言いますからね。そして、7回目になると失格になるので注意してください。」
と言っているが、地獄って! アンタは天使だ! などと突っ込むわけにもいかず、話を聞いている。
「まあ、例外として治癒術士が蘇生魔法を使って蘇生するのはカウントしないので大丈夫ですわ。なので成功率を上げておいてくださいね」
結構大事な事を軽く説明していく。
蘇生魔法なんてそんな簡単に使えるものではない。
大きな町などの神殿にいる、神官や巫女といった上級職に就く人たちが使う魔法だ。
しかも成功率は3割ほどらしい。
「あと最後に勇者の証が貰えないからといって、『殺してでも奪い取る』なんて選択をしないようにしてくださいね。実行したなら、その人は天界で100年の労働をしてもらいます。天界では食事や睡眠を必要としないので、24時間×100年ですので、その事をしっかり覚えていてくださいね」
などと、怖い内容の脅しも加えてくる。
実際に天使と戦って勝てるとは思わない。
本を読んだ限りでは、上級剣士の剣術でも傷がつかず、上級魔法使いの魔法でも防御を破れない。まともに戦おうとしたら、伝説にあるような聖剣や魔剣や超魔法を使うしかないだろう。などと、ほぼ不可能な事が書いてあった。
そんな物が持てるとしたら、本当の勇者だろう。
俺がしようとしているのは、高収入の就職だ!
村にいた時に見た『勇者試験のススメ』の、受験生の声コーナーに書いてあった。
「試験を受験して勇者ランクがついたら、一般兵士から兵士長になりました」兵士長Sさん
「何回か受験して勇者ランクを上げたら、騎士団長に抜擢されました」騎士団長Mさん
なんてのを見たらそれは受験するだろう。
まあ、5才ぐらいの頃は勇者の物語を聞いて、「僕もスゴイ勇者になりたい!」 とは思ったけど、現実は厳しいしな・・・。
などと昔の思い出に浸っている間も天使長の説明が続いていく。
ヤバイ ヤバイちゃんと聞いておかないと、サヤとルークに怒られる。
「大事な事なのですが、お金は冒険者ギルドの依頼かモンスターが稀に残す『魔晶』を換金してくださいね。ちなみに冒険中は仮想通貨を使用してくださいね。お金の使い方も説明書を読んで理解しないと薬草も買えませんわ。なお皆さんが持っていたお金は、先ほど回収させてもらいました。試験が終了したらお返ししますわ。」
なんだって! あわてて財布を確かめる。
無い・・・ お金だけが無い。
隣のサヤとルークも財布を見て驚いているようだ。
天使のスリスキルは超級らしい。
「もしよかったら、私がお馬さんレースで増やしておきますけど?」
更に驚く一言。
コラコラ! 人の金でギャンブルをするんじゃない!
でも、天使長だったら百発百中で当てそうだ。と思っていると。
「お前さん、46連敗中と言っていたではないか」
国王がつぶやく。
なんと! 天使長はギャンブルに弱いらしい。
それなのに、人の金を使おうとは、意外と天使の性格はよくないのかもしれないな。
天使長はジト目で国王を見ている。
「わしは27連勝中だがな」
更に追い打ちの一言。
国王まで競馬をするのか! しかも強い!
ん? そういえば競馬場は3年前に国王が造らせたらしいから、好きなのかもしれないな。
まさか自分がやりたいから造ったんじゃないだろうな!?
「ハァ 二人に任せておくと心配なので、私が管理しましょう。どのみち試験の終了報告は、私の魔王城なのだから手間も省けるし問題ないでしょう。勇者のみんなは心配せず試験に集中してもらいましょう」
魔王が管理するなら多分大丈夫かな・・・。
それにしても、魔王を信じて天使を疑うのは何か違和感があるな。
「まあいいですわ。これにて説明を終わりますので、皆さんは旅の準備をして出発してくださいね。くれぐれも勇者としての行動を心掛けてください。では、御先に失礼しますわ」
そう言って、天使長は退場して行った。
「わしからも最後に一言、勇気は賞賛を受けるが、無謀は非難を受ける。とっさの判断を間違わないように心に留めておいてくれ。では、わしも下がるとしよう」
国王も退場して行った。
「勇者として成長して、魔王城でまた会おう。ではさらばだ」
一言残して魔王も退場して行った。
そして、俺たちも城を後にする。