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大聖樹の悪童物語  作者: 如月雑賀/麻倉英理也
第2章 最初の旅路
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その9 美少女は小悪党






 自分の身代わりとなり、悪漢達の手へと落ちたドロッセルを救う為、古代の森を旅立ってから早三日。などと説明すると、何やら随分と切羽詰った、先を急ぐ旅路のように聞こえるのだが、思いの外のんびりと、レインツェルは能天気に街道を進んでいた。


「あ~。今日も空が青いなぁ」


 干し草の上に寝転びながら、心地よい揺れの中、ゆっくりと流れる雲と青空を眺める。

 日差しはポカポカと暖かく、眠気を誘う。

 遊佐玲二だった頃の感覚、日本の季節的には春も半ばとでも言おうか。ゴールデンウィークも終わり、陽光も熱を帯び始めてきて、ゆっくりとだが夏の足音が聞こえてきたかな? と言った感じの気候具合だ。


 レインツェルが寝っ転がっているのは、大量の干し草を詰め込んだ荷馬車の上。それを太り気味のロバが舌を突き出しながら賢明に引っ張り、腰の曲がった老人が前に座り慣れた手つきで、手綱を操っていた。

 攫われた知人を助けに行くという体にしては、随分とゆっくり過ぎるように思えるが、現状を顧みるとこれも致し方が無いだろう。


 何せ助けるにしても、時間が空いてしまったぶん、手がかりは殆ど無い上に、土地勘も皆無。行き当たりばったりで行動したところで、見つかるどころか自身の安全すら確保出来ないだろう。

 勿論、闇雲に探し回るつもりは無い。何事にもやりようは、幾らでもあるのだから。


「しかし、珍しいのう。こんなところにエルフの、しかも坊ちゃんが歩いとるとはの。爺さん、七十年もここらで暮らしとるが、こんなことは初めてじゃ」

「まぁ、俺も外に出るのは初めてだしな……しかし、悪いな爺ちゃん。乗せてって貰って」

「なぁに。気にすることは無いぞい」


 ほっほっほと、爺さんは人の良さそうな笑い声を漏らす。

 この街道を歩いている途中、レインツェルは小さな村に辿り着いた。

 そこで道を尋ねる為、畑仕事をしていたこの爺さんに声を懸けたのだが、村を訪ねてくるエルフが余程珍しかったのだろう。大層歓迎された上、食事まで頂き、こうしてロバの荷馬車に乗っけて貰い、目的地まで送ってくれている。

 異世界でも人の好さというモノは、変わらないらしい。


「目的地は、ここらで一番大きな宿場町で良かったのかい?」

「ああ、頼む」


 寝っ転がったまま、レインツェルは頷く。

 ディクテーターの連中が何処に向かったのかは、周辺の地理に疎いレインツェルにはわからないが、大まかに予測することは可能だろう。何故なら、彼らの言葉を思い出せば、幾つかヒントが転がっているからだ。


「爺さん。ここ二日三日の間に、大勢の団体……そうだな。百人前後が街道を、進行方向に進んだりしてないか?」

「ああ、あったのう……昨日の朝方、村の前を通って行ったぞい」


 老人は特に考え込むことなく、すんなりと答えた。

 やっぱりかと、レインツェルの予感は確信に変わる。

 クラフトは森の外に百名の部下がいると言っていた。

 だとすると、それだけの大人数。移動するだけでも大変だろうし、目立つなという方が無理というモノ。現にこうしてあっさり目撃証言を得られたことから、足取りを掴むことは簡単だった。


 この街道の先には、中継点である宿場町があるらしい。

 人の出入りが多い場所なら尚更、情報が手に入りやすいだろう。

 補給やらなんらやで足取りが更に鈍っていれば、意外に早く追いつけるかもしれない。


「……とは言え、追いついた後が問題なんだけどなぁ」


 相手は百人規模の上、ジョセフと言う腕利きまで存在する。

 決闘の時は穏便に済ませたいという意向から、手を抜いてくれてたようだが、本格的に邪魔立てするとなれば、今度は本気でかかってくるかもしれない。


 頭の痛い悩みではあるが、今はディクテーターに追いつくのが先決だ。

 そう考えると急に気が焦ってしまい、レインツェルは干し草の上から起き上がって、のんびりとロバを歩かせる爺さんの方を向いた。


「なぁ、爺さん。後どれくらいかかるんだ?」

「ん~? 一時間ってとこじゃないでか。まぁ、そんな慌てんでも、日が暮れる前にはつくさね。婆さんが作った弁当でも食って、気長に待っとれ」


 爺さんはそう言って、横に置いてあった包みを後ろに放り投げる。

 それをよっと受け取ったレインツェルが開くと、中にはハムとチーズを挟んだパンが入っていた。

 今朝焼いたばかりなのか、ほんのりと香ばしい香りが鼻孔を擽る。


「こ、これ、食っていいのか?」


 ゴクリと、生唾を飲み込む。

 溢れ出る食欲の前に、気の焦りなど吹き飛んでしまった。

 腹が減っては戦は出来ぬ。自分の身代わりとなって掴まっている、ドロッセルには申し訳ないが、ここは確りと食べて英気を養おうと、心の中で一つ言い訳をしてから、レインツェルは手を合わせ、箱に詰められているパンに手を伸ばした。


「ほっほっほ。婆さんが、お前さんの為に用意したんじゃ。構わんよ……時に、坊ちゃん。これから行く宿場町は、初めてかの?」

「はぐはぐはぐ……ゴクッ。おう。初めてだぜ」

「んじゃ、気をつけんといかんな……実はな……」


 神妙な顔をして語り出す爺さんの言葉を聞きながら、レインツェルは焼き立てパンの美味さに、「旅に出て良かった!」と小さな感動を味わっていた。




 ★☆★☆★☆




 すれ違えば、振り返ってしまうほどの美少女。

 このカタリナと言う名の少女は、まさしくその類の人種だった。

 街道の中継点である宿場町だけあって、通りを行き交う人は多い。その中の半数以上、性別で言えば男性全てが、壁に背を預け物憂げな表情のカタリナを、だらしのない顔つきで鑑賞していた。


 若い妙齢の青年だけで無く、妻子もあるだろう中年男性や、思春期もまだのようないたいけな少年。果ては杖を突いて歩いている老人まで、道行く男性諸君は一様に、見目麗しいカタリナの姿に、文字通り目を奪われていた。


 ボーイッシュなショートカットに、お腹が丸出しのシャツと、お尻に食い込むほどのホットパンツ。

 露出度の高い服装はスレンダーな体格に似合っていて、男子のスケベ心を直撃する。

 十代のまだ幼さが残る容姿故に、色香と呼べる程大袈裟なモノでは無いが、少女の持って生まれた天性の可憐さは、異性を虜にするには十分の魅力を持っていた。


 一方で男子の目を引けば引く程、女性陣の機嫌が損なわれる。

 一人身の男はまだ良いが、恋人や伴侶を連れた男共もカタリナの姿に厭らしく目尻を下げてしまい、咎められて臍を曲げる相方に、必死で頭を下げて言い訳する様子が、各方面で見られた。


 まぁ、何にせよ、カタリナという少女はそれほど、魅力的だということだ。

 しかし、魅力的であるということは、場合によっては悪目立ちになってしまうこともある。道の真ん中でこんな扇情的な恰好をしていれば、よからぬ輩が勘違いをし、すり寄ってくることもあるだろう。

 例えば、こんな風に。


「よう、お嬢ちゃん。一人なのかい?」

「……ん?」


 不意に声を懸けられ、カタリナは気怠げに視線を向けた。

 声を懸けてきたのは、三十前後の男性。旅装束を身に着けていることから、行商人か何かだろう。

 頬が赤いことから、昼間っから優雅に酒を飲んで酔っ払っているらしい。


「……なに?」


 面倒臭そうな人間に絡まれたと、カタリナは苛立つような声を出す。

 しかし男は酔っている所為か、カタリナの苛立ちに気づく様子も無く、へっへっへと厭らしい視線で、ジロジロと不躾な視線を向けてきた。


「なぁ、お嬢ちゃんは、幾らなんだ?」

「はぁ?」

「そんな恰好で昼間っから、まだそんなうら若い年齢なのにいけない娘だ」


 何を勘違いしているのか、男はにやけ顔でカタリナにすり寄る。


「でも、おじさんも若い頃は色々と苦労したんだ。だから、お嬢ちゃんの気持ちもわかる」

「……アンタ、あたしを売春婦か何かと、勘違いしてる?」

「違うのかい? まぁ、違っても別にいいさ。そんな恰好で突っ立ってるんだ。男好きの欲求不満なんだろ? どうだい、おじさんとこれから……うぐっ!?」


 言い終わる前に、男の顎にグッと、硬い物が押し付けられる。

 押し付けられているのは、片手剣の柄。カタリナが腰に身に着けていた物だ。


「な、何をするんだッ! おっ、俺はこれでも……ひっ!」

「アンタ、ちょっとベラベラ煩すぎ。うざいっての」


 カタリナは男を一睨みして黙らせてから、押し付けた剣を離して、柄の部分の金細工をよく見えるように突きつけた。

 柄の後ろ部分に刻まれた紋章を目にした途端、男の顔色がサッと青ざめる。


「き、金細工の虎紋章ッ!? ま、まさか……」

「そう、そのまさか。自分の間抜けさに気が付いたんなら、命があることに感謝して、さっさと視界から消え失せろ」


 低い声色で脅しつけると、男はピンと背筋を伸ばす。


「しっ、失礼しましたぁ!?」


 すっかり酔いが吹き飛んだ様子で、そう叫ぶと一目散に逃げて行ったしまった。

 カタリナは情けない背中を不機嫌そうに見送り、手に持った剣を腰に繋げ直した。

 そして、小さく息を吐く。


「あ~、くそっ。面倒臭かったからって、これを見せびらかしちまうなんて、失敗だったかなぁ」


 ぼやき、額を掻く。

 金の虎紋章は、カタリナの家の、正確には一族を表す紋章だ。

 あまり実家と折り合いが良くないカタリナなのだが、邪険にしておきながら、こういう場合はその紋章をチラつかせてしまう。

 自分の器の小ささに、苛々の胸の内がささくれ立つ。


「チッ。あ~あ、かったるいわ」


 そう言って壁から背を離すと、カタリナは通りを歩き始めた。

 別に何か目的があるわけじゃない。父親と喧嘩して、家を飛び出して以来、数日間ずっとふらふら、この辺りを旅して回っていた。

 旅の知識や技術は、小さい頃から仕込まれていたので問題無い。腕もゴロツキ数人相手なら、十分にあしらえる剣技は嗜んでいる。だが、気ままな家出旅を続けていると、懐具合が寂しくなってしまうのは仕方が無いだろう。


 労働などという汗臭い真似は御免だ。

 かと言って、先ほどの男が言っていたように、身体を売る気もサラサラ無い。

 では、どうするかと言うと……。


「久しぶりだから、いけるかしら?」


 小さく呟き、横に垂らす右手の指先を、器用にぐにゃぐにゃと動かす。


「感度良好。にぶちん相手なら、十分通用するか」


 首を左右に倒し、凝りでも解すように回しながら、さり気なく周囲に視線を這わす。

 鋭い目線。気づかれないよう、眼光に狩人の如き鋭さを宿す。

 値踏みするように行き交う人々を、順々に観察していく。


 中心部へ進むにつれ、人の往来は多くなる。次第にカタリナ一人に目を奪われるような状況が減り、こっそりと息を殺し、気配を潜めていた故に、気が付けばカタリナの姿は群衆に飲み込まれていた。

 先ほどまでとは打って変わって、誰もカタリナを注視してはいない。


「さぁさぁ。不幸な獲物ちゃんは、誰かなぁ?」


 きひっと、カタリナは笑みを零す。

 踏み込む足音を消し、歩くリズムも群衆と共鳴させる。そうすることで、カタリナの姿は同調するよう周囲に溶け込み、風景の一つとして同化する。

 その中で視線だけが、鋭く人々を値踏みしていた。

 一人一人、確実に素早く値踏みを繰り返し、より良いターゲットを選別する。


「駄目、駄目。あれも、駄目……アレは……」


 少し先の道に視線を飛ばすと、キョロキョロと通りのあちこちを見回し、見るからに注意力の散漫な少年の姿があった。

 旅装束だが、身なりは新しい。


「それに、パッと見じゃ気づき難いけど、あれはそうとういい材料を使ってるわ」


 これは、当たりだろう。

 ニヤッと頬を綻ばせ、カタリナはゆっくりと流れを変えず、歩く方向を軌道修正していく。

 目標は、おのぼりさん丸出しの、少年エルフだ。


「悪いわね、少年エルフ君。これも社会勉強だと割り切ってちょうだいな」


 身勝手な言葉で小さく謝ってから、カタリナは少年エルフの対角線上を歩く。

 落ち着き無く視線を彷徨わせている為、行き交う人々はわざわざ少年を迂回し、迷惑そうな視線を向けている。


 その所為もあってか、正面から歩いてくるカタリナに気づく様子も無い。

 カタリナは何食わぬ顔で、ペロッと上唇を舐め上げてから、右手の指先をわしゃっと動かした。

 次の瞬間、少年エルフとカタリナは、正面からぶつかってしまう。


「――うおっと!?」

「あら、失礼」


 直前で速度を緩めていた為、少年エルフは驚き、僅かに後退するだけで済んだ。

 笑顔で軽く謝罪してから、何事も無かったかのよう、カタリナはまだ驚いている少年エルフの横を通り過ぎようとした。

 作戦成功。

 そうほくそ笑みかけた瞬間、カタリナの右手首を掴まれた。


「悪いけどそれ、返してくんない?」

「――ッ!?」


 予想外の一言に心臓が凍りつき、慌てて振り向くと、手首を掴んだ少年エルフは、ジト目を此方に向けていた。




 ★☆★☆★☆




 手首を掴みレインツェルが放った一言に、振り返った少女は大きく目を見開いた。

 数秒の沈黙の後、少女はチッと舌打ちを鳴らすと、強引に掴まれた手首を振り解いて、此方に小さな袋を投げてよこした。

 レインツェルは右手でそれを受け取る。

 小さな巾着袋。リリーシャから貰った路銀が、この中には入っていた。

 ぶつかった瞬間に、目の前の少女にスられたのだ。


「ああ、くそっ。今日は日が悪いッ……まさか、こんな坊やに見咎められるなんて」


 両腕を組み不機嫌そうな口調で、運が悪かったと己の不幸を嘆く。

 その姿は全く、犯罪を犯してしまったという罪の意識が無い。

 中々にイラッとくる態度だが、レインツェルにはもっと驚くことがあった。


「すげぇ。適当に言った、本当にスリだったよ」

「――はぁ!?」


 また少女の瞳が、驚きに見開かれた。


「ちょ、ちょっとアンタ! まさか、適当にあたしのことスリ扱いしたわけッ!? 失礼にも程があるんじゃないこのガキ!」

「いや、実際スリだったじゃねぇか」


 ジト目でそう言うと、少女はうっと言葉を詰まらせた。


「それに、適当に言ったわけじゃないよ。それなりに根拠があって、アンタの腕を掴んだ」

「嘘付け。悪いけど、あたしはその手の技術には自信があるの。気配もちゃんと消してたし、バレる要素なんか無かったはずだ」


 自信満々に、少女はその薄っぺらな胸を突きだす。

 犯罪行為を堂々と、しかも被害にあった自分に語られても困るのだがと、レインツェルは頭を掻いた。


「だってお前、ぶつかってきたろ?」

「そりゃ、ね。接触したタイミングでスッたわけだし」

「人通りが多いったって、正面衝突するほど視界が悪いわけでも、道が塞がってるわけでも無いだろう」

「偶然、あたしも前方不注意だった可能性もあるじゃん」


 余程、スリの技術に自信があるらしく、少女は納得できない様子で唇を尖らせた。


「それは無い。と、俺は判断したから、アンタの手を掴んだんだ」

「……何でだよ?」


 疑わしげな視線を向ける少女に、レインツェルは人差し指を突き付けた。


「お前、ぶつかる直前に歩く速度を緩めたろ? それも、ぶつかっても倒れないくらいに絶妙な力加減で……それでいて、驚いた様子を見せないってことは、故意にぶつかってきた可能性があると踏んだ。んで、何をする為にぶつかったかを考えると……」

「金目の物をスる為」

「お~、かしこいかしこい」


 パチパチと手を叩く姿に、小馬鹿にされたと思ったのか、少女は怒りを堪えるように噛み合わせた歯をギリギリ鳴らした。

 まぁ、一番の勝因は町に入る直前、送ってくれた老人に、人通りの多い場所はスリが多いから、気をつけろと忠告を受けていたから。実は町の入口でも同じようなことをして、普通にぶつかっただけの人を、スリ扱いし平謝りしていたりする。


 何にせよ、悪事を未然に防ぐということは、何と心地よいのだろうか。

 が、少女はすぐに大きく息を吐いてから、脱力するよう肩を落とす。


「はいはい、正解。凄いねエルフの少年。んじゃ、真実が明らかになったところで、あたしゃ、この辺で」

「まぁまぁ待ちたまえよスリ少女。ちょっぴり、お兄さんとお話しようや」


 何食わぬ顔で立ち去ろうとする少女の肩を、逃がすモノかと温和な声色でレインツェルが掴む。

 露骨に舌打ちを鳴らしてから少女が振り返ると、不敵な笑みを覗かせる。


「ま、お話もいいんだけどさ……これ」


 スッと、少女は腰の剣を持ち上げ、レインツェルの方に柄を向けた。

 ふふんと鼻を鳴らす姿に、レインツェルは眉を顰める。


「なんだ、くれるのか? いらんぞ」

「やらねぇよ! じゃなくて、柄、柄の方を見ろっての!」


 怒鳴りながら少女は、手に持った剣の柄の部分を指差す。

 レインツェルは目を細め訝しげな表情で凝視するが、少女が何を言いたいのかさっぱり理解出来ず、代わりに視線をちょっと下へ向けた。


「……てぇい」

「――ひゃうわっ!?」


 何となく露わになっていたヘソに、人差し指を突っ込むと、少女は珍妙な声を上げて後ろに飛び退く。

 ヘソを手で隠しながら、少女は真っ赤になった顔で此方を睨み付ける。


「ななななな、何をとんでもないことしやがるんだこのガキゃ!?」

「お前がわけのわからんことばっか言うからだろうが」


 ジト目を向け、レインツェルはヘソを突っついた指を、ズボンで拭う。


「わけのわからんって……まぁ、エルフみたいだし、黄金の虎紋章を知らなくても、不思議じゃないのか」


 何やら納得した様子で、少女は髪の毛を掻き毟る。


「まぁ、んなわけで。か弱い俺に対して犯罪行為を働いたんだ。相応の報いを受けて貰おうか」

「む、報いって……憲兵にでも引き渡すつもり? わ、悪いけど、それなら抵抗させて貰うわよ!」


 随分と過剰な反応を見せ、此方に向ける視線が険しくなる。

 何か捕まりたくない事情があるように思えるが、スリを行った人間とは思えないほどの態度に、レインツェルは思わず苦笑いを零してしまう。


「その憲兵って奴に突き出してもいいんだが……迷惑かけられたぶんは、身体で返して貰おうか」

「……はぁ?」


 意味深なひと言に、少女は思い切り顔を顰めた。






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