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櫻井

「僕は落ちこぼれの大学生だけどさ」


 2010年春、大学生になったばかりの18歳の少年、櫻井は笑顔で大学生活を送っていた。小学生の頃からゲームが大好きな櫻井にとって勉強とはこの上なく苦痛なものでしかなく、まともに勉強なんてした試しもない。父はたいして何も注意しないものの母は日頃から勉強をしない櫻井を怒鳴りつけてばかり。そんな櫻井にとって奇跡としか言いようがないのは数学だけが唯一得意であったこと。他の教科は平均点を下回ることが多いものの、数学に関してはいつも学年トップをキープ。高校の担任もそのことだけについては評価していた。その能力を武器にして三流大学ではあるものの薬学部にめでたく入学し、晴れて大学生になった。実家は京都にあり、そこから他県である兵庫県まで通っている。本来なら大学の近くにあるマンションでも借りようと考えていた櫻井ではあるが、ただでさえ授業料の高い大学に通っているのだからと実家から通うことを余儀なくされた。当然と言えば当然のことであろう。


 入学から2か月、大学生活にも徐々に慣れていき、友人もたくさんできた。様々な人柄溢れる大学という場所は櫻井にとっては新世界そのものであり、今日もその新世界に向けて京都駅からJRに乗るのであった。電車に乗るのは約一時間、その長い時間を携帯電話で暇を潰していたりした。櫻井がハマっているのはソーシャルネットワークサービス。様々な世代の間で流行っており、大学の友人達も利用しているということから始めたのだ。今、友人が何をしているかとかつぶやいたりしているのを見てコメントしたり、逆に自分が何をしているかをつぶやいたりなど、それが櫻井のJRの中での日常だ。しかし、その日に限りとある人物が目についた。途中の大阪駅で乗車してきたのか、扉の付近で手摺を持ち立っているピンク色のリュックサックを背負う小柄な女性、茶に染められたセミロングの髪は手入れができていないのか生え際の部分は少々黒い。


「髪の毛染め直してないんだ…」


櫻井が思っている女性というのは常にファッションには気を配るものではないかとのこと。無論、実際の女性すべてがそういうわけではない。新しい環境に変わって、初めこそ見栄えを良くしなければとファッションに気を使うも次第に面倒になり、人前に顔を出せる程度でいいと考える女性もいる。後に後述することもあるかもしれないが彼女はそのパターンなのだ。話を戻すも櫻井にとって頭髪の手入れをしていない女性というのは恥ずかしいという感想。自分でさえ最低限の手入れはしているのにと、それ以上の興味を示すこともなく、三ノ宮駅で下車し大学に登校。興味を示さなかったせいか彼女も三ノ宮駅で降りていたことに気が付くことはなかった。


 午後からは他大学との合同チュートリアル。二週間後に控えた発表のためにメンバーが集合する予定ではあるが、櫻井にとってはそれが気乗りしなかった。高校時代から積極的な意見を出すこともなく傍観者を徹する役が多く、チュートリアルというのは櫻井にとっては苦手分野でしかないのだ。乗り気であるはずもなく、今日は体調が悪いとか適当に理由をつけて三ノ宮駅近くにあるゲームセンターにでも行こうと思案する。チュートリアルなんて発表当日の数日前から顔を出せば済む話、どうせ合同という機会は今回だけなのだからメンバーの記憶にそう残ることもないと櫻井らしい不真面目な考えを編み出していた。そうと決まれば同じグループの友人に断りを入れる。


「お前、絶対やる気ないだろ」

「来週からはちゃんと行くよ」


櫻井と違って行事にはしっかりと参加する友人、小林は苦笑しながらも櫻井の甘えを受け入れてくれる。小林にとって櫻井はやる時はやる男、そういう人間に写っているのだろう。許可も得られたことにより大学を後にして駅前のゲームセンターに向かう。ゲームセンターには高校生の時からよく通っていて、櫻井のお気に入りはなんと言ってもアーケードゲーム。ゲームセンター内で友人もできることもあり、櫻井にとっては良い空間ではある。もっとも一般からして、ゲームセンターというのは教育上よろしくない場所ではあるのだろうが、櫻井はそんなことを微塵も思わなかった。櫻井にとってゲームセンターとは唯一上の立場で居ることのできる特別な空間なのだから。


 高校生の時からゲームセンターの内部を見てきた櫻井、どういう人物像が集まるのかはよく知っていた。櫻高校時代の行きつけのゲームセンターには関西最強と呼ばれるプレイヤー、ハンドルネーム「ミッキー」が居たこともあり様々な利用者が存在し、その利用者の一人に櫻井も居た。ミッキーを含めて割かし年上が多かったものの、ほとんどがニート、もしくはフリーター。関西最強のミッキーも20歳ではあるが大学生でも無ければ就職もしていない、所謂ニート。大学生というのは数える程しかおらず、ましてや高校生は櫻井を含めて三人しか居なかった。残り二人の高校生もミッキーの中学時代の後輩であり、そのほとんどがミッキーの息のかかった人間と言えるだろう。それでも櫻井はそのゲームセンターを楽しんでいた。高校というのは義務教育ではなく、実力で行くもの。大学になれば尚更だ。たとえ、櫻井自身が三流大学の人間でもここの連中より遥かに上、それはこのゲームセンターに限らずともどこのゲームセンターでも共通して言えること。櫻井はゲームセンターという空間でゲームの腕ではなく、経歴を利用してヒッソリと優越感に浸っていた。ただ、櫻井の場合はしっかりとゲームの腕もミッキー一味から吸収していたが。その辺りはやはりゲーム好きの大学生なのだ。


 ウォークマンで櫻井の大好きなアニメソングを聴きながらゲームセンターに向かう途中、偶然にも今朝JRで同じ時間の電車に乗っていた少女を見かけた。彼女も三ノ宮近辺の大学に通っていたんだ、その程度の興味しか櫻井には湧かなかった。目の前で彼女の次の行動をその目で確認するまでは。


はじめまして、櫻井です。

私は小説というものが断じて得意ではありません、むしろ苦手な方です。

そんな私が何故小説を書こうと思ったのか。今はまだ触れないで行きたいです。


私が題材にした「落ちこぼれ」というのは具体的にどういうことなのか。

勉強ができなくて一流大学に通えず三流大学に通うこと。

まともに生活がする気もなく、毎日を家に引きこもったり、ゲームセンターやパチンコ店で過ごすこと。

様々な意味合いがあると思います。


けれど、たとえ勉強ができなくても。たとえ毎日が無意味な日常でも。

些細なことをきっかけに落ちこぼれから這い上がれたりするのかもしれません。


理想論ではありますが、是非とも最後までお付き合いください。

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