帰宅路、後悔
ふと窓から外の景色を見てみると、もう空は赤く焼けていた。所謂、夕焼けという状態であり、次に時計に視線を移すと時刻は17時30分を示していた。
「じゃあ、今日はここまでにしようか。来週の発表に間に合うと思うから月曜日にもう一度集合ってことで。先生もありがとうございました」
「うん、実に良いチュートリアルだった。発表、頑張ってくれ」
小林の解散宣言と共に教師やメンバー達はカンファレンス室から出ていく。帰宅しようと廊下を歩いているとふと伊藤を思い出して、近くを歩いている彼女に話しかける。
「伊藤さん、JRですよね?」
「あ、はい。そうですけど。なんで知ってるんですか?」
「僕もJRなんで。先週たまたま見かけたんですよ」
「そうだったんですかぁ。じゃあ、一緒に帰りしょうか」
櫻井は自分から一緒に帰ろうという言葉を言い出そうとしたものの、まさか相手から言い出してくれるとは思わず、内心嬉しく思う。小林に軽く挨拶してから二人で三ノ宮駅まで歩いて向かう。その道中、櫻井は伊藤に話しかけているばかりであった。
「伊藤さんってずっと地元で暮らしてるんですか?」
「はい、生まれてからずっと大阪ですよ。櫻井君は?」
「僕は生まれは滋賀県なんですよ。小学校の時に京都に来て、それからはずっと京都で暮らしています」
お互いに自分の生まれ育ったところの話をしている、初めて会話をするなら大体こんなものであった。それでも櫻井は彼女と会話することがどこか嬉しく思えた。興味があるのに何も知らないでいた、たまたま同じ第40グループでなければ話し合うことすらなかった。櫻井自身、こんなにも嬉しい偶然があったことがたまらなかったのだ。
電車に乗り、櫻井と伊藤の二人は二人掛けの座席に座る。電車の中で女性と二人で隣同士に座るのは櫻井にとっては滅多にないことであった。少々、緊張をしているものの再び会話をする。
「やっぱり将来は看護師になるんですか?」
「まあ、そのつもりですね。せっかく看護大に入ったんだから。櫻井君は?」
「僕もやっぱり薬剤師になる、のかなぁ…」
「じゃあ、お互いなんとなく大学に入ったって感じですね」
将来、自分が何になるかという話の最中、お互いに特に明確な理由もなく、ただ大学に入学して、ただ勉強しているのかと伊藤は感じていたのかもしれない。もっとも、自分がそのつもりで言ったことも自覚をしていた。
それからも様々な会話をしながらも、ふと思い出してみた。櫻井が高校生時代のこと。高校三年生の夏休みが終わり後期が始まった時、クラスの皆は進路を決めつつあるという状況に対して櫻井は全く進路が決まっていなかった。担任との面談でも何か夢はないのかと聞かれてもほぼ興味を示すものもなく堕落した高校生活を送っていた。そう、櫻井には夢がないという決定打があった。
「薬剤師か…」
高校時代のようにぽつりと呟く。高校時代、何故薬剤師を目指したか。それは、医療系の学部に進めば就活をしなくて済むという理由からであった。医学部を始めとし、医療系の学部はまず資格が取得できる。無論、それは国家試験に無事に受かればの話ではあるが、それさえあれば他者より優位な位置に立てる。だから、薬剤師を目指したのであり、現に今こうして薬学部の大学に通っている。周りの皆は真剣に目指しての結果であろうが、櫻井にはお世辞にもそうとは言えなかった。
少し難しい顔をしている中、ふいに伊藤が口を開いて言葉を発する。
「櫻井君、私この駅なんです。チュートリアルの時にまた会いましょう」
電車が大阪駅のホームに到着してから伊藤は軽く手を振りながら電車を降りていく。櫻井も軽く手を振りながらももっと楽しい話がしたかったなと後悔する。何故、この学部に入ったのかを問いかけたり、話題に出したりするのはナンセンスなのだろうかと少々反省する。
「やっぱり自分に夢は持つべきなのかな」
電車が再び発射してからも肘をつきながら窓にもたれ掛りながら自分が勉強してこなかったこと。真剣に将来と向き合わなかったことを後悔する。ただ、それは後の祭りであり、いつもそう感じる櫻井であるが大抵数日すればいつもの櫻井に戻ってしまうのであった。
どうも、櫻井です。時間が空いてしまって申し訳ございませんでした。
今回は少々セリフが多めになっています。
様々な本を読みながら研究しているんですがどうも上手くいかないものですね。
内容として、櫻井と伊藤が一緒に帰るところです。
その中で櫻井は伊藤に図星を突かれてしまい自分の不真面目さを思い知ることになってしまいます。
その時になってどうしても自覚したりするのですが、どうもそれは長続きしない、一日経てばケロッと忘れている。よくあることだと私は思います。
現に私もそうですからね。
次回からは櫻井のダメダメっぽさがまたアピールされるかもですが是非ともよろしくお願いします。