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第144話 「守り」あるいは 「見張り小屋」

高岡は少しずつ形になっていた。


夢前川の手前。


谷道東。


山へ入る前の中継地。


そこには今、人と荷が集まり始めている。


荷が運ばれる。


兵が休む。


縄が編まれる。


作業場が動く。


谷道も以前より整っていた。


夢前川が増水しても。


山道がぬかるんでも。


荷は完全には止まらない。


兵糧は送れる。


人足も休める。


荷分けもできる。


つまり。


流れが死なない。


その効果は少しずつ現れ始めていた。


黒田家中でも高岡を見る目が変わる。


「あそこがあると違うな」


「山が近くなった気がする」


「荷の流れが安定した」


そんな声が聞こえ始めていた。


以前はただの谷道だった。


だが今は違う。


荷が集まる。


人が集まる。


兵が休む。


高岡は少しずつ重要な場所になり始めていた。


そしてある日。


家臣の一人が万吉へ声を掛けた。


「若」


「高岡ですが」


「守りが要るのではありませんか」


万吉は足を止めた。


高岡を見る。


荷がある。


縄がある。


兵糧も置かれている。


流れが集まっている。


つまり。


敵から見れば価値がある。


狙う理由になる。


谷道。


夢前川。


山への入口。


ここを止められれば山側は困る。


万吉はしばらく考えた。


せっかく回り始めた流れだ。


止められるのは面倒だった。


そして地面に棒で線を引く。


高岡川。


周囲の山。


谷道の入口。


荷場。


流れ。


簡単な地図が描かれていく。


そして万吉は言った。


「山に陣でも置いとけ」


家臣が目を瞬く。


万吉はさらに続ける。


「あと川側」


「谷道の入口に見張り小屋」


「作ればいい」


あまりにも自然な口調だった。


だが内容は違う。


高岡を守るための拠点づくりだった。


家臣は少し驚く。


「そこまで作りますか」


万吉は頷く。


「流れ止められると面倒だ」


真顔だった。


さらに付け加える。


「見えるだけでも違う」


攻めるためではない。


威張るためでもない。


流れを止めさせないため。


そのための守りだった。


万吉にとって高岡は城ではない。


戦場でもない。


流す場所だった。


だから守る。


その発想の根底には、いつもの考え方があった。


――流れを止めない。


その頃。


高岡では新たな作業が始まっていた。


縄が編まれる。


荷が運ばれる。


谷道が整えられる。


木が切られる。


そして谷道の入口には見張り小屋が組まれ始める。


山側には小さな陣地も整えられていく。


少しずつ。


本当に少しずつ。


高岡は変わっていた。


ただ荷を集める場所から。


守るべき流れの拠点へ。


人と物を山へ送り続けるための場所へ。


万吉はその様子を静かに見ていた。


流れが生まれれば。


次は守る。


それもまた。


流れを作るための仕事だった。


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