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大聖樹の悪童物語  作者: 如月雑賀/麻倉英理也
第5章 天下への架け橋
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その47 突破口を切り開け






 予定の時刻より少し遅れて開始された、スィーズ王国とハオシェンロン軍の会談は、開始早々から異様な雰囲気に満ちていた。

 それもそのはず。

 本来ならばこの場にいる必要の無い人物。居合わせたとしても、ハオシェンロンが協力を要請したのだから、ハオシェンロン陣営と席を同じくしなければならない人物が、何故かスィーズ王国側の代表と席を隣にしていたのだ。


 ハオシェンロン陣営。特に、メインの交渉を任されたイザベルが、射殺さんばかりに眼光をぎらつかせていた。

 会談場所は特別に貸し出して貰った、村の集会場にある会議室。

 古びた印象のある木造の室内には、大きな長テーブルが用意されており、その左右にそれぞれの陣営に分かれて、代表者数人が腰を下ろしている。


 ハオシェンロン側は、大将のハオシェンロン。交渉役を務めるイザベルの二人が腰を下ろし、護衛としてガエンが数人の部下を率いて、ハオシェンロンの背後から相手側の動きを警戒している。


 対するスィーズ王国側は、護衛を含めてたった三人。

 代表者であるノエルと……何故か隣に座るレインツェル。そして護衛として、背後にエリザベスが控えていた。

 実質、スィーズ王国側の人間は、一人しかこの場に存在しない。


「……貴様。どういうつもりだ?」


 挨拶もそこそこに、開口一番イザベルが怒りを押し殺した言葉をレインツェルにぶつける。

 返答に困るよう、レインツェルは指で頬を掻く。


「どういうつもりだ。って言われてもなぁ……ノリ?」

「――馬鹿にしているのか貴様ッ!」


 テーブルを叩きながら、イザベルは勢いよく立ち上がり眦を吊り上げた。

 ガルルと獣のように呻りながら睨み付けるイザベルを制したのは、落ち着きのあるにこやかな笑みを湛えたノエルだった。


「彼に関しましては、私の方から無理を言ってお願いしたのです」

「……ふん。だったら余計だ。これはハオ様の……我々に対する裏切り行為と見なされても言い訳出来ないぞ」


 不機嫌を顔一杯に広げ、イザベルは高圧的な態度を全面に押し出す。

 失敗したところで何の不利益も無いハオシェンロン陣営が、わざわざ会談だからと下手に出る必要性は全く無い。もっとも、イザベルの場合はレインツェルに対しての、個人的な感情が全面に出ている事も否定出来ないが。


 だが、レインツェルに対する不信感は当然だろう。

 イザベルのように口にこそ出さないが、ガエンを含む後ろの護衛達も、怪しむような視線を此方に向けていた。

 心理が読めないのは、無表情を貫くハオシェンロンくらいだ。

 戸惑うようにも、状況を楽しんでいるようにも両方取れる。

 彼女の性質から考えて、後者の可能性が非常に高いのだが。

 脅迫めいた追及にもノエルは動揺一つ浮かべず、むしろ微笑みを色濃くした。


「ご心配には及びません。裏切るのはむしろ……私の方ですから」

「――なッ!?」


 予想外の言葉に、イザベルは立ったまま絶句する。


「な、なななな、何を突然、馬鹿な事を……」

「言葉だけ聞けば馬鹿なこととお思いでしょう……ですので、私は噂に名高い聖女様に仲立ちをお願いした次第。それと……」


 ノエルは視線を廊下に続く扉に向け、テーブルを数回ノックして合図を送る。

 音を切っ掛けに扉を開き、会議場に姿を現したのは、表情に若干の緊張を滲ませる五名ほどの男女。この村の村長を代表とした村人達だ。

 予定に無い人物達の登場に、ハオシェンロン陣営がどよめく。

 村長である白髪頭の男性が、前に出ると両陣営にそれぞれ頭を下げてから口を開く。


「えーっ。この度はノエル様とハオシェンロン様の、和平交渉の立会人に任命され光栄の極みであります」

「――ちょっと待てッ!?」


 村長の言葉を、イザベルが下ろしかけた腰を再び持ち上げて制止した。


「和平交渉とはどういう意味だっ!?」

「文字通りの意味ですよ。スィーズ王国は国を私物化し我が物のように振る舞う逆賊マルコットを誅する為、志を同じくするハオシェンロン様にお力沿いを願い出た……それだけの理由です」

「ぎゃ、逆賊、マルコットぉ!?」


 コイツ正気かといった表情で、イザベルは思い切り顔を顰めた。


「馬鹿な。マルコットはスィーズの国王じゃないか! 逆賊とは主君に逆らうこと。この場合、逆賊と断じられるべきなのは貴様の方では無いのかっ!」


 まさしくその通りの正論を語りながら、イザベルは人差し指をノエルに突き付けた。

 しかし、ノエルはゆっくりと首を左右に振り、正論を真っ向から否定する。


「スィーズ王国は絶対王政。この場合に遵守されるのは、王個人が所有する権力では無く王家全体が所有する権利、つまりは王権です……私は第二王妃の娘であり、義理とはいえマルコット王の娘。他に子がいない王家では現状、僭越ながらこのノエルが、次期後継者となっています」

「……次代のスィーズ王が、現王を糾弾しその座を掠め盗ろうと言うのか。馬鹿げている」


 くだらないと、イザベルは主張を跳ねのけた。


「そんな無理やりな主張、こじつけにしか過ぎない! 大体、血族でも無い人間が次期後継者候補などと……」

「当家は、母が王家と婚姻を結ぶ以前。それこそスィーズ建国当初からの忠臣です。現に王権国家では唯一、自治領を認められています……血縁でないことを補ってあまりある理由が、私にはあると思いますが?」

「……うぐっ」


 予想外の反論に、イザベルは悔しげに口を噤んでしまう。

 自治領と言っても、スィーズ王国の国土から考えれば、ごく一部を切り取っただけの枯れた土地。忠臣に報い厚き信頼を置かれていた、と言うよりは、くれてやっても問題は無いとされていただけなのだが、そんな事情を知らない者からしてみれば、文句を黙らせるくらいの抑止力くらいにはなる。

 よくペラペラと、自分に都合の良いことばかり並び立てられるなぁと、レインツェルは黙ったまま横目を向けた。


 だが、自らの目的を顧みて、イザベルもはいそうですかとは頷けない。

 こほんと咳払いを一つしてから、椅子へと腰を下ろす。

 村長達村人も、立会人というだけで話し合いには参加せず、同じ卓を囲むのでは無く、用意されてあった壁際の椅子に座り、会議の様子を見守る。

 落ち着かせるよう間を置いてから、改めてイザベルは口を開いた。


「話はわかった。だが、我々の目的は王権の打倒による国の解放。貴様の王座交代に協力するつもりは更々ない」


 キッパリとイザベルは言い切る。

 建前上は悪政からの解放を謳っているが、ハオシェンロンの目的は自らの地盤となる国家を手に入れること。マルコット王を倒したところで、次期王座にノエルが座るとなれば本末転倒もいいところだ。

 逆賊討伐が名目ならば、ノエル陣営と手を組むメリットが無い。

 しかし、ノエルはここでも、予想外の言葉を口にしてハオシェンロン陣営を驚愕させる。


「勘違いをなさらないでください」

「勘違い?」

「私の目的はマルコット王を王権から完全に引き摺り下ろすことです」

「だから、その上で貴様が後釜に座ろうと……」

「いいえ」


 首を左右にふってから、ノエルは一瞬だけ躊躇うように言葉を区切った。


「私の目的は王権の打破。それが叶ったあかつきには、スィーズ王国はハオシェンロン様達に委ねましょう」

「――ッ!?」

「――なんだとッ!?」


 イザベルだけでは無い。後ろに控えていたガエン達も絶句する。

 そして流石のハオシェンロンもこれには平静を保ちきれなかったようで、他の者達と比べ驚きこそ小さいモノの、感情の読めない表情を崩し両目を大きく見開いていた。

 直ぐにハオシェンロンは壁際の村人達に視線を巡らせるが、彼らに驚いた素振りは見られない。


「……なるほど。そういうわけか」

「――馬鹿にしているのか貴様ッ!」


 ハオシェンロンの呟きは、激昂するイザベルの声に掻き消された。

 再びテーブルに激しく両手を叩きつけ、椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がったイザベルは、真っ直ぐと正面のノエルを睨み付ける。

 視線には明らかな不信感が滲み出ていた。

 タダより怖いモノは無い。軍師であるイザベルが、もっとも注意を払わねばならぬ言動を、あっさりとノエルは踏み越えてきたのだから。


 だが、ノエルは一切動じない。

 それどころか、何を怒っているのか理解出来ないかのよう、眉を八の字にして困り顔で首を横に傾けていた。


「はて。私にはイザベル様が何を怒っていらっしゃるのか、とんと見当がつきません」

「白々しい言葉を……協力はするが報酬はいらないだなんて都合の良い話、信じるはずが無いだろう」

「ああ、なるほど」

「ハッキリと本音を言って貰おうか。貴様の目的な一体なんだ」

「王権の打破、ですよ。その上で国をハオシェンロン様に譲渡する……勿論、良き方向に国を運んでくれるという、条件付きではありますが」

「それが白々しいと言うのだ。何の特も得ず、善意だけで動くと言うのか?」

「はい」

「あり得ない」

「……おやおや。それは異なことをおっしゃる」


 そう言ってノエルは、横に座るレインツェルの方に視線をやる。


「ハオシェンロン様は各地で聖女様と共に、救世を語っていらっしゃるとか。まさかそれは、単なる建前だとでも?」

「そ、それは……ッ!?」


 口を開きかけて、イザベルは壁際の村人達を一巡する。

 声を荒げるイザベルに驚いているのか、ハラハラといった様相で会談を見守っていた。

 気が付けば、横に座るハオシェンロンも、何やら意味深な視線でイザベルのことを見上げている。


「イザベル。我を思うその心遣いは嬉しいが、そもそもにして我らが何故立ったのか……その大義を、忘れてはならんぞ?」

「こ、心得ていますハオ様」


 チクリと釘を刺され、イザベルは言葉を飲み込んだ。

 ハオシェンロン達がスィーズ王国国内で、戦闘行為に巻き込まれずに進軍して来られる理由の一つには、聖女と共に酒池肉林を貪るマルコット王を誅するという、大義名分が存在するから。

 反王室派や地方貴族達は、正義感だけでは無く、それぞれの利益や損得を考えているのだろうが、世論を司る民衆の思考は純粋に悪政から逃れ、厳しい生活から脱却したいという願いを持っている、


(仮にこの場であの女の言葉を否定すれば、二心ありと見なされ民衆の心が離れていってしまう……そうなれば有力貴族達との関係も途切れ、我らは敵地のど真ん中で孤立。くそっ、村人達を同席させたのはその為か……おのれ小癪なッ!)


 ぐぬぬと向けられた悔しげな視線に、イザベルの思考を読み取ったのか、ノエルは穏やかに微笑み返した。

 聖女伝説を利用してきたことが、仇になったと言えるだろう。

 してやられる形となったイザベルは、反論も出来ず歯噛みを繰り返しているが、対照的に今まで無表情を貫き通して来たハオシェンロンが、唇の端を吊り上げて興味深そうに自分の顎を指で撫でた。

 レインツェルとノエル。交互に視線を送り呟く。


「なるほど、そんな手を講じてきたか……ふふっ、面白い」

「それでは実際の交渉に移らせて頂きたいのですが、如何でしょうか?」


 特に反論が出ないのを見計らい、ノエルはそう切り出す。


「……ううっ」


 この状況下では否定することも出来ず、イザベルは泣きそうな表情で横に座るハオシェンロンに助けを求めるよう顔を向けた。

 ハオシェンロンは鼻から大きく息を抜いた後、何も言わず肩を竦めて見せる。


「ひぐぅ……うぐぐ」


 負けを認めろと言いたげな仕草に、イザベルは情けない顔で身体を震わせた。

 プライドの高いイザベル。舐めてかかっていたとはいえ、こうもアッサリとしてやられた事を認めたくないのか、瞳に涙を溜めて歯をギリギリと鳴らしながら、正面のノエルを睨み付ける。

 が、幾ら睨み付けようと、認めたくなかろうと、状況は変わりはしない。


「如何でしょうか?」


 念を押す言葉に、イザベルは「うぐぅ~」と小動物のような鳴き声を漏らした後、悔しげな言葉を絞り出した。


「わ、わかりました」


 事実上の敗北宣言に、ノエルはこっそりと胸を撫で下ろす。

 横に黙って座っているだけだったレインツェルも、何事かがあれば彼一人だけでも抱きかかえて逃げるつもりだったエリザベスも、散々頭を悩ませていた状況を、アッサリと覆した彼女の手腕に、ただただ驚くだけだった。




 ★☆★☆★☆




 数時間後。

 交渉を終えて提供して貰った集会場から、一足先に表へと出たレインツェル達三人。

 入り口を守る守衛に挨拶を交わし、外の通りに出た瞬間、気が抜けたのかノエルはへなへなと膝から崩れ落ちた。

 慌てて、横のレインツェルが腕を掴み支える。


「おっと、危ない……大丈夫か?」

「は、はい。ごめんなさい。今になって緊張感が足にきたのか、上手く力が入らなくって」


 若干青ざめた表情で、ノエルはそう照れ笑いを浮かべた。

 会議場での毅然とした、何処か腹黒い姿とはまるで正反対だ。


「大した役者ですね。あのハオシェンロンとイザベルを相手に、ああも堂々と芝居を打てるなんて……最初はどうなることかと思いましたが、今はレインツェル様が貴女を連れてきた事に納得しました」


 そう言って苦笑しながらも、エリザベスが反対方向からノエルの身体を支える。

 状況打開の隠し玉としてノエルを連れてきた時、真っ先に強く反対したのはエリザベスだった。

 敬愛してやまないレインツェルが、何処の馬の骨ともわからない人物。しかも、聞けばスィーズ王国の第二王妃の娘だと聞けば、先日痛い目にあったエリザベスでなくとも、難色を示して当然だろう。

 だが、何時もの如くレインツェルは。


「大丈夫だ」


 の一言でゴリ押し。

 口でエリザベスが説得しきれる筈も無く、時間も無いこともあって、言われるがまま最低限の下準備をしてから、三人揃って交渉の場についた。

 後の事はご覧の通りだ。

 ようやく足に力が戻ったノエルは、支えてくれた二人に礼を述べながら、自分の足で歩き始めた。


「さて……何とか第一関門突破、と言ったところかしら」

「ああ。これで利用されるだけの状況から、対等な場所まで立場を引き上げることが出来た……後は、マルコットをぶっ倒すだけだ」

「だね」


 力強く拳を握るレインツェルに、ノエルは頼もしそうな視線を送った。


「しかしながら、問題はまだ山積みです。本当に我々だけで、マルコット王を討ち取ることが可能なのでしょうか?」

「難しいけれど……もう賽は投げられてしまったの。やれなければならないわ」

「……むぅ。確かに」


 決意の籠った瞳に、エリザベスも押し黙る。

 交渉で纏め上げ、ハオシェンロン側に納得させたことは一つ。

 マルコット王の暗殺計画だ。


「王が私を交渉に向かわせた理由は、兵を集める為の時間稼ぎ。多くの地方貴族が反王族派に流れ、世論がハオシェンロン陣営を後押ししているとはいえ、城に籠った大軍を相手にするとなれば、戦力の消耗は避けられない。西の帝国側も不穏な動きをしている以上、可能な限り疲弊は避けたいはず」

「そこで考えたのが、暗殺計画か」

「そう」


 ノエルは頷く。


「マルコットは王権を自由に振るう為、周囲を自分の派閥で固めている。自然と、首都で政務や軍事を取り仕切るのは、王族派の貴族達となるわ」

「反王族派の外側と違い、調略のみでは突き崩せないというわけですか」


 面倒ですねと、エリザベスが眉を潜めた。


「王族派は王権が崩れれば共倒れだから、何としてもマルコット王を守りたいはず。その為にハオシェンロンは内側から切り崩す為に、世論や民衆を引き入れようとしたのだけれど……やはり王権の支配が強い首都では、思いの他効果は出なかったのでしょう」


 ですが、とノエルは決意を確かにするよう、言葉を一端区切る。


「疎まれてはいるモノの、マルコット王個人と繋がりのある私ならば、現状でも王宮内に忍び込める……問題だったのは、ハオシェンロン陣営が私を信じて受け入れてくれるかどうか。話すら聞いて貰えない可能性もあったのだけれど……」

「俺……と言うか、聖女様の宣伝効果のおかげで、世論が敬虔な女神信者であるノエルの味方にもなった」

「ありがたいことにね」


 これは何も、ハオシェンロンが喧伝した聖女伝説が全ての後押しになったわけでは無い。

 腐敗する王家の、最後の良心と言われた第二婦人のマーサと、その娘であり女神信仰者であるノエルの存在が、王家に批判的でありながらも、境遇や立場に同情が集まり強い村人達の後押しを生んだのだ。

 同情の一つも引ければ儲けモノと思っていたが、これにはレインツェルも予想外だった。


「……でも」


 不意に、ノエルの表情に影が差す。


「本当に、よかったの? 啖呵を切ってはみたモノの、勝算は決して高いモノでは無いわ。下手を打てば、ハオシェンロンは容赦なく私達を切り捨てるはず」

「だろうな」


 頷くレインツェルに同意するよう、エリザベスも神妙な表情をする。


「だが、良くも悪くもハオシェンロンはしたたかだが、反面で用心深い。風向きが俺達に流れている以上、不確定なリスクを踏むようなマネはしないはずだ」

「そこら辺は、聖女伝説の浸透率を信じるしか無いか」

「ま、それに関して言えば、ウチの聖女マニアが嬉々として広めてくれてるから、大丈夫じゃないの」


 限られた時間の中で、出来る事を全て行う為に、交渉前から先を見据えて既に行動を開始している。

 用意された数少ない資金は全て、首都バルデラから護衛の名目でついてきた、数十人の兵隊達にばら撒いてある。口封じという役割もあるが、極秘の暗殺と言っても人手はある程度確保して起きたいからだ。

 万が一の事態を想定して、ノエルは事前に現王家に対して不満を持つ者達を選別してあるので、懐柔は思いの外上手く事が運んだ。


 もしも、離反者が出るようなら、見張りをしているカタリナが何とかしてくれるだろう。

 可能な限りの手は打った。後はマルコット王とハオシェンロンを出し抜き、守るべきモノを守るのみ。

 決意を新たにするノエルは、ふと此方を見つめるエリザベスの視線に気が付いた。


「あの……なにか?」

「……いえ」


 不安げなノエルにフッとエリザベスは笑みを零す。


「最初は自信なさげな雰囲気だったのに、交渉の場では随分と大胆だったなと」

「……たはは。面目ない。でも、エリザベスさんはその、いいんですか?」

「私は貴女の全てを信じたわけではありません」

「うぐっ」


 ストレートに言われ、ノエルは気弱そうに肩を落とす。


「けれど、守るべきモノに必死となる貴女の心意気は感じました……今は、レインツェル様の判断を信じましょう」

「エリザベスさん……」


 ノエルと協力することに、一番難色を示したのはエリザベスだ。

 確固たる信頼関係も築けぬまま、時間だけに急かされ行動する現状に、誰しもが一抹の不安感を抱いていたが、真摯に人と向き合うエリザベスの言葉だからこそ、僅かでも認めて貰えたことにノエルは安堵を感じていた。

 これなら、何とかなるかもしれない。

 横で聞いていたレインツェルが、希望を込めて大きく拳を振り上げた。


「よし! ここからが俺達の反撃だ。気合入れていくぞ!」


 威勢の良いレインツェルの言葉に、二人は応えるよう大きく「はい!」と頷いた。





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