第146話 「商いの場所」 あるいは 「流れを止める者」
高岡は日に日に賑やかになっていた。
荷が流れる。
兵が通る。
普請が続く。
労役の者が集まる。
山民も行き交う。
谷道には絶えず人の姿があった。
見張り小屋もできた。
顔役たちも動いている。
水場の管理。
荷置き場の整理。
少しずつだが、高岡は一つの場として回り始めていた。
そして。
人が集まれば商人も集まる。
それは自然な流れだった。
干し物を売る者。
団子を売る者。
草履を売る者。
縄を売る者。
水を売る者。
様々な商いが始まる。
最初は便利だった。
荷方は団子を買う。
兵は水を買う。
草履もよく売れた。
皆が助かる。
誰も困らない。
だが。
人が増え。
商人が増え。
売り場が増えると。
別の問題が現れた。
「そこ通れん!」
「荷が詰まる!」
「道の真ん中で売るな!」
「縄運べねぇぞ!」
谷道の入口が混み始めたのだ。
荷。
商人。
人。
全部が混ざる。
以前は流れていた場所に、人が滞留し始めていた。
その様子を万吉は静かに見ていた。
荷が止まる。
人が避ける。
馬が詰まる。
しばらく眺めた後。
ぽつりと呟く。
「……流れ悪いな」
横で井上之正が苦笑した。
「今度は商人ですか」
万吉は頷く。
「道塞いでる」
真顔だった。
さらに続ける。
「荷止まると全部止まる」
それだけだった。
だが万吉にとっては十分な理由だった。
数日後。
高岡周辺の顔役たちが呼び集められる。
万吉は地面に線を引いた。
谷道。
荷置き場。
水場。
見張り小屋。
そして少し離れた場所を指差す。
「商い場所」
「作る」
顔役たちは顔を見合わせた。
万吉は続ける。
「そこ以外で売るな」
「道止まる」
理由は実に単純だった。
さらに。
「勝手にやったら罰」
その言葉に周囲が少しざわつく。
「罰まで付けますか」
顔役の一人が尋ねた。
万吉は頷く。
「流れ止めるからな」
真顔だった。
その場にいた者たちは思う。
この若は。
結局、何を見る時も同じだ。
荷も。
人も。
道も。
商いも。
全部。
流れで見ている。
だから分かりやすい。
どこを守るのか。
どこを分けるのか。
どこを止めないのか。
その基準がぶれない。
やがて高岡にお達しが出された。
商いは定められた場所のみ。
勝手な売り場は禁止。
さらに。
徴収する銭も定められた。
市の場所代。
荷を持っての通行料。
それだけ。
余計な取り立てはしない。
流れを止めぬための銭だけを取る。
その方針に商人たちは驚いた。
高い税はない。
理不尽な徴収もない。
だが。
売る場所は決められる。
つまり。
商いはしやすい。
商人たちも少しずつ従い始めた。
高岡はもう、ただの中継地ではない。
人が集まる。
銭が動く。
荷が流れる。
様々な流れが交わる場所になり始めていた。
だからこそ。
その場を整える者が必要になる。
万吉は高岡を見渡した。
流れは大きくなっている。
荷だけではない。
人も。
銭も。
商いも。
すべてが流れ始めていた。




