第148話「側を増やせ」 あるいは 「役持ちの形」
高岡はすっかり軌道に乗り始めていた。
荷が流れる。
兵が通る。
商人が集まる。
市が開かれる。
夢前川が増水しても、以前のように全てが止まることはない。
高岡は今や、
流れを繋ぐ場所になっていた。
そんな中。
季節は少しずつ冬へ向かっていた。
朝晩の冷え込みは厳しくなり。
高岡でも焚火の数が増えている。
荷方たちは厚着になり。
商人たちも冬支度を始めていた。
そして年の瀬が近付く。
万吉は一度姫路へ戻ることになった。
新年の挨拶があるからだ。
黒田家では一族や家臣たちが集まり始めていた。
屋敷の出入りも増える。
正月を迎える準備が進んでいた。
そんなある日。
職隆が万吉を呼び出した。
部屋には囲炉裏の火が揺れている。
静かな空間だった。
職隆は息子を見ながら言った。
「万吉」
「そろそろ側を増やせ」
万吉は少し首を傾げた。
「側?」
職隆は頷く。
「今のお前は抱えるものが増えた」
「荷場」
「高岡」
「小寺側との話」
「もう一人で動く量ではない」
静かな声だった。
さらに続ける。
「役を持つ者は人を置かねばならん」
「全部を自分でやるな」
万吉は考え込む。
確かに。
今までは自分で見ていた。
荷場も。
小屋も。
高岡も。
自分で歩き。
自分で見て。
自分で決めていた。
だが今は違う。
見る場所が増えている。
職隆は続けた。
「書付を持つ者」
「人を走らせる者」
「話を通す者」
「そういう者を置け」
「それが役持ちの形だ」
万吉は難しい顔になる。
しばらく考えた後。
ぽつりと呟いた。
「……増えると飯も増える」
職隆は思わず吹き出した。
「そこからか」
だが万吉は真面目だった。
「人増えると管理も増えるぞ」
「寝る場所もいる」
「飯もいる」
「動き方も決めないと逆に止まる」
職隆は少し黙る。
そして苦笑した。
「……確かにお前らしい」
普通なら違う。
まず考えるのは威だ。
見栄だ。
家格だ。
側仕えが増えることは力の証でもある。
だが万吉は違う。
人が増える。
整理が必要になる。
整理しなければ止まる。
まずそこを考える。
まるで荷場を見る時と同じだった。
職隆は囲炉裏の火を見ながら言う。
「だからこそ人を置け」
「全部をお前一人で見るな」
その言葉に万吉は黙り込んだ。
囲炉裏の火が揺れる。
高岡。
荷場。
山裾の小屋。
気付けば抱える場所は増えていた。
確かに。
もう一人で見切れる量ではない。
それは万吉自身も薄々感じていたことだった。
外では冬の風が吹いている。
年の終わりが近い。
そして黒田家もまた。
新しい年へ向けて少しずつ動き始めていた。
万吉にとっても。
次の段階が近付いていた。




